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短編小説「ロキは我が子を愛せられるのか?」

初夏の風が吹き溢れる頃、とあるタワーマンションの中層階に住んでいる俺は会社勤めから帰り、1人でダイニングを飾り付けていた。身長は176cmで中肉中背の30代半ば、黒髪のツーブロック、瞳は茶色で目はハッキリ開いている顔が整った男はとある方を祝うために丁寧に作業していた。上は白のラグランTシャツ、下は青のジーンズで緑の格子のエプロンを身に付けていかにも家庭的な雰囲気を醸し出しているよな。
テーブルクロスは新調して、壁にもデコレーション、料理は前日から仕込んで、ケーキは近くのパティスリーで予約したのを冷蔵庫で冷やしている。勿論、誕生日プレゼントも用意して自室に隠して、夜も更けた中で今夜の主役が帰宅した。

「おかえり、かーくん。風呂に入って綺麗にしてよー。」
「分かったー。」
息子の薫が帰って来た、身長は最近160cmを超えた細身で、地毛の茶髪に俺に似た瞳を持つかっこいい少年は今日で12歳。塾の通学バッグを背負って、オレンジのTシャツとベージュの膝上短パンの彼は小学6年生になってバレーボールクラブに所属しているのと塾に通っているから帰宅時間は遅い。すくすくと成長しているのは喜ばしいがそんな彼と俺に秘密がある。そうして、薫は風呂を上がり、青色のTシャツとズボンの部屋着を身に付けてダイニングに来た。
「凄い、僕の好物が!」
「ほらほら、席に座って。」
「ありがとう」
2人暮らしだから、御馳走でも品目は少ない。それでも、小躍りしてはしゃぐ薫の笑顔を見ると本当に嬉しくなった。最近、大人びてきたと思いきや、無邪気な彼を見ているとまだまだ子供なんだなと思う。しかし、この時はまだ薫の本心を知らなかった。この笑顔は仮初の喜びで作り上げられていた。

「それでは、かーくん、誕生日おめで…」
「ねえ、僕の本当の父さんは今どこにいるの?」
薫が自分の12歳の誕生日に告げた言葉は、今年で6回目だ。ダイニングのテーブルには山盛りのフライドポテト、野菜たっぷりサラダ、切り揃えたパリジャン、それに好物のクリームシチューも大量に作ってある。俺と薫は真向かいに椅子を座って、そろそろご馳走を食べようとした時にそう発言した。小学生になってから毎年繰り返す台詞に何と言い訳するのか戸惑う。
豪華な誕生日ケーキを用意しても、欲しかったプレゼントを用意しても、行きたかった場所に連れて行っても、祖父母が訪ねてきても、去年は俺が偽装した父からの手紙を用意しても変わりやしない。薫が最も欲しいのは本当の父親と過ごす時間だと理解しているが、それには応えられない。事実を教えても薫は受け止められない、それはこの世に類例がないのだから本当にしょうがない。

「かーくん、お前の父さんは海外で働いているからなかなか帰れないんだよ。」
「嘘ばっか、海外ってどこだよ。」
「えっと…それは…」
「ほら、言えない。アメリカなら飛行機の便が多いし、中国や韓国なら近場だから行きやすい。アフリカや南米でも乗り継げば出来るだろ!」
ほらね、薫は激怒してリビングから自分の部屋に閉じこもってしまった。実際に薫の父親は海外勤務しているが俺だって言い訳はしたくない、でも言えない。
だって…

俺は拝島元雄、とある医薬品メーカーのサラリーマンで最近係長になった。しかし、他の奴らと違うところがあり、それはとある特殊能力が使える話でそれは1人で隠していない。
発現したのは今の薫と同じ頃の下校途中、当時の通学路で誰かの家に飼われていた今でも思い出すと恐ろしい番犬に立ち向かった時。あれは今思い出すと土佐犬だったけど、躾に困っていたらしく門からよく吠え、朝は散歩中なので素通りできるが夕方にここを通るのを児童の誰もが躊躇っていた。
俺はどうしてもここを通らないと家に帰れなかったから吠えられない対策をいつも考えていた、それは2歳年下の妹である佐綾を安心させるためで小学校ではいつも自分が犬嫌いだからと言い訳してクラスメイトからの意見をも募ってアイデアを練っていた。どんなアイデアを駆使しても、あの犬には吠えられてしまうから佐綾がそれで不登校になってしまった。
俺がかっこいい服で毎日登校してクラスメイトに自慢するように、佐綾も可愛い服で登校するのが楽しみだったのにあんなふうになってしまって悲しくなる、そう頭を抱えていた時にテレビの動物番組が狼特集を見ていた。その勇敢さを眺めているとあの犬に立ち向かえそうだと閃いたが、なんせ日本に狼は野生にいない、動物園から借りるなんて親に言ったらカンカンに叱られた。

そんな失意の中、俺は学校に行きたがらない妹を後目に登校して放課後を迎えたが、その日は俺が図書委員で同じ方面に帰る同級生は全員帰ってしまった。一人ぼっちであの家直前に差し掛かり怖くなって涙が出そうになった時、昨晩見た狼を思い出して身体が燃え上がる感覚に溺れた。爪は伸び、体毛は濃くなり、耳は頭の上まで移動して尖り、鼻も伸びてマズルになり、身体が四足歩行になり、体格は大きくなって尻尾が生えた。服やランドセルはちぎれることは無かったがきつかったのも覚えている。
突然の出来事の後、俺は足元を見て自分の姿が何かおかしいと感触を得たが、それよりも記憶には残っていない久し振りの四足歩行が思ったよりも安定しなかった。それでも動きづらい身体の中、あの犬に近付き威嚇すると予想通りでは無かったが門から静かに離れた。
この時、俺は一体何があったのかまだ理解していなかったが、通行人が俺を見るなり「なんだあれ、狼か?」と叫んだので一旦角の裏路地に隠れた。潜んでいる間に、自分が今は狼に変身していると気が付いたのでさっさと戻れないかうずくまって10分経ち、ようやく元の姿で帰宅できた。

家に戻ったら、おふくろに遅くなった言い訳をするのに手間取ったがこれで佐綾が再び登校できると楽観視していた。翌日、佐綾に声を掛けて久し振りに登校したが放課後にまたあの犬は吠えたので、佐綾は号泣した。その後に「お兄ちゃんの嘘つき!」と言いながらビンタされたのを覚えている。1回では効果が無いと悟った俺は、放課後にある作戦を決行した。
おふくろには帰宅するのは遅くなると予め伝えて、用事があると友達に嘘をついて学校の裏門の近くで1人になり、今度は服をランドセルにしまって裸になって狼に変身した。ランドセルをその場に置いて、同級生にバレないようショートカットであの家の前に近づき、誰もいないを見計らってまたあの犬に姿を現した。俺が威嚇すると犬はやはり黙り小屋に戻ったのを確認すると直ちに学校に戻り、今度はすぐに元の姿で帰宅した。
ただ、これでは狼になった俺には効果があるけど何も解決しないと気が付いて、自分が攻撃すればいいかと思い付くもそれは可哀想だと断念した。そして、何より自分は狼人間だと思い込んでいたが、それは直ぐに覆された。

