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ささくれみたいな想い

指が痛い。


そう思ってみてみたら、
やっぱり、ささくれになってた。


「ありえない、ほんとありえない!

なんで私が伍樹と一緒に
修学旅行回れないの?!」

「まぁ、まぁ、ほのちゃん、
落ち着いて、」


「落ち着けるわけないじゃん!」


修学旅行で

ほのちゃんと同じ班になった。


ほのちゃんは相変わらず
クラスの女子からは敵対視されていて

リーダー格の女子に見事に
孤立させられてしまい、

中野のいる男子の班には
そのリーダーの彼氏がいて、

まぁ、ほのちゃんがそのリーダーに
権力で勝てるはずもなく、


ほのちゃん達とは

俺のいる、なんていうかな、


あまり目立たない奴らが
組むことになった。


…まぁ、ほのちゃんは
男子からはすごく人気だから

俺らも俺らで居心地が悪い。


「はらっぺさーあー、
もっと髪切ればー?」


俺は地味に調理部で、
だから、ほのちゃんとも仲良くなった。


でも、ほのちゃんにとって
俺なんて圏外中の圏外で、

だから、ほのちゃんもこうして
俺には優しくない訳で。


彼女は性格が悪いから

俺と一緒に回ることに

堂々とため息をつく。


「…やっぱ、中野とが良かった?」

「当たり前じゃん!」


グロスに濡れた唇が
綺麗な光を反射する。

充血なき瞳が
キラキラと光を受け止める。


「まぁ、はらっぺがいたことが
唯一の救いかなぁ。

てか、班には不満ないんだよね。

七香とつぐみとだし。」


四人ずつで組んで
女子は一組三人で、

それがほのちゃん達。


「俺とでごめん。」

「いいよ、もう。
はらっぺ悪くないもん。」


指が痛い。


俺の荒れた手を見たあと、
無意識に中野の手に目がいく。

楽しそうに笑いながら
手を叩く、その甲はきっと
綺麗なんだろうと思った。


…まぁ、別に、
男の手なんて興味ないけど。


でも、そんな小さなことでも

俺は勝てない。


「はらっぺ、今日も部活こないの?」

「あ、うん。
園芸部あるから。」

「あのさ、前から思ってたんだけど
園芸部ってなにしてるの?

調理部のが楽しくない?」


楽しくない。


ほのちゃんと中野を見てても

俺は、楽しくない。


「…園芸部のが人いないから。」

「まぁ、幽霊部員しかいないよね、基本。

はらっぺ以外に活動してる人
私、見たことないもん。」


ほのちゃんの爪はキラキラと

淡いピンクで輝く。



ほのちゃんの指は

まっすぐ、白く、
光を受け止める。


「指輪とか、ほしいなー。」


俺の存在は

影になる。


「…じゃあ、コースは俺が
考えとくから。」

「うん、ありがと。
多分、七香も鶫も
なんでもイイって言うからさ。」


笑った顔は可愛くて、

俺なんかが修学旅行一緒に回って
良いのかなとか、罪悪感。


「じゃ、ほのちゃん、
部活行っていいよ。」

「うん、あ、待って。」


そしてほのちゃんは
可愛いレースのついている
白いポーチから、

ばんそうこうを取り出した。


「指。痛そう。
見てて痛いから、貼って。」


ビックリしている俺の指に

クリーム塗ったら早く治るよって

なにやら豆知識を披露して


意識されてないって思って

なんか、ちくん、って、


ささくれみたいに痛かった。



ささくれみたいな想い







**


なかの、なかのって笑う顔と

俺にありがと、と笑う顔。


多分、全然違うんだろうけど、

その違いすら俺は

一生経験できない。


その方が幸せだとすら思う。






2012.05.11
hakuseiさま
ささくれ

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