彼の耳元に輝くものは

ゆきくんの耳に
初めて穴が開いたのは

私が小五の冬だった。


「フク、何してんだよっ?!」

「ピアス開けてみた。」


秀の大きな声と
ゆきくんの明るい声が

玄関から聞こえたのを
覚えている。


「なんか、開けたくなってさ。」


ゆきくんがそう言ったら
キラッて耳元が光を反射した。


「なんかって、お前なぁ!!

校則で禁止されてんじゃんかっ!!

怒られるぞ?!」


必死な秀に対して
ゆきくんは涼しい表情。


「怒られたって
開けちゃったもんは仕方ないし

まぁ、大丈夫だろ。」

「呑気なこと言ってんなよ!!」


私はゆきくんの耳に光る
小さなピアスを見て

なんだかすごく

ドキドキした。


「痛くなかった…??」


恐る恐る聞いた私に
ゆきくんは小さく微笑む。


「全然。

あ、でも蘭ちゃんは
開けちゃダメだよー。」


ゆきくんは良いのに

私は、ダメ。


それはいつものことだから

嫌だったけど小さく頷いた。


私が小六になってスグ。


ゆきくんの両耳元に二つ

新しい光を見つける。


「ゆきくん、
また穴開けちゃったの??」


なんだか怖くなって

手を握ったのを覚えてる。


「開けちゃった。」

「どーして??」


ねぇ、ゆきくん。


どーして私から

離れようとするの??


「理由は特にないけど…、

なんか、開けたくなって。」


ゆきくんが離れてく。


私が出来ないことをして

私と違う世界に行く。


ゆきくんが遠くなる。


「…痛くなかった??」


答えは分かっていたけれど
何て聞けば良いか分からなくて

恐る恐るピアスに触れて
そう聞いた気がする。


私の指が光に触れて

その確かな感触に


なんだか恐怖は増してしまった。


「痛くないよ。」


痛いって答えて欲しかった。

もうヤダって言ってほしかった。


「…ゆきくん、」

「ん??」


「…なんでもないや。」


私の知らないゆきくんが
こうやって、増えてく。


ゆっくり確実に

遠くに行ってしまう。


小六の秋にまた二つ増えて

その後、一つ右耳に増えて


だけどある日、

穴は増えなくなった。


「ねぇ、秀。

ゆきくん、ピアスもう
開けるの辞めたの??」

「あー、みてーだな。」

「どーして??」


秀は少し迷ったけど

私のことを見て言った。


「あいつの新しい彼女が
ピアス嫌いだから。」


ピアスは増えなくなったのに

その日から
ゆきくんの耳元は


さらに痛々しくなった気がした。


彼の耳元に輝くものは




**


蘭ちゃんと付き合い始めて

またもうひとつだけ穴を開けた。


それで最後だって

心の中で何となく思った。






2011.05.15


【hakusei】サマ
「耳元」 

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