帰宅後、家族でテレビの音楽番組で佐綾がお気に入りであった男性アイドルに釘付けになっていた。風呂に入っている時に、彼が少し鍛えている姿が自分にもカッコイイと感じたら突然背が伸びて、髪色も変わり、声も低くなり、顔つきが、いや全てがあのアイドルそっくりになって驚くしかなかった。風呂場で叫んでしまったのでおふくろが駆け付けてしまうものの、すぐに戻れたのでバレずに済んだ。
この時、自分は狼人間ではなくて変身能力を持った人間だとようやく理解した。それから、あらゆる猛獣に変身してあの犬を黙らせる作戦もやってみたが効果は無く、仕方なく佐綾にはこの力を暴露してテレビで見た格闘家に変身しながら下校することでやっとあの犬を宥めることに成功した。
佐綾は俺が小学校を卒業しても登校できるようになった。そして、「お兄ちゃん、佐綾のために頑張ってくれてありがとう。」と感謝の気持ちを告げられた時は本当に嬉しかった。俺と同じ色の瞳がキラキラと眩しく輝いていたのを忘れられない。

それからこの力を試してみて衣服は固定されるのは知っていたけど、どうやら生物のみに変身できることと自分が思いついたものにはなれないと判明した。両親にもそれを伝えたら、実はおふくろが風呂場であのアイドルになったのを見てしまいあれが現実なんだと理解を示したが、親父は事態を飲み込めなかった。
そりゃ、大病院勤務の産婦人科医である親父は堅物だから悩みの種になるな。おふくろは家で料理教室を開いているから、すぐに俺の能力をバラしてしまい、テレビの取材を断ろうとする親父の姿を見て初めてかっこいいと思えた。

そして、俺と佐綾は学区内の中学校に進学した。中学時代はソフトテニス部に入部して汗を流すようになり、高校では硬式テニスに切り替え、大学は真面目なテニス部でとある出来事まで副部長になるまで活躍していた。この能力は強豪選手に変身して彼らの身体能力を如何に自分に落とし込められるのか自主トレーニングに取り入れていたので、高校時代にはインターハイでベスト8に届くまで活躍した。
また、その能力を友達の何人かに話したら、案の定悪戯を提案した。でも、この力は妹を守るために目覚めたからそれを裏切る真似は絶対に出来ないと突き放したが、あまり使わないと力が衰えるのでコスプレ感覚では何度か付き合わせた。それでも、お触りだけでキス以上は禁止と約束してもらったので、男子のみならず女子からも人気が出ていたが自分のアイデンティティが揺れてしまい、進学先は同級生が行かないような進学校を選択して見事合格した。

高校時代になると、反抗期になっていたので距離があったものの初めは理解してくれなかった親父が俺みたいな特殊能力を持つ人の自助会を紹介して、入会して会員になりそこで交流するようになった。そこで、俺と同じく変身能力者と出会い、どのように日常を過ごすのか更に理解を深めた。
その中で、貞操についても情報を手に入れ、月経の時期は変身能力が止まるが妊娠出産についてのデータが無いらしい。実は中学時代に一線を越えかけたが、すぐにボディビルダーに変身してその場をやり過ごせたエピソードを伝えると慰められた。本当に俺みたいな人はそれを悪用されるから要注意しろと言われたがこの時は本気にならなかった。
また、この時は能力を学校では隠した。それはまだ法整備されていない特殊能力、それを悪用して法の目を掻い潜る連中も少なくないを自助会で話していたから、もう一つは中学時代からの悩みであったアイデンティティを確立のために。

しかし、人生初の彼女が出来た。高校1年生の秋、高校の最寄り駅で財布を落とした時に拾ってくれたのが出会いだった。同じ高校の一学年上であったロングヘアーが麗しい先輩は、受験で燃え尽きてしまって成績が不安定だった俺の勉強を高校の図書館でサポートしてくれたおかげで、俺は上位に上り詰めた。感謝と先輩の女性らしさに惹かれて、冬休み直前に交際を願ったら俺の家で勉強会は続けるのを条件で叶った。
その頃、能力を自助会や自宅以外で披露することはなかったが、高1の春休みに先輩とのデートの待ち合わせに遅刻してしまい、待ち合わせ場所に向かおうとしたらチャラそうな男性3人が先輩にナンパしていた。怯える先輩を見ていても立ってもいられなくなり、同級生で柔道の強そうな奴に変身して「すみません、自分のツレです。」と彼らを追っ払った。騒ぎにならないように、この場から離れて裏路地に入ったところで呆然とした先輩の前に全てを打ち明けた。
「元雄くんなの…?どういう事?」
元の自分に戻ると先輩はまだ受け入れていなかったが、自分を助けようとした気持ちは理解を示してくれたので、落ち着いてから俺を正面から抱き締めてくれた。

「ありがとう…」
先輩の瞳から零れた涙が頬を伝って、俺の上着を濡らした。赤面になった俺は今一番可愛い彼女をもっと知りたい、もっと温もりを求めたい、もっと深く愛したい、そう考えると一線を越えたくなる。けれども、妹の顔を思い浮かべてしまい、その日は目的地の遊園地に直行したが、観覧車の中でファーストキスを交わした。先輩が俺の能力に理解を示して、自分の悩みを打ち明けた時に「それでも、元雄くんは元雄くんだよ」とまた抱擁してくれた時に感極まってしまい、口と口を合わせる甘酸っぱい接吻が止められなくなった。帰り道、俺は愛を知る手段はキス以外にもあるのを知っていたのでドラッグストアでコンドームを眺めていた。かっこつけたので店員が尋ねても無視した。

そして俺が2年生に進級して間もない頃、いつもは自宅で開いている勉強会がある日、先輩の家で行われた。何故なんだろうかと疑問を感じていたが、部屋に招かれた時に有頂天になった。先輩の家はお兄さんと2人暮らし、ご両親はアメリカで働いているらしく、先輩が高校2年生の頃に移住したので毎月の家賃や光熱費も負担している。その日、自分の悩みもスラスラと答えてくれた先輩がいつもよりも色っぽく見えた、先輩の部屋にいるからだろうか。そして、いつもよりも早めに切り上げたその時に先輩から大胆な提案を差し伸べた。
「ねぇ、私の身体を好きにしてもいいよ。」
あの先輩が?嬉しさと佐綾への申し訳なさに挟まれたが、俺は期待だけでなく下半身も膨らんだ。そして、先輩の願いで2人ともシャワーを浴びて清めた後にまた部屋に戻り、ベッドに腰掛けてキスをした。

それから先は勢いが止まらなかった、裸になった2人は声を漏らさないように抱き締めて先輩の身体を拙く弄っていたのは今振り返っても恥ずかしくてしょうがない。遊園地デートからコンドームを用意していたのでこの先も大丈夫だったので、いざと言う時におれは装着して下半身で突入したが、痛がり苦悶の表情を浮かべる先輩にたじろいでいた。
お互いに未経験だったが、俺も先輩も知識だけが先走っていた。思い通りにならなかった初体験は俺だけが気持ち良くなってしまい目一杯詫びたが、それでも優しい先輩にときめいてしまい、この時は真意を理解していなかった。

