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6月の米雇用統計 ― 史上最高の雇用統計の憂鬱 ― 中原駿 特別コラム

米労働省が発表した6月の雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)が前月から480万人増となり、1939年の統計開始以降で最多。失業率は11.1%と、5月の13.3%から更に改善した。

この数字だけを見ると、史上最高の雇用統計だった―という事も出来るだろう。にもかかわらず、マーケットの反応は薄かった。それは一体何故なのだろうか。

1つ目は雇用回復が持続的とは思えない―という点にある。

より具体的には、雇用増加の中身が劇的に悪化したサービス業、特にレストランやバーの営業再開に拠るものであったという点は重要である。

雇用は6月に幅広い分野で拡大し、小売、製造、建設、教育などが堅調に増加。政府部門も小幅増加した。レストランやバー、ジム、歯科医院などの営業再開に伴い、一時解雇されていた従業員が職場に復帰したことが雇用の伸びにつながったとされている。しかし、その中身はレジャー・接客業で210万人増と、全体の増加数の約5分の2を占めている。しかも、復帰したのは低賃金の従業員に過ぎない。これは、時間当たりの平均賃金が前月比で1.2%低下したという事からハッキリと把握出来る。更に復帰した割には、平均週間労働時間も前月の34.7時間から34.5時間に縮小している。つまり、6月の雇用増加は、経済好転を見込んだ一時的雇用の回復に過ぎず、それは、いつでも再度雇用を打ち切れるようなサービス業の雇用増加に過ぎない―という見方になる。しかも、6月に多くの飲食店などのサービス業が動いた結果、多くの州で感染が再拡大しているのだから、単純に喜べないのは当然であろう。

2つ目は雇用統計自体の問題がある―という点。コロナ禍で発生した「雇用されているが休職中」の人の扱いが依然としてかく乱要因となっているのだ。

米労働省によると、こうした問題がない場合、6月の失業率は12.1%であるという。休職は、基本的に賃金が発生しないので、こうした人々も実質的には失業者といえる。つまり、見かけ程にその実態はよくない―という見方にある。

3つ目は、統計後の状況悪化―という点。今回の統計には、6月にカリフォルニアやフロリダ、テキサス州などで始まった新型コロナウィルスの感染者数急増の影響は含まれていない。

冷静に見て、6月は嵐の前の静けさに過ぎないだろう。

NY州にみられるように、感染拡大州と感染縮小州には大きなスタンスの違いがある。NY州は感染拡大州からの旅客に14日間の待機を命じている。これは、アメリカ合衆国自体が国内に壁を作っている―あるいは国境を作っている事に他ならない。こうした米国内国境は、経済再開に関しては大きな阻害要因となる筈だ。

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