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信号はいつだって赤だと思う

塚田くんは助手席で
窓の外を見てため息をつく。


「真智子ちゃんさぁー、
俺、バイクの後ろ乗せてあげるって
昨日、メールしたよね??

なのになんで車で来たの。

おかげで俺、明日、
超久々の電車通学だよ。」

「貴方に命預けるほど
バカになれない。」


冷静にそう答えた私を

楽しそうに見る。


「タバコ吸って良い??」

「ダメ。」


持ったライターを取り上げると
チッ、と小さく舌打ちした。


「真面目な女、苦手。」

「私もタバコ、苦手。
バイクも嫌い。」


「乗ったことあるの??」


塚田くんはそう言って
信号が赤になって止まったのを確認すると

私の答えを待たずに

唇に噛み付くようにキスをする。


「…信号、変わる、」

「こんな道、他に車通らないって。」


カレの言う通り
私達の後ろに一台も車はつかない。


知ってる。

だから、この道にした。


私、ズルい大人だもの。


青信号になったのを見て
私が肩を弱く押したら

一瞬、体をどかすけど


また、唇を重ねる。


「車、来たらどうするの。」

「こないって。」

「…っ、来たら??」


「クラクションくらい

聞かないフリしなよ。」


そう言った塚田くんの唇が

私の首をなぞって、
鎖骨に触れて、

また、唇に戻る。


丁寧で稚拙で

愛しい、キス。


「…ダメ、」


シャツにかけようとした手を掴み、

本気でそう言った私を見て

少し笑って、信号を見る。


「また、赤だよ。」

「でも、これ以上は、」


ダメ。


そう答えようとした私を

押し倒すみたく

また、キスをする。


「…ダメだって、!!」

「うん、だから、キスだけ。」


低く掠れた声でそう言って、

最後、軽く頬を撫でて

額にチュ、と触れると


ゆっくり体を起こす。


信号は青になって

私はゆっくりアクセルを踏む。


ドキドキ鳴る心臓がバレないように、

ゆっくり静かに息を整える。


「…シートベルト閉めなさい。」

「やだよ。
次、いつ赤信号引っ掛かるか
わかんないじゃん。」


そう笑って

私の頬をつつく。


「捕まるの私なの。

ほら、早くしめて。」

「ほんっと可愛いげねーのな。」


ため息をついて
カチリ、とシートベルトを閉めて、

私の乱れた髪を
直すように、優しく撫でた。


「…真智子ちゃん、」

「なに。」


「ごめんね。」


笑いながら明るく、

そのくせ、あの、若者特有の


青臭い哀愁を帯びた表情で
私にそう呟く。


「なんで謝るのよ。」

「キス、苦しかった??」


「そういうものでしょ。」


苦しいのはキスだけじゃないわ。


貴方への想いも、

この関係も、匂いも、時間も、



全部、全部。



「真智子ちゃん、

好きだよ。」



苦しいのは別に、


貴方のせいじゃない。



信号はいつだって
赤だと思う







**


渡っちゃダメだって、

そんなの、

誰だって知ってるのよ。


だって渡ったら危ないから。


理由なんて

それ以外、ない。






2012.01.26
hakuseiサマ
信号 

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