それから、勉強会やデートで肉体関係を入れるようになって、俺が変身してからも身体を重ねるようになった時に事件は起きた。ある日、初めて先輩のお兄さんに出会った。彼は大学生で、大学受験勉強について教えてくれる名目で勉強会に参加して、先輩並みに教えるのが得意なので尋ねたら家庭教師のアルバイトもしているらしい。ところが、先輩が修学旅行の日にも勉強会を開催されたので先輩の家に招かれて、お兄さんの部屋に着いてからとんでもない事を言われた。
「今、僕の元カノに変身できる?」
そう言われて、俺は直ちに変身した。全身が映った写真を見せてられて、一瞬に再現できる程に俺は上達していた。お兄さんに俺の能力は打ち明けている、先輩とドッキリで先輩に成りすまして接した事もある。その時は本当に翻弄させて申し訳ないと思いきや、結構バレやすいと言い返されてぐうの音も出なかった。

久し振りにお兄さんの前で変身するのだが、その後に突然唇を奪われた。先輩とした時よりも、力強く舌を絡め合う大人のキスに心も奪われて、この先も求めたくなってしまった。よく考えると、元カノさんが着るはずがない男子の制服のままで求めていたのはそれぐらい別れをしたくなかったんだろうと考えられるが、当時はそんなことを思いつきもしなかった。そして、その日はお兄さんに言われた通りに過ごした、裸にされて俺が先輩にしているような愛撫をお兄さんにされて下半身で繋がった。
先輩の痛みをここで理解した、それでも俺は嫌がらなかった。それは俺が何度もあらゆる女性に変身するようになって、性を越えた変身に心が拒絶しなくなったから。お兄さんにもそれを指摘されて以降、女体の快楽を求め出してしまい身体を捧げるようになった。先輩にバレても大丈夫なのかと言うと、実は先輩が俺の変身能力を知ってから邪な考えが閃いてしまい、兄にも共有できるかなと欲望を持っていた。そのように先輩はお詫びしても俺は関係性を崩したくなかった、それは俺が先輩のお兄さんも求めてしまったから。
だから、同じ日に先輩とした後で女性に変身して兄とすることもざらにあった。どっちが気持ち良いと考えるよりも、どちらも気持ち良いと思っちゃうから俺はこの秘密の関係を続けていた。それは1人で致す時もだった、男でも女でもするようになると、時間があっという間に過ぎるので頻度は多くなかったけれども。そう、俺は高校時代に男としても女としても大人の階段を上った。

しかし、いつものように先輩の家に行くとお兄さんと喧嘩していた、勉強そっちのけで肉体関係を続けていたので先輩の成績が下がってしまった。これは俺もそうでおふくろにとやかく言われたので、直談判しようと駆け付けたが時は既に遅し、このままの関係を終わらせなければいけなくなった。
今は恋愛なんて止めよう、先輩とは距離を置かないと先には進められない。2人に別れたいとお伝えしたら、こちらもオレをおもちゃ扱いしていたのを深く反省して別れ話を完了した。自助会にもこの話をしたら、冷ややか目線になっていたのを忘れられない。だから、俺は大学時代に健全なテニス部を選択してサークルを真面目に盛り上げていた。
こうして退廃的な交際を終えて、俺は勉強に再び本腰を入れ出した。教わった部分は頭の中に入ったので、成績はまた上昇して一安心した。大学受験まで恋愛と能力は控えるようになった甲斐があって、志望校の有名な難関私立大学に現役で合格できた。一応、先輩とお兄さんの連絡先は消していなかったのでメールで報告したら大変喜んでくれた。ありがとう、そしてさようなら。

大学生になって再び能力と向き合い出した、自助会に行く頻度を多くすると今度は自分が同じ能力の方にアドバイスするようになった。中高時代のしくじりを教えていると、自分が能力について軽く考えていたのを後ろめたくなった。この能力は悪用できる、勝手に他人の人生を奪うことも出来る危険な能力でもある。だから、自助会では「性」について厳しく捉えているとやっと理解したが、それでも元々覚醒した理由である「人助け」に応用できないか思案していた。

話は変わって、大学生活は色々大変だった。大学に入ってすぐにまた彼女が出来たかと言えば、浮気されてしょげていた。その彼女とは別れたが、またすぐに彼女が出来ると自分はモテ気質だと悟った。髪型は高校までボブカットだったのを、ショートウルフにしたのも影響があるのだろうか。学部は父親と異なり医学部ではなかったが進学を許してもらい、勉強に追われて、サークルに追われて、社会勉強でアルバイトにも追われていたが楽しかった。
だが、その裏で女体での快楽を欲しがる自分に苦しんでいた。1人で果てても、高校時代のような温もりが得られないのでつい大学の同級生に変身して逆ナンしたくなるが、自助会の目が怖いのでそれは諦めた。

そして、妹を守るためにまたこの力を使う機会が来た。この頃の俺は大学3年生になって就職か大学院に進学するのか悩んでいたが、佐綾は大学1年生でその先は目を背けるように初めてのキャンパスライフを謳歌していた。
佐綾との関係性は、土佐犬の件から能力を使って妹を助けるようになって、ある時は好きなアイドルに変身してツーショット写真を撮ったり、またある時はどうしても飼いたかったボルゾイに変身して散歩させられたりと彼女の願いに答えたが、中学2年生の夏休みに悲劇が起きた。
同級生を何人か家に招いて、人気のグラビアアイドルに変身してお触りさせていたが部屋の扉を閉め忘れてしまい、佐綾が友人にそろそろ帰宅すべきだと知らせようとしていた時に、同級生に胸を揉まれた瞬間を見られてしまった。佐綾は冷ややかな目線、俺と友人は真っ青になって時が止まった。こうして、佐綾は一時期男嫌いになってしまい、中学時代は女子としかつるまず、高校は女子校に進学した。

しかし、大学は俺のとは別の共学校に進学した。父親と同じ医学部に進学したかったのだが、如何せん医学部のある女子大は一校しかない。そこで選択肢を広げるために男嫌いを治そうと、俺が変身能力で様々な年代の男性になって接するようにさせるトレーニングを試した。初めのうちは幼児にしか慣れなかったが、苦労の末同年代以上の男性に打ち解けられるようになった。高校まで黒髪でおさげだった佐綾は、大学入ると髪色を焦げ茶にしてミディアムボブのソバージュに切り揃えて、明るさを出すようになった。

ところが、大学に入って人生初めての彼氏が佐綾からの別れ話を拒むどころか付きまといを始めてしまい、また家に引きこもるようになってしまう。彼氏は違う大学に通っており、たまたま合コンの数の埋め合わせで誘われた時に一目惚れした。チャラそうな外見である他の男性とは異なり、黒髪でセンター分けのミディアムカットに黒縁の眼鏡をしていた俺と同い年の彼なら人畜無害だと錯覚してしまい、その夜に連絡先を交換しただけでなく一夜を共にした。
これが佐綾の初体験で、朝帰りになった時におふくろからかなり叱られていた。その有り様を見て俺は心配していたが、この時の佐綾は浮かれていたので気にしていなかった。彼とのイチャイチャ話は飽きる程聞かされていたのだが、想定外の執着心に耐えられなくなったと言う。

