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そんなヌルいもんじゃない

遠距離恋愛、って言葉は

なんだか俺を恥ずかしくさせる。


確かに俺と冴島は遠距離恋愛だが、
なんだか、その言葉は俺たちには
全く似合ってないように思えて仕方ない。

こんなことを言うのは冴島みたいで嫌だが、

俺たちの関係を言葉にするのは
結構、難しいのだ。


例えば今日の朝も俺は意気揚揚と
家のポストを確認して、

手紙が入っていたら


どっと疲れが込み上げる時がある。


きっとこれは普通の遠距離恋愛では
味わえない感覚だろうと思う。


かなり離れているにも関わらず

側にいるかのように疲れる。


こういう言い方をすると
「淳士最低!!」とか、
蘭ちゃんあたりに言われかねないので
前もって言い訳させてもらうと、


手紙が来なかったら

俺はかなり落胆する。


もちろん、手紙なんて
こない日の方が多いので、

俺の一日は落胆から始まることが
かなり多いということになる。


そして、手紙を読み終えると

俺はほぼ100%の確率で
冴島に会いたくて仕方なくなる。


冴島からの手紙が来てると疲れるのは

あいつの文章が読みにくいとか
英語だからとか、長いからとか、
嫌味だからとか、自慢だからとか、

そういうことではなくて。


英語も嫌味も長さも自慢も全部、

俺への気遣いだからだ。


直筆の手紙ですら、あいつは

俺に遠慮して、俺を考えて、


そして、きっと、

俺のために泣くのだ。


あいつのその手紙への労力を考えたら
なんだか俺まで疲れてくるし、

そして、情けなくなるのだ。


こんな所でこんなふうに
平凡な自分が

情けないのだ。


あいつと釣り合うなんてことは
無理だってことくらい
百も承知なので、

そんなところで情けなくはならない。


ただ、俺は、

あいつの足を引っ張ってる気がするのだ。


こんなに距離を置いても

まだ俺の手はしつこくあいつを

引き止めている気がするのだ。


「敦士、お前つぎのTOEICも受ける?」

「おう、受ける。
次こそ満点とってみせる。」

「いや、満点は無理だろ。」


頑張っても頑張っても、頑張っても

お前には追いつけない気がする。


「取らなきゃいけねんだよ。」

「つーか、お前この間のテスト
なんだかんだでAAだったんだな。」


だけど、俺はこの、

俺の生きる狭い世界で

これからも頑張るから。


遠距離恋愛なんていう、
ロマンチックな言葉に似合わず、

俺は今日も毎日、
コツコツ、現実を生きるのだ。



そんなヌルいもんじゃない






**


もっと、もっと、現実的なのだ。

俺たちの関係はもっと、


複雑で切なくて、

長くて苦しいんだ。






2013.05.15
「遠距離恋愛」 

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