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西陣織はパッションアセットになるのか?

今度、西陣織の有名な作家さんに取材をさせていただくことになり、京都の西陣織の博物館や美術館に事前リサーチに出かけてきました。各先で学芸員の人を捕まえて質問攻め、機織り機で30cmの作品作りを体験して、工場で職人さんとも話させてもらいました。

ところで、パッションアセットという言葉、皆さんご存じですか?「情熱の資産」という日本語訳になりますが、作り手の情熱や、保有する方の情熱などが注ぎ込まれている作品を「資産」として表現したものです。例えば、アート、ワイン、ウイスキー、時計、クラシックカー、ヴァイオリンなど、が分かりやすいでしょうか。日本固有のもので言えば、和包丁、高級木材、ジャパニーズウイスキー、日本酒など。コレクティブともいわれる、有名スポーツ選手が使用した道具、世界的に有名な文学作品の初版、ポケモンカードなどのサブカルチャーの品々もこれに含まれてきます。個人的にはスタートアップ企業もパッションの塊なので、これに入るのかな?と思ったりもしています。

既に明らかに財産として価値があるものもあれば、これから価値が確立される途上のものもあるでしょう。不動産、株式、国債、金(ゴールド)など、既に確立された資産に比べると金額換算される市場は相当に小さいし(世界市場は1/100以下)、購入から売却までの手続きも整備されていないのですが、社会の文化の醸成や、個人の人生の楽しみを彩るものとして、非常に大切な人類の財産、それがパッションアセットです。それぞれ、どういう「情熱」がつぎ込まれているかで言えば、

アート:魂を削って美術史を前に進めようと、美やデザインに挑戦し続ける作家の情熱。それを応援するコレクターの情熱。

クラシックカー:20世紀から今まで、時々の科学技術の最先端とデザインを注ぎ込んだメーカーの情熱。それを愛好して運転を楽しむ人達の情熱。

ヴァイオリン:最高の音楽を奏でるための楽器を創る職人の情熱。音楽をこよなく愛する多くの人達の情熱(No Music No LIfe! と、バンドやっていた弟に昔、言われた時にほだされましたw)

お酒:食文化を彩る酒の伝統を守りながら新たなイノベーションにチャレンジする造り手の情熱。食文化やコミュニケーションを楽しむ飲み手の情熱。

などなど。私は、ここ数年は数々のパッションアセットを研究、取材し、時には購入してきましたが、今回の私の興味は、西陣織という1500年の歴史がある日本の伝統工芸として誰しもが知っている織物への職人の方々の情熱、そして華道や茶道などを日常で楽しんでいる方達の衣類への情熱、そして外国人の日本への興味が、西陣織をパッションアセットとして確立させる可能性があるのかという点です。

私の母方の実家は名古屋紡績という糸を紡ぐ会社をやっているので、衣類に対しての興味は以前から頭のはじっこにあったものの、私自身は着物は二着しかもっておらず💦、正直ゼロから勉強です。詳しくは、数ヶ月後に記事にして発表しますが、今日はリサーチして得たもの、感じたことを書いておきます。その前に、西陣織とは、、、

「多品種少量生産が特徴の京都(西陣)で生産される先染(さきぞめ)の紋織物」の総称です。昭和51年2月26日付で国の伝統的工芸品に指定されました。 西陣の織屋は、平安朝以降連綿と積み重ねられてきた高い技術の錬磨に加えて、優れたデザイン創作のための創造力や表現力への努力を重ねています。*西陣織工業組合HPより

です。西陣の名は、応仁の乱後に西陣(山名宗全側)に職人が根付いたことが由来です。多品種少量!資本主義の真逆であるこのワードを聞いただけでテンションが上がる私がいます。不動産の一点もの、結婚相手の一点もの、アートの一点もの。他に変えがないからこそ情熱が込められる。さて、資料やHPでは色々学んだものの、口頭で聞いたもの、実際に見たもので印象に残ったものは以下でした。

・最高峰の織物である絹織物の世界的な産地といえば、京都の西陣、フランスのリオン、イタリアのミラノ、チェコのイエセニーキ。西陣は1500年、ミラノは800年、リオンは600年。京都の織物の歴史すごい!

・和装が減っている中で、かつての中心であった「帯」からの業態変換に工夫を凝らしている。家の壁紙、タペストリー、カバン、財布などの小物、傘、ネクタイ、アートなど。時代に合わせて民間企業が創意工夫を凝らすのはどの業態も同じですね。

・1980年代バブルが多くの織屋で出荷額の最盛期。単価が高いものから売れ、その価格も釣り上がった時代だった。やはり帯は嗜好品なので、景気の影響を大きく受けるわけた訳ですね。

・協会には2000件の織屋が登録されていたが、廃業が相次ぎ、現在は相当数が減っている。子供には継がせたくないという当主は多い(食っていけないため)。後継者と技術伝承、伝統工芸はどこも同じ悩みを抱えているようです。

・基本は問屋経由で販売してデパートなどの小売りで売るが、昨今は織元から直売も多い。末端の小売店だと織元からの売値の3倍することもある。もちろん商品の目利きや提案があるので高くなるのは当然ですが、けっこう驚き。

・明治維新後、フランスの発明のジャガード機を留学生を送って導入したことで、西陣織の生産性と技術力が大きく上がった。初めは、なんだ伝統工芸といいつつ外国の技術が入っているのか、とネガティブに思いましたが、工場を見学して全く考えが変わりました。伝統工芸です。。。またジャガード機の発明は1815年で日本に入ってきたのは数十年後なのであまり差がない。岩倉使節団などが「欧米には数十年の遅れ」としていたのが正にこれかと。

・西陣は金糸や金箔が大好き。僕もゴールドが埋め込まれているネクタイを一本買ってしまいましたw

・先進国の繊維工業、特に伝統工芸はどこも非常に苦しんでいる。世界の需要をいかに掴めるか、新しい提案ができるかが、生死を分かつ。

最後のポイントが、正に私が探求したいところでした。西陣織の帯を芸術品として買っていく外国人は既に出てきています。あたかも日本の包丁やウイスキー、日本の株、日本の不動産を外国人が買っていくかのようです。

逆に日本人は、フランスやイタリアの革製品や衣類のブランド物を高値で買っていきます。そしてご存知のように、シャネルやエルメスの製品は、中古であろうと値段が上がり続けています。圧倒的なパッションに支持されているからです。日本の西陣織はそうなれるポテンシャルはある気がします。

日本の伝統工芸は日本人で支えるべきなのか、世界に支えてもらうべきなのでしょうか。フランスの伝統工芸はフランス人で支えるべきなのでしょうか。日本では新NISAが盛り上がっていますが、どこの国の資産を持つべきなのでしょうか。フランス人であったらどうなのでしょうか。

パッションアセットの視点で考えると、日本人の資産運用の方向性や、経済や資本市場における鎖国と開国への正しいマインドセットが見えてきそうです。それでは数ヶ月後の完成記事を楽しみにお待ちください!

<お勧めの博物館・美術館>
手織ミュージアム 織成舘 https://orinasukan.com/
西陣で現場の工場を公開している唯一の場所とのこと

西陣織あさぎ美術館
 https://asagi-museum.jp/
美術に舵を切っている織元の姿を見ることができます


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