そこで、俺が佐綾になってしばらく彼氏と付き合い別れさせる作戦を佐綾が持ち上げた。顔付きは佐綾の方がやや目が細かったのだが、再現には困らなかった。佐綾は身長が160cmよりやや低く、彼は180cmを少し上回るらしく俺よりも大柄の男であったが気にしていなかった。また、肝心の大学は俺が理工学部に進学して、医学部も1年生は座学中心なのもあってか追いつくことは可能だったが、俺は休学を選択した。勿論、両親からはかなり頭を抱えたけどね。
だが、この覚悟が運命の分かれ道とは、あの頃は何にも思い浮かばなかった。

「妊娠2ヶ月…、本当に…?」
「本当だって、ちゃんと診断書もあるから。」
大学4年生の夏が到来、俺は佐綾の姿で彼氏とこんな会話をしたくなかった。あいつが戸惑っている中、俺は熱の篭った体で真剣な話を進めた。何故、こうなったのか詳しく説明する。
初めて会った時に騙されていた、佐綾から性格や趣味、特技も聞かされていたが大人の恋愛を熟知していなかった俺はまんまと抜け出せなかった。人当たりだけは爽やかなあいつは無責任だった、執拗に肉体関係を持ち掛けて断ろうとしても、テクニックが上手くて元の姿に戻りたくないと考えてしまう程。
佐綾は確かにキスから騙されていたと仰っていた、経験人数も二桁らしいが初体験は俺と同じく高校時代だった。何が違うんだ、そんなに女性をモノ扱いしているあいつにキレそうになったが、俺もふざけた交際をしていたので何も言えなくなった。

何より、彼は避妊用を使うのが躊躇うのでこっちが用意しなくてはならないとかなり怒りを隠しきれなかった。こんな事もあろうかと佐綾はコンドームを使ってくれない時に避妊用ピルを使用していたのだが、そろそろバレそうなので俺を身代わりにしたのはこの事も含めていた。自助会からピルを使用すると元に戻りにくくなるからと念を押されていたので、俺は使わなかった。こうした甲斐もあって、あいつからピルについての質問を躊躇せずに答えられた。
しかし、高校時代に女体での快楽を知っていたので抜け出すのは困難だった。俺だって彼女はいたけど、この時のために別れていた。本当に苦渋の決断で別れ話をする時は2人とも頬に涙が伝っていたな。

俺が提案した、佐綾と同行して腕のある格闘家に変身した時の俺を兄として紹介すればいいと言う案は、彼が誰もが知る大企業の社長御曹司でかつハッキングが得意なのでバレてしまうと言われて没になった。おまけに、彼は護身術をある程度使いこなし、中学からテニス部で格闘技や武道は授業だけで学んだ自分では太刀打ちできなかった。
実際、ネットストーカーとしても佐綾に付きまとっていたのでアカウントを消しても意味は無いらしく、今の作戦では佐綾のスマートフォンやSNSのアカウントは自分が運営している。それでなんとか入れ替わりに気が付かれなかったのは2人とも安堵していた。だが、この関係性を終えたくない自分もいて、欲しがっていた快楽を見付けたのでいつしか佐綾を守るためにではなくて、自分の快楽を貪るためにあいつと付き合うようになってしまった。

ある時、あいつの当時の自宅で逢瀬する中、いつものように身体を重ねた後にピロートークでイチャイチャしていると身代わり直前の話を持ちかけてきた。
「佐綾、今夜も可愛かったな。こんなに俺をせがんでいて、別れたいなんて嘘だったんだろ。」
「うん…あの時はちょっと気が動転しただけ。逃げちゃってごめんね…。」
「俺も佐綾を辛い目に遭わせてごめんな。」
悪いのはお前の方だろうがとここで大激怒したかったが、ここは快楽で頭が回らなかったのもあってか踏み出さなかった。あいつから左に離れて火照った身体が冷めたのもあって、あいつの左腕にしがみついてこんな質問を吹っ掛けた。
「ねぇ、1個質問していい?」
「いいけど…」
「もし、あのまま私が逃げていたらどうしていたの?」
「…もっと酷いことをしていたかもな。でも、佐綾は分かってくれる子だからもうしないよ。」

それ以上は言えなかった、恐らくあいつは俺が読んだことがある青年漫画のように佐綾を追い詰めていたかもしれない。佐綾に酷い事をさせるなんて、佐綾が突然命を絶つかもしれない、そんな怒りもあったが今夜はここで何も掘り下げなかった。上辺だけで優しくするな、そう考えてもあいつは俺の右頬に可愛らしく口付けを残した、気持ち悪い。
そして、その爛れた関係に終止符が打たれる。

ある朝、自分が元に戻れないことに気がついた。過去に、風邪を引いた時や月経の時、酔っ払った時では変身能力が固定されるのは知っていたがそれとは違う。まさかと思い妊娠検査薬を使ったがあの時は早過ぎたので無反応だったのでその時はほっといていた。
だが、それでもずっと佐綾のままで体調も良くなくなったのもあり、親父から指摘されてまたしばらくして検査薬を使うと陽性反応が現れ、俺は血の気が引くしかなく狼狽えた。

嘘だろ、俺が妊娠?ちゃんと避妊したはずなのに、どうしてなんだ。そう悩んでも埒が明かないので、俺は佐綾の名前と保険証を使って父親の勤務先とは異なる産婦人科に訪ねて正式に懐胎を知らされた。けれども、頭の中に何も情報が入らなく、担当医が今なら人工妊娠中絶も可能だと告げられても上の空だった。
ようやく身篭ったのを理解したのは佐綾に全てを告げた時、2年生になった佐綾は自分の保険証が無いと悩んでいた時にお詫びして伝えた後、俺の胸の中で泣いて自分のしでかした失態を飲み込み涙を零した。両親も戦慄くその有り様で自分の仕出かしたことのリスクを噛み締めていた。
そして、自助会にもこの事を伝えたら全員の顔が真っ青になっていたのを忘れない。もう一人の変身能力者は号泣してあの時嘘をついていた事を仰った。過去に自分ではない男性の変身能力者が女性になって妊娠して周囲が大騒ぎになり、堕胎して少し経った後に元の姿になったという話だった。出産まで至った例が無いのは世間体と法整備がなされていないから、それでも俺は宿した命と自分の能力に不安を抱きたくなかった。この子は産みたい、悪阻がしんどくなっても君を大切にしたいと約束した。

だから、話が重いのでガヤガヤとした環境が良いと思い、あいつをとある個室居酒屋に誘って正直に全てを伝えると決めた。先に俺が居酒屋に到着して、俺は酒が飲めないからあいつのだけビールを注文、俺は烏龍茶を頼んだ。あいつも到着した頃に飲み物と先付けも店員が運んで、話を開始した。
あいつは当然呆れた表情を見せるかと思いきや、妙に落ち着いているのが癪に障る。こっちは泣きたいんだ、癇癪だって起こしたいけどそれはあまりにも幼過ぎするから耐え抜いてこの場をやり過ごす。

