好きすぎちゃってつらいんだ


登場人物
・若田菜摘(当時16歳)
ツンデレの美少女。地元の先輩である颯太を慕っている。ギンのことが本当は大好き。

・清田銀次(当時18歳)
通称ギン。なんでもできるエリートだが、そこが鼻につく。二つ下の菜摘のツンデレを面白がっている。

・塚田颯太(当時18歳)
ギンの幼馴染で菜摘の先輩。二人のキューピッド的存在。マイルドヤンキー。



「好き過ぎて苦しいです」


颯太先輩はチェリーサラダを食べながら
聞いてるんだか聞いてないんだか
分からないような態度で曖昧に頷いた。


「ギンちゃんのこと考えると本当に苦しい!」

「病気じゃねーの?
心臓か、呼吸器か、頭の。」

「…いじわる!」


恋とは病だ、とは本当によく言ったもので
建前上、颯太先輩の発言を一応批判してみたけれど
実際のところ間違ってない気がする。

ギンちゃんを思う私は頭がおかしくなってる。


「つーか、俺に言われても。
ギンに直接言えよ。」

「言えるわけないじゃないですか!」

「じゃあ、クラスメイトとか。
他にいるだろ、もっとこう…、

楽しく恋バナできる奴が。」


理由を分かってるくせに
そうやって、ニヤニヤしながら
分からないフリをする颯太先輩は
本当に意地悪だと思う。


「…ギンちゃん、
バイト何時までですか?」

「もうすぐ終わるよ。」


タバコに火をつけながらそう言って
そのタバコの火を睨む私を
また、楽しそうに見てくる。


「ちゃんと頼めよ。
ギンちゃんに言ってねって。」

「…そんなこと、思ってないもん」

「なら、こんな不良に構ってないで
クラスメイトと楽しく平和に恋バナしてなさい。」


ふーって。

吐き出した煙が私の上に行く。


「…言えないですよ。
言える訳ないじゃないですかぁ!」

「でも、ギンは言って欲しいって。」

何も言い返せなくなった私に
颯太先輩は追い打ちをかけてくる。

「実際さぁ、
ギンが大学生になったら、

菜摘なんて、トルニタラナイぞ。」

「…取るに足らない、ですよ。」

「合ってんじゃねーか!」

「いや、片言だったので。」


私が出来る攻撃なんて
所詮、この程度だ。

先輩はそれでも、
ダメージを受けてるフリをする。


私の周りの人は

フリが、分かりやすい。


わざとらしく、堂々と、
そのくせ、バレないようにって。


下心も、優しさも、お節介も、

全部、隠せてない。


ギンちゃんも、
意地悪なフリして本当は
私のことしか見ないよ。


「…私って結構な自惚れ屋ですよね。」

「は?なんだ、今更。」


「かなり性格悪い方だと思います。」


ギンちゃんのことが好きで、
だから、かわいこぶるよ。

ホントは意外とサバサバだよ。

雑だし、地味だよ。

毒舌だし、不器用で、

お化粧とか、だいっきらい。

照れてるのはたまにわざとだよ。

雑誌とか、結構チェックする。


服の裾を引っ張るのも、
上目遣いで見つめるのも
実は計算だよ。


「…颯太先輩が私を悪女にした!」

「だからさ。
お前、頭で勝手に考えて
結論だけ話す癖やめろよ。」

「だって、颯太先輩が言ったんだ!
あーしろ、こーしろっていっつも、」


「誰にどーしろって?」


バッて後ろを振り返ったら
ニコニコ笑うギンちゃん。


「あ、ギンちゃんおかえり、」

「ねぇ、菜摘ちゃん!
なんでそうちゃんなんかと、
この店で一番不味いサラダ食べてるの?!」


さっきの笑顔が消えるのは
意外と高速だった。

私の肩に手を置きながら
ギンちゃんは颯太先輩を睨む。


「俺の彼女に構ってないで
自分の彼女だけ見てろよ。」

「はいはい、あーあ。
ギンはうるせぇなー。」



呆れた様な口調で
私にお札を渡してくる先輩。


「お釣りはあげる。
好きなお菓子でもかいたまえ。」


ちょっと喜んだ私を
ギンちゃんはまた睨んだ。

そんな私達を見て
颯太先輩も少し笑う。


ほらね、私はやっぱり悪女だ。


ギンちゃんを好き過ぎて
騙しちゃってるみたいで

辛いけど、愛しくて、


こんな私でごめんね。



好きすぎちゃって
つらいんだ







**


菜摘ちゃんといると
俺って本当に嫌な男だなって思う。

わざとらしく拗ねたり
わざとらしく妬いたり


彼女の努力にわざとらしく

上手く引っかかってみせて


こんな俺でごめんね。




2012.04.17
hakuseiさま

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