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がんばれ、夜々ちゃん

具合が悪くてバッとしない頭にうつらうつら浮かぶのは、夜々ちゃんのあのセリフ。

「相手に届く前に変換されちゃうんだよ」

大学に入ってすぐ、仲良くなった子が彼を紹介してくれた。
ものすごっく美人な子で、彼がメロメロなのもよくわかる。ラブラブでいいねーと思ったのに。

「あれから彼がakarikoの話しかしなくなった」

次に会ったときに、責めるような目でそう言われた。

え?なんで?

たかだか20分ぐらい喫茶店でお茶を飲んだだけだよね?

それから少し経って気が付くと、
「akarikoに彼を紹介すると取られる」
「誘惑される」
そんなふうに言われるようになっていた。

仮に、彼が本当に私に興味を持ったのだとしても、それは彼の側の問題で、私には微塵の関わりもないこと。
じゃあねと別れたそばから、私には圏外の人。

地元の男友達を紹介してくれた子が、開口一番に、
「可愛いでしょ?だからみんなすぐ好きになっちゃうんだよね!」と言ったときには、ああこの子は嫉妬しないんだ、味方なんだと素直に思ったのに、それは単純に、かなり濃密な嫌味だったと気付くのは、それから何年も後のこと。

こう書いていても、自慢だ、嫌味だと取る人はいるだろう。
恐らく同じ経験をした人は誰にも言わず、誰にも打ち明けずに口を閉ざす。
そういう子たちはみんな黙ってやり過ごすのだろうから、同じ思いを共有できる人には出会えない。

それがこのところ、ドラマの中で、うんうん、わかるわかる、そういうことなんだよと思える描写が増えてきた。
時代の力なのか?
我慢してきた人たちが、物言うようになったということなのか?

「顔がいい」ことでさんざん理不尽な目に遭ってきた夜々ちゃん。
『やわ男とカタ子』の久美ちゃんもだけど、彼女たち、「顔がいい」だけじゃない。中身も可愛い。
それなのに、「顔がいい」ことに嫉妬する人たちは、それ以上いいことがあってたまるか!とばかりに中身の良さを見ないふりして、打ち消して、陰口を囁き合うのだ。

あーいやだいやだ。

しかし、私と夜々ちゃんには決定的な違いがある。
(「顔がいい」のレベルがダンチなのはこの際傍に置いておいて)夜々ちゃんは「嫌われたくない」と思っていて、「ハブられたくない」とも思っていて、それが証拠にグループのリーダー的存在にまでなっていたという。

びっくりだ。

私はといえば、「嫌われたくない」と思ったこともないし、「ハブられたくない」と思ったこともない。
思うも思わないも、あれはそう、夜々ちゃんが言うところと同じ小学校五年生になった時、ピタッと同性から総スカンを喰らうようになった。

「あなたのせいで男子が変わったから」

というのが彼女たちの主張。

なんじゃ、それ。
私は何もしてない。
ただそこに、教室に、自分の席があるから、そこにいただけだ。
積極的に男子に話しかけることもなければ、意図的にふるまうこともない。
物心ついた時からずっとそうしてきたように、目立たないように、目立たないように、それだけを考えて過ごしていた。

それなのになぜ?

別にハブられても構わない。
嫌われても構わない。
わかってくれる人はわかってくれるのだから。

それが私のポリシー。

恐らくそれが、一番彼女たちの苛立ちを強くした原因なのだろう。
不思議に思っていたのだ。
私よりずっと可愛いのに、スタイルもよくて綺麗なのに、いじめられない子がいるのはなぜか?
それは、私は性格が悪くて、その子はいい子だからなのだと思うようにしていたけれど、そうではなくて、あの子たちはきっと、夜々ちゃんのように、嫌われないように、ハブられないように、必死に気を遣っていたからなのだ。多分。

女の子6人も7人も毎日かたまってよく飽きないね・・と遠目に眺めていたあの子たちも、もしかしたら、嫌われたくないから、ハブられたくないから、自分を誤魔化して周りに合わせていただけなのかもしれない。

なんて窮屈な。
かわいそうに。

そう考えると、誰に仲良くされなくても、一匹狼で、意地悪も嫌がらせも悪口もどこ吹く風で、飄々としていた私のことは、相当妬ましかっただろう。
いや、羨ましかったのだろう。

『いちばんすきな花』では、移動教室の憂鬱がたびたび語られているけれど、あれも、私には、えっ?みんなそんなこと考えてたの?という話で、女子が何かというとトイレに誘い合っていくのもわけわからないと思っていたし、移動する時はさっさと一人で行ったほうが楽、ずっとそうしていたから、あれを負担に感じる子がいるなんて考えたこともなかった。

とすると、いつもみんなに囲まれて楽しそうにやっていたあの子も、もしかしたら、「いい人なんだけどね」と言われる悩みを抱えていたのかもしれないし、「便利なやつだよね」「調子がいいからな」などと言われても、友達に囲まれていた方がいいからと、いろいろな思いを飲み込んでいたのかもしれない。
そんな子たちのことを考えたこともなかった。
想像したこともなかった。

生方さん、30歳。
デビュー二作目。
いったい人生何周目なの?という深い洞察力。
あっぱれと思う。

優れた脚本は、様々なことを気付かせてくれる。
そしてそれは、受け手によって異なる。
そこがドラマのよさなのかも。

夜々ちゃんのこれからが楽しみ。
がんばれ夜々ちゃん!


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