「良かった…俺たちの子供が…」
「なんでそんな態度なの?そして、あの夜に何かしたとしか考えられない?教えてよ。」
「…実はあの夜に孕ませたかったんだよね。」
何言ってんだ、この男は。こっちだって、好きに女性をやってんじゃないからな。でも、その後に続く言葉が詰まっている、身体が硬直する、震える、だとしても言いたい事は山ほどある。
「どうして…どうして…そんな事を…」
「実は…あの夜、お前の目を盗んでコンドームに穴を開けたんだよ。ナマでしたくても佐綾は嫌がるだろ、だから覚悟を決めたんだ。」
「え…」
「でも、前にも言っただろ。俺はお前と結婚できない、お前とずっと出会う前から約束していた許嫁がいるからな。親父の会社を守るためにこうするしか無かった。あっちは貞淑なお嬢様だから結婚前に手を出せない。子供は堕ろさなくてもいいから、俺の…」
「ふざけんな…」

佐綾から聞かされた別れたい理由、あいつにとっては愛しているけどその先には絶対に進められないと言われたから。本気で好きになったのに愛人止まりにされるのと医者の道を塞ごうとするのが佐綾にとって不愉快だった。だから、佐綾の恋心を弄んでそんな扱いにさせる男から守りたかったけど、こんな結果になるのは嫌だった。
そして、俺は居酒屋を飛び出してそのままあいつを見捨ててた。どうせ、こんなことなんて親の権力で無かったことにされるのだろうとタカを括っていた。



それから、子供の親についてどうしようか家族で話し合った。出産について両親に伝えた時は凄く反対していたけど、佐綾も同じ目に遭ったかもしれないと反論したら親父は涙目になっていた。
子供の親については、妊娠届出書や出生届には佐綾が母親として扱い、俺はその後に普通養子縁組で養父になることを家族だけでなく自助会とも話し合って決定。特殊能力者の団体があったとしても、法整備は整っていない。法スレスレの行為に冷や汗はかいたが、自助会に所属する弁護士が「君だけが背負う話じゃないよ」と宥めてくれたのは一生忘れられない。

月日が経ち俺の腹はみるみる大きくなった、佐綾も休んでいた大学を休学して髪型も変えて別人のフリで過ごすことに。佐綾の友人に子供を出産するのは伝えた、悲喜交々の意見が飛び交っていた。この事は祝福してくれる友達を大切にしておいた。
良く考えれば、俺は色んな人に迷惑を掛けている。しかし、佐綾本人を傷付けたくない気持ちが上回っていただけじゃなくこれが能力にどんな風に影響を及ぼすのか自助会の研究にも付き合っている。

元々、男である自分がこんな事をしていいのかと今更恥ずかしくなったけど、マタニティフォトを取り続けるとあいつへの復讐心も蘇って再会した時に見せびらかそうと言う魂胆も芽生えた。胸も腹も張り出して男には出来ない体型、かつて求めていたアイデンティティは今考えたくなかった。男としての自分、母親としての自分、どちらも自分自身と受け止めたからだ。
そして、初夏になって陣痛が来た。親父から痛いのが嫌なら無痛分娩を勧められて男児を出産した。薫風の季節だから、名前は「薫」にした。それだけでなく、高校時代に古典の授業で学んだ源氏物語の登場人物からも取られている。まあ、理由は彼のように出生が色々あったからと半ば呪詛じみているけど、薫に尋ねられた時には前者しか教えていなかった。こんな名前の付け方嫌だよね、生まれてきてくれたのに悲しい気持ちになっちゃったけど、生まれたばかりの息子の前ではそんな本心は隠し通した。
「薫…可愛い…頑張るからね…」

出産してからどのくらい経ったのか分からないがようやく精神が落ち着いた。自宅に様々な育児用品が用意されてあり、本当に両親と佐綾に感謝している。家族も育児に協力的で、佐綾は薫の面倒をよくみてくれた。おふくろは薫をよくあやすし、新生児を見慣れている親父も初孫には大変甘やかしていた。佐綾は俺の出産から半年で復学するが、俺は大学を中退して育児とともに通信制大学への受験勉強もしていたので毎日が忙しかった。
けれど、身体は依然として佐綾のままで、母乳もあげなくてはならないかと悩む中、我が子である薫を抱くとその愛おしさに胸を奪われた。小さき命を守りたいと決意、精神的に追い詰められてもスヤスヤと自らの腕の中で眠る息子を眺めて冷静さを取り戻す。母乳を飲んで排泄をして眠るだけだった薫は動き出して出来ることが増えていき、成長は嬉しさと寂しさを兼ね揃えているのを眺めながら俺も忙しい日々の中で受験勉強にも力を入れた。

薫が生まれて半年後に佐綾は復学して、俺はそれから少し後に断乳を経てようやく俺は元の姿になった。久し振りの男の俺に感極まって涙が出たが、薫の寝顔を見ると冷静さを取り戻した。いけない、この子の母親でもあるから。佐綾の提案で、2歳までは佐綾の姿で過ごし、それからは元の姿で薫に接するようになった。今思うと、薫との写真は佐綾として写っている時期と、元の姿として写っている時期を見返すと複雑な感情になる。
そして、通信制大学に合格してからは、流石に親に頼り過ぎているので実家を俺と薫と佐綾の3人で出た。社会復帰してからアルバイト時は男で、家では佐綾の姿でいる二重生活でやりくりしていた。俺がずっと男性として過ごすようになってからは、薫には自分を伯父さんとして接するようにしていた。けれども、母親がいなくなったと思い込んでしまうので、佐綾が大学卒業するまでは3人暮らしだった。佐綾は母親の振りをしていたが、一人暮らしする直前には自分は母親ではないとしっかり伝えた。薫が理解するのに時間が掛かったのも忘れられる訳がない。
俺と薫の親子二人三脚になってから、やっと大学を卒業して就職先も得られた。勿論、会社は薫のことは受け入れている。
薫のためにと必死に頑張ったお陰で、昇進もしたが能力は隠していた。これは薫のためであるだけでなく、あんな目に遭ったのならこの能力を後ろめたくなったから。自助会に行く頻度も大幅に下がった。俺は薫の親として頑張るのが贖罪なんだとあの頃はそう考えるしかなかった。だから、新しい恋にも消極的で就職後もモテる俺はずっとアプローチを避けていた。

それから、佐綾は小児科医の道に進んだ。親父と違う道を選んだのは比べられるのが嫌なのと、生まれてきた薫を見ていると色んな子供たちを守りたくなったからと覚悟を決めた。そして、今では開業医として職場結婚した同じ小児科医の先輩と共に切り盛りしている。子供は2人で俺と薫も見知った仲でもある。
しかし、あいつはあれから連絡が取れなくなっていた。流石に薫が生まれたことは伝えたかったが、何回もメールや手紙を送っても返事は来なかった。どうしたものか悩んでいると、佐綾があいつと出会った合コンの仲間と連絡が取れて、その彼によると大学卒業直後に結婚してすぐに海外移住したらしい。八方塞がりだ、そう絶望しても俺は薫を守るために必死で働き、家を守っていた。

