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お揃いの瘡蓋

冴島は

たぶん、変な子だ。


俺は今まで
たくさんの女を見てきたが
その中でも冴島は変だ。


「流星先輩ってぶっちゃけ、
何人抱いたんですか。」


淳士のバイト先に行ったら
偶然、冴島がいて

送らなくちゃいけなくなって
そう聞かれた時に思った。


そもそも、こいつと二人きりなんて
なりたくてなるもんじゃないし、

なってしまったことを
激しく後悔した。


「…いや、かぞえきれ、」

「かぞえて。
数えられる範囲でいいんで。」


高圧的な言い方が
俺の指を動かす。


初めての経験だった。

過去を遡って、こんなこと。

両手で足りなくなって
折り返しても足りなくなって、
女が思いつかなくなって

「32…以上。
忘れてる女も、いる、かも。」

隣からため息が聞こえた。


「うぇー、やば。きもすぎ。」

「…でも、お前だってそーだろ。」

「私は自分の経験になったり
興味沸く男しか抱かないもん。

せいぜい9くらいですー。」


興味、経験、なんて
女に対して思ったことのない俺は
黙って冴島を見つめた。

色々な疑問が浮かんで、
こいつを虐めたい気持ちも湧いて、
意地悪で聞く。


「ぜーんぶ、遊び?」

「ぜーんぶ、本気です」

「でもその間も淳士のこと
好きだったんだろ?」

「んー、いや、好き…とは…」


「経験してみてどうだった?」


インタビュアーみたいな気分だった。
冴島は困ったようにしているが
それが本気か嘘かはわからない。

ただ、その時の俺は意地悪だったから
本気かもしれない。


「…まぁ、
『なるほど、こんな感じか』です。」

「感情の勉強?」

「あー、はい、ほんとにそう。」

「淳士も?」


「和泉は違うから

困っちゃうんです。」


淳士のために買った
コンビニのチョコレートの入った
ビニール袋を振って
冴島は少しだけ笑った。


「経験値にするのも
申し訳なくて、辛くなる位、
大切だから、困るんです。」


もうこれ以上、
恋愛経験値上げられないのかなって
さっき買っていたお茶を
ガーッて、口に流し入れた冴島は

やっぱり、ものすごく変だけど


多分、似てる。俺と。


「…なんですか?流星先輩。」

「…いや、俺はでも、
経験とかは考えなかったしな。」

「私との相違点、
必死に探す必要ないです。

もともと、私たちは全然違う。

先輩は手を差し伸べられたなら
相手は誰でもよかったと思って
女と寝てたかもしれないけど、


私は差し伸べられる手を
選んで、選んで、和泉です。」


「…女なら誰でもよかった
みたいな、言い方だな。」

「あら?ちがいます?」

「…まぁ、そうだったけど。」


「だから、選べた私のが
幸せですね。」


それでも、やっぱり、似てる。


愛のない性交渉は
何も減らないからいいと人は言うけど

それは違う。


色々減るし、

傷付くし、失うし、

自己嫌悪だし、快感だし。


「まぁ、傷の形は似てるな。」

「…じゃあキスしときます?」

「いいぞ。」


重なる訳もない唇を

冴島はまた
薄く、歪ませる。



お揃いの瘡蓋







**


「…傷の形は似てるな」

「真似すんなよ」

「傷の形は、」

「ぅおい!!
バカにしてんのか?!」

「え、はい。
作詞家はやっぱ言うこと違いますねぇ」

「あぁん?!
恥ずかしいから撤回させろ!」






2014.02.20

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