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転がり落ちるのは雨か、それとも涙か


涼太くんの言葉を聞いた時、

外の雨の音が大きくなった気がした。


私はわざと聴こえていないふりをして
ヘラヘラしながら聞き返す。


「いま、なんていったの」

「来月から転勤になった」


相変わらずキラキラ笑う涼太くんが
切なくて悲しい。

涼太くんは私の目線に気づいてないフリをして
私が敷き直した布団の上に寝直した。


「転勤、て…。どこなの」


こういう質問って、もしかして
彼女とかしかしちゃいけないのかな。

ふと、そう思ってから
でも私って聞く権利あるんじゃないかなって、

くだらない優越感が今は邪魔だ。


「飛行機では行けるよ」

「新幹線は?」

「10時間くらいじゃない。」


日本列島の下の方に、涼太くんは転勤することになった。営業所がそっちにあるらしい。
営業配属だから、どこかのタイミングで地方に行く確率が高い、って言ってたけど
いざ現実でそうなるって聞くと、頭は真っ白になった。


「え…、えっと…。
だ、大丈夫なの?おうち…汚いままになっちゃう…」

「たしかに。
でも、亜子ちゃんに出会うまでの大学二年間は生活できてたし
不可能ではないんじゃないかな。」


出会ってから、気付いたら四年も経っていた。

私はその間、就職して、転職して、
何度も涼太くんを諦めようとして、出来なくて、

この関係の名前を探すことにも飽きてしまって。

24歳、という年齢は
小さい頃から『お嫁さん』を夢見てきた私にとって
少し焦る数字だった。

しってる、わかってる。

この男の人はきっと、
そばに居てくれても、優しくしてくれても、

永遠を約束してくれることは

きっと、ない。


「涼太くんは一人で寂しくないの」

「寂しいよ。…亜子ちゃん、」


私の肩に手を置いて
きっと、言葉を丁寧に探してから

相変わらずキラキラした笑顔で笑った。


「待っててなんて言わないから安心して」

私は何て自惚れてたんだろう。

染まった頬の赤の理由はいつもと違う。

距離が近くて恥ずかしかったんじゃない。


一緒に来ない?、を待った自分に
恥ずかしくなった。


「い、言われなくても、待たないよっ!

今日、友達と夜ご飯だから帰るねっ!
涼太くんの分は冷蔵庫に入れてあるから!」


出来るだけ見ないようにした。

ありもしない食事会をでっちあげたことを責めるように
雨は一際激しくなった。


傘を持つ手に力が入らない。

雨は責めるように、包むように、笑うように
私の体を濡らしていく。

泣いてるのかな、私。

雨なのか、涙なのか、分かんないや。


ずっと一緒にいようよ、涼太くん。


小さい声でつぶやいた声も
雨と一緒に流れていった気がした。


転がり落ちるのは雨か、それとも涙か


**

転職したばかりの彼女に
付いてこいとは言えない。

タイミングが悪い。

結婚しよう、とも言えない。
付き合ってもいないのに。

順序が悪い。

言い訳じゃなくて、冷静に考えてる。


でも恋なんて、

冷静でいちゃいけないんだろうな。



2021.07.18
“お題.com”様

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