何より、薫はスクスクと成長して凛々しく逞しくなったのだが、俺は薫の寂しさに向き合っていなかった。薫には自分が生みの親と告白したのは小学生になって少し経った後、友達と家族の話になった時に言葉が詰まったらしい。そこで父親以外の全てを打ち明けた。
「えっ、おじさんがママ…?」
そりゃ、小学1年生には理解し難い話だ。俺が親だと言うまではおじさんとして紹介していたので、キョトンとした顔で俺をしばらく眺めていたら、突然俺にしがみついた。そして、俺のお腹をさすって涙を流して思いをぶつけた。
「ぼくもこのおなかのなかに、いたの…?ほんとうなの…?なんで、ぼくは…」
ゆっくり思いを告げたので俺はそうだよとしか言えなかったが、ここで能力をお披露目にした。言葉だけでは伝わらない変身能力を見せると薫はようやく事態を飲み込めた。
「ママ、おかえり…」
この時点で分かるように、薫は既に赤ちゃんがどうやって誕生するのか理解している。保育園の友達からこっそり教えてもらったらしい。

親子の仲が深まったようだが、この話を小学校では黙ってほしいと伝えた。混乱を招くと家族以外に自助会だけでなく、薫の父親にも迷惑が被る。俺を「お母さん」と呼ぶのは俺と家で2人きり、外以外で俺の家族といる時、自助会に行った時だけ、それ以外は相変わらず「伯父さん」にした。ちゃんと守ってくれるのか心配していたが、約束は守ってくれるようになった。けれども、新たな懸念材料として本当の父親に会いたがるようになった。今夜の出来事に繋がる願いは未だに叶えられておらず、毎年自分の誕生日で俺に思いをぶつけるようになった。そういや、薫も反抗期になるのか。
漫画が切っ掛けでバレーボールが好きになって、そこから強豪校に受験したいとせがんだのでクラブにも塾にも熱心に打ち込んでいる薫が俺に対立し出した。今までは渋々受け入れたのがとうとう反発、これを成長と受容していいのか悩みもしたが生きているだけ嬉しいのには変わりがない。

ふと、回想を終えた俺は残された御馳走を出来る限り食べ進めたが胸が詰まって中々減らない。ケーキは明日にしないと食べられない、それくらい俺は弱っていた。

悪夢の誕生日から数日後、あの男が海外から日本に帰還して父親の後継者になるニュースが流れた。テレビでそれを報道している時に自然と身体がテレビに吸い込まれ、男に戻ってもこいつを欲しているのが嫌でしょうがない。
薫とはあれから一度も顔を合わせていない、朝の挨拶もしない、けれどもそのニュース見てどこか思うことはあるのかじっと眺めていた。ご飯と味噌汁、納豆にだし巻き玉子で構成された朝御飯を食卓に用意しても、「いただきます」の言葉さえ発せず薫は黙々と食べてすぐに終え、食器はそのまま置かれて一人洗面台に向かった。
何も言えない、薫に全てを明かす勇気が無かった。薫は身支度を済ませて出発の挨拶もせずに登校した。俺も朝食を食べ終えて、食器を洗い、同じく身支度をして会社に向かった。

モヤモヤしたまま勤務している中で昼休みになり、昼食前にスマートフォンを確認したら佐綾から着信が入っていた。電話に出るために席を外して階段の前へ行く、佐綾に先程はすぐに出られなかったと詫びた後に衝撃の一言で面を食らった。
「通さんが、私に会いたいって。お兄ちゃん、すぐには出来ないけど何時ならいい?」
それは覚悟を求められる機会だ、俺はならばと思い1ヶ月先ならいいと連絡した。何故、この日にしたかというのは後で話そう。

そうして、席に戻り昼食の昼ご飯を通勤カバンから出すと、違う部署にいるミディアムボブにしている7歳年下の後輩の女性社員がやって来た。彼女は俺の婚約者で薫にも紹介しているし、彼女には俺と薫のことを話している。
出会いは彼女が階段から滑り落ちた時に介抱して、その時に彼女が一目惚れした。相変わらずのモテ気質、薫への重圧に押し潰された俺をアドバイスして救ってくれたのは嬉しかった。2人で逢瀬を重ねるだけでなく、3人で出掛ける事もある。あの時の薫は本当にはしゃいでいたな、俺だけどいる時ではあんな表情を見せなかった。そう悩んでいると彼女は子供を授かった、今は体調と兼ね合いで勤務しているが約束で彼女の手作り弁当も用意してある。
本来この話は薫の誕生日に言うはずだったけれども、あの悲劇が起きたから何も発せなかったので久し振りに会った彼女も暗い表情。申し訳ない気持ちであったが、おれは無言が嫌になって言葉を切り出した。

「すまん、薫と喧嘩しちゃって。」
「いいんです、元雄さん。薫くんの誕生が他には例がないんでしょ。薫くんには苦労させたくない気持ちで精一杯なんですよね。」
悪阻が酷い時には小分けにして短い間隔で食事を摂るのが良い、それを俺は実践しているからであって、彼女の妊娠発覚後に優しくしてあげられるのは良かったかもしれない。しかし、こうなったのは結婚に後ろ向きだった俺に、彼女が体を張って愛してくれた結果だ。ふとあいつと再会したら、俺の幸せも得られるのだろうと考えていた。その事を彼女に告白した。
「頑張って、元雄さん。当日は行けないけど、無事に終わりますように。」
身重の彼女に無理をさせたくない、俺と佐綾、そして薫でことを済ませようと奮起した。

決行当日、俺は会社を有給で休んだ。まだ冷えきった仲だが2人で朝食を済ませて学校に行く薫を見送った後、俺は家中を出来る範囲で綺麗にしてあいつに元気で過ごしているアピールを見せつけようとする。あの時に連絡した際、俺が考えた作戦を今日実行するからだ。それで、水色のパジャマから黒のTシャツと青のジーパンに着替えて部屋の掃除を始めた。
あいつに連絡したのは佐綾が仕事を休んで話し合いをしたいから家に来てと言う内容。しかし、話し合うのは俺で家も俺の自宅、それでも佐綾も来訪すると決めていた、佐綾にも責任がある話だから逃げたいと決意したらしい。何より、今日は薫が通う小学校の一学期最後の登校日、午前中で帰宅するから4人分の昼食も用意ししておく。

あいつが大好きな韓国冷麺、よくデートで焼肉屋に行っていたな。佐綾は匂いが気になって嫌がっていたけど、俺はそこまで気にしなかったからバレそうになるのではと考えることもあった。そして、薫を宿した夜の直前もと振り返って腹に左手を当てた。快楽だけで愛し合うのは若気の至り、今は心の底から愛すると俺は自覚している。
下準備を終えた後、俺とあいつの分の手作り水出しアイスティーを水差しからグラスに注いで、木製コースターの上に置いた。薫と佐綾の分のグラスも出しておこう。そして自室で今はボブカットの佐綾に変身して赤の夏用カーディガンと花柄のワンピースに着替えた直後、あいつが愛車である白の外国車のセダンを自宅マンションの来客者用駐車場に停めた。玄関のチャイムが鳴って、インターホンのモニターにあいつが映し出された。今日しかチャンスがない、もう後がない、やるしかないと決意して深呼吸した後に招いた。

「お邪魔します…」
「どうぞ…」
周囲からの目を隠すかのように黒のハットと同じく黒のサングラスと不織布のマスクを身に付けて、青の半袖シャツの下には白のTシャツと黒のスラックスを着たあいつを俺は招いた。ちゃんと手洗ってうがいもしてもらい、全てを外したあいつは七三分けのショートヘアだがレーシック手術で裸眼になって若々しさを保っていた。俺は最近、ほうれい線が出てきたのにこの差はなんなんだ、苦労の差か?
「どうなの、愛のない結婚生活は楽しい?」
「…」
「それはそれは言葉に出来ないものね…」
テーブルにアイスティーを置いてお互いに席に座った後、久しぶりのあいつに優しさが一欠片も無い言葉を投げかけた。かなり後ろめたい表情を隠すかのように俺に顔を見せずに俯く、こっちもずっと冷たい態度を取っていたのは悪いかもしれないけどそうでなければ平静を保てられなかった。

「実は妻に全てを話したんだ…」
「な…なんで…」
「結婚してすぐに向こうが全てを暴露したんだ…貞淑なお嬢様なんて真っ赤な嘘。あっちも派手に遊んでいたらしくて、1回妊娠して足がつかないように中絶もしたって…本当は産みたかったけどあちらの親に猛反対されて、物凄く後悔したと…」
「そう…お似合いだね…」
「だよな…信じたくなかったけど俺も同じ穴の狢だから何も言えなかった…それで、俺も佐綾の事は話した…子供がどこかに生きているかもしれないと…あっちも黙っていたよ…それから、子供も何人か生まれたよ。お互いの罪滅ぼしで過ごしていく内に仲も深まった…」
「…一人でベラベラと喋らないで、これって週刊誌などに狙われるんじゃないの?」
「そんな事は百も承知、だから双方の親も役員も結婚したてで告白した。お互いに非があったから離婚しなかったけど、結婚して間もなくで夫婦揃って海外に飛ばされたな。始めは東南アジア、一度日本に帰国した後に欧米と武者修行されていた。でも、お前と子供には会いたくなかった。中途半端な俺では駄目なんだと決断していたんだ。」
「そうだったんだね…」
あいつも苦労したんだと感心するが、俺はあいつが一人っ子なのを今更痛感した。俺みたいに兄弟姉妹が1人でもいたら後継者になる訳がないくらいの大罪を犯した訳だが、怒ることが出来ない。

もう昔には戻れない、今から本気で愛されても愛してもずっとわだかまりが残るんだろうと悟って、俺も覚悟を決めた。
「実は私もずっと隠していたことがあるんだ…」
「お前もなの…?」
「うん…」
なのに言葉と裏腹に体を動かせなかった、準備はしているのにいざとなった時緊張が走る。何故だ、あれから何年経ってんだよ。今となって頭が真っ白になるとは情けない、自縄自縛になる中で玄関のチャイムが緊張関係を解す。
「なあ、玄関はいいのか。」
「う…わ、分かった。」
けれども、インターホンのモニターを確認すると宅配便業者だった。薫はまだ学校で佐綾はこっちに来る時間ではない。待たせる訳にはいかないので正面玄関の鍵を開けたがこの姿で荷物を受け取っていいのかと葛藤していると、スマホに着信音が鳴った。佐綾がメッセージアプリに「もうすぐ着く」と送信していた、もう逃げられない。
そこで俺は印鑑を持って洗面台に行き、隠していた元の自分の服に着替えて元通りの自分で玄関に辿り荷物を受け取った。だが、この後はどうすればいいんだ、そう考えているとまたチャイムが鳴った。もう、佐綾が到着したんだと観念してダイニングに戻るとあいつがインターホンを操作していた。
「佐綾…?」
同じ格好をした来訪者だ、予測できる最悪の事態だ。

「どういう事なんだ、お前は一体誰だ。」
佐綾の分のアイスティーを用意して席に座った後、俺たち兄妹にあいつは怒りをぶつけた。声を荒らげることは無かったが、しかめっ面で俺と佐綾を睨んで問い詰めていた。全てを明かすのはこの瞬間しかない、俺が覚悟を決めた瞬間に話し始めたのは佐綾で立ち尽くすしかなかった。
「つまり、俺が佐綾と交際中に途中で入れ替わってそのまま子供が出来て、お前が息子を産んだ訳なのか…マジかよ…」
「そうなの、私は愛人になりたくなかった。通さんが本当に愛していたとしても、そんな関係は望んでいなかったの。だから、お兄ちゃんに全てを押し付けてこんな事になるなんて予想しなかった。ごめんね。」
俺の出る幕は無かった、佐綾の方が覚悟が決まっていた。薫が帰宅するまで何をすればいいのか混乱している。もし、あいつが中流家庭出身者だったらとか俺が元々女性だったらとか、何より自分が変身能力なんて無かったらとかありもしない妄想ばかりが浮かんでしまった。佐綾だけが打ち明けただけでなく、あいつも俺だけに話した秘密も佐綾に告白して2人は黙り込んでしまうがそれでは気まずいので俺も重い口を開いた。

「あの、こう言う特殊能力や超能力が実在するのはご存知でしたか?」
「なんとなくな…でも、実際に見たのはお前が初めて。」
「では、私が佐綾に成りすました時は様子がおかしいと気が付いていましたか?」
「実は、ちょっとだけ。なんかいつも佐綾とは仕草がおかしいなと思ったけど、それでも一緒にいたかった。なんて、あの頃の話なんだけどね。」
俺は案外抜けているのを再確認した。あいつは佐綾のガワしか愛していないのかもしれないという邪念も閃いてしまったが、全員に罪悪感がある。
「この事も奥さんには話しますか?」
「理解してくれるかな…それよりも…」
「はい?」
「元雄さんだよね?お兄さんは本当に妹さん思いだね。なんでそこまで危険を承知に俺と付き合ったの?」
「…逃げたくなかったから」
あいつはいつの間にか自分の本心を掴んでいた。そうだ、学生時代から周囲が俺を「シスコン」とよく弄られていたけどやっと受け止められた。それでも安堵している暇は無い、俺はあいつにこの能力について全て話した。あいつはちゃんと受け止めてくれた、目が据わっていたからな。

「成程、でも無茶をしている…俺だったらそんな事出来ないよ。」
「それにこの話は薫くんには話したの?」 
「薫にはこの能力ついてだけを話した、小学生になる頃。それまでは母親の伯父として接していた。」
「理解している…?」
「その時は号泣だったよ。それでも、小学校の同級生や教師には内緒にしてくれている。まあ、自助会にも薫を紹介しているしな。」
「薫、頑張っているな…」
あいつは初めて薫の父親らしい顔付きになり、自分の左腕に顎を置いて微笑んだ。今更かよと嘆いたくなるが薫はそろそろ帰宅する、冷静でいよう。

「ただいま…」
薫が帰宅した、また親子喧嘩が解消されていないので不貞腐れた雰囲気で帰宅の合図を知らせた。ランドセルだけでなく、一学期終了を象徴すると見受けられる道具箱や置き勉してきた教科書などが入ったトートバッグ2種類を両肩に背負って気だるさを物語っていていた。ドラゴンが目立つ青のTシャツと青の短パンを着て、日焼けして夏の暑さにもやられている我が子を見て、俺は抱き締めたいがそんな空気ではないのは分かっていた。
「あれ?お客さんが来ているの…叔母さんと誰?」
薫は玄関の靴の数を数えていたらしいが、リビングにいる来客者には驚きを隠せなかった。
「おかえり、薫。先に手を洗ってうがいしてー。それに、汗も拭き取ってね。」
薫に呼び掛けをして洗面台に向かわせたが無視したままであった。それでも衛生観念はしっかり行き届いてる息子は綺麗な手でランドセルを握ってダイニングにやって来た。
「薫くん、お邪魔してます。」
「お邪魔しています、薫くん。」
「この人、あの会社の新社長でしょ。なんで家に来ているの?」
「実はな…」



薫にも全てを明かした。自分の秘密を告白した時のようにまたしても呆然していた。そうして、次第に表情は暗くなり倒れ込んで泣き崩れた。
「なんだよ、僕は…僕は…」
自分の出生秘話を知り、頭がパンクして言葉が詰まる薫に俺とあいつは近付いた。
「ごめんね、ずっと黙っていて…」
「すまん、こんなに大きくなっていたのに…」
俺とあいつは席を立ち、2人して情けない態度しか表せず薫に謝罪しかできなかった。初めて親子3人が揃ったのにこんなにも泣きじゃくってみっともない、それでも蹲った薫を2人で抱き締めた。夏の日差しでこんがりと焼けた少年の温もりが伝わる、快楽の先にある新しい命、母親はずっと傍にいたのを再確認した、父親は今まで傍にいなかったので初体験した。親子3人は涙が溢れる、母親になるかもしれなかった女性も涙を隠せずにいられない、この世界に同じ光景は他にあるのだろうか。

薫はようやく落ち着きを取り戻して、父親にしがみつき言いたかったことを放った。けれども、この体勢はしんどいのでリビングのソファで語り合うことを決めて、2人は移動した。
「お父さん…僕の事…」
「気にするなって…」
お互いに気恥ずかしくなって会話が進まない、それでも俺が介入するのは話が違う。俺は佐綾の横に座り直して、昼ご飯が出来るまで2人っきりにさせておいた。
「やっと雪解けだね、お兄ちゃん。」
「…本当に長かったよ、ずっとしんどかった。」
「見て、2人ともようやく会話が弾み出したよ。」
「それは良かった…」

キッチンで韓国冷麺を作りながら、俺たち兄妹は睦まじい父子の姿を眺めていた。本来なら許されるべきではない命はここまで大きくなったと感心しボーッとしていると、佐綾に注意された。包丁を握っているのに、俺は何をしているんだ。
「いただきます」
テーブルに完成した冷麺を並べると4人は昼食を一緒に食べ始めた。二度とこの光景は見られないのは分かっているがにこやかに食を楽しむ佐綾、麺をズルズルと啜る程がっついている薫、そして美味しいご飯に焦っている薫を注意している通、ようやく俺はあいつを名前で呼べるようになったが箸が進んでいないのでまたしても佐綾に注意された。それでも、この時間が終わらないで欲しいと願っても叶えられないのが辛くなる。全員、昼食を済ませて食器を片付けていると、今度は薫と佐綾と通が談笑している。本来なら、この3人が親子かもしれないと胸がキュンと切なくなった。

そうして時はあっという間に過ぎ去り、あいつが帰宅せざるを得なくなった。席を立ち、別れの挨拶を始める。
「じゃあな、もう俺たちは直接会わないだろ。」
「その方がいい、3人のためにもね…。実は…」
「実は、って?」
「…なんでもない」
本当は言いたいことがあったものの、今言うべきではないと空気を読んで撤回した。もうあいつには会えないのは悟ったとしても、水を差すような内容だったから俺は涙を浮かべて堪えた。この話というのは佐綾は存じ上げているが、薫にはあの夜に言いそびているのもあるから。

「じゃあね…」
「じゃあ…」
俺と佐綾も別れの挨拶をしたが、薫は俯いたままで無言を貫く。しかし、沈黙を保てられずあいつに目線を合わせなかったものの、精一杯の勇気を振り絞った。
「お父さん、行かないで…僕、お父さんともっと話がしたい…親子3人で旅行したい…勉強を教えてもらいたい…他にもやりたいことがあるんだよ…!」
「薫…」
この瞬間、あいつは薫を呼び掛けにしたのは最初で最後だった。そして、薫は人生で一度も叶わなかった願望を今ぶつけている。
「でも、わがまま言っちゃいけないんだよね…。もう、叶うことはないんだから…。」
「そうだね…だけど、一つだけ叶えてあげるよ…。」
「えっ、それじゃあ…」
薫も席を立ち涙目であいつにしがみついた、そして頭を撫でてもらった。嬉しそうな薫、通も落ち着いていた。最後に親子3人の家族写真を佐綾が俺のデジタルカメラで撮影した。俺がそのままのと佐綾の姿のと、ちゃんと服は着替えてある。

こうして、ケジメをつけたい過去にピリオドを打った。お互いが幸せになるなら、こうも決別しなくてはならないと俺は震えて涙が溢れ出した。
さようなら、俺を愛してくれた男。

「ごめんね、お母さん…僕を守るために必死だったんだね…」
「かーくん、気にしないで…こっちこそ、かーくんの事を考えていなかった。」
佐綾も帰宅した後に、リビングで親子はソファに座りながら久し振りの会話をしていた。俺が部屋側に座って、薫を窓側に座らせたのはある事が出来なかったので今から準備するため。薫としばらく話した後に俺はトイレに行くと嘘を付いて自室に向かい、ある物を持って来た。
「じゃーん。遅くなり過ぎたけど、薫、誕生日おめでとう!」
「ありがとう、これ欲しかったんだよね。」
薫は顕微鏡を欲しがっていた、それなりに良い奴を購入したけどあの夜には渡せなかった。俺も反省して、薫はもう仲直りしてからじゃないとプレゼントをあげても喜ばない年頃だと考えて、ずっと隠していた。それでも、薫は今非常に喜んでいる。良かった、笑顔になって。

「実はあの夜に、母さんが言えなかったことがあるんだよね。」
「何、急に改まって。」
「実は、彼女と結婚する。そして、お前はお兄ちゃんになる。」
「えっ、そうなの。だったら、あの時父さんにも言えばよかったんじゃないの?」
薫に初めて伝えた事実は切羽詰まっていた。あの時言えなかったのは、俺はもうあいつ無しで幸せを掴むという覚悟を邪魔されたくなかったからだ。万が一、とやかく言われるのが怖かったからと逃げていたのもあるけど、仕方がない。
「お母さんが結婚したら、なんて呼べばいいの?」
「どうしようかな?お母さんのままだとややこしいし、今更お父さんなんて呼ばれるのは…」
「僕、お父さんでいいよ。どんな形であれ、お父さんとお母さんと一緒に暮らすのが夢だったから。」
薫、今まで大変な迷惑を掛けたな。俺はこれからやっと自分の幸せを掴むよ。

そして、俺は彼女と結婚した。薫に弟と妹が生まれた、妻は双子を産んだ。俺が産んだ子と妻が産んだ子が仲良くできるのか不安だったけど、その懸念は払拭された。何より、薫は志望校の私立中学に合格して、バレーボール部で汗を流している。それとあいつから何も連絡は来なかった。それでいい、もう終わった話だから。あの写真は自室に飾ってある、ケジメの象徴だから。
そして、この能力を隠さないことにした。会社が受容してくれたのは本当に嬉しかった。
また、忙しいので自助会に行く頻度は変わらなかったが、積極的に関わり出している。
俺はやっと自分の人生を見付けた。

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