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全力疾走で向かいます

木本さんはモテる。


それは常日頃から感じることで、

例えばその常日頃ってゆうのは


防音室を眺める

男子の数で感じたりする。


「…おい、栄司。

お前、なにボーッとしてんだよ。
俺にしっかり物理教えろよ。」

「あ、あぁ…。
ごめん、ごめん。」


ヒロは少し怒りながら

いや、なんで俺が怒られてるんだとか

少し思ったりもしたけど


でも、やっぱり正直、
ヒロの物理なんかより

彼女の人気の方が

気になったりするのも、現実。


「お前、木本さんのこと気にしすぎだよ。」


ヒロの言葉に顔を上げると
改めてため息をつかれる。


「あのな。
俺のこと、バカにしてんのか??

お前の視線が
Lilyに向いてるのくらい分かるし

そうゆう男が沢山いるのは
防音室をみりゃ分かる。」


だいたい、Lilyのみんなは
警戒心がなさすぎるんだ。

全員女子なんだから、
練習中はカーテンを閉めるとか

できるだけ笑顔にならないとか

できるだけジャージで練習するとか

なんなら福島先生に
見張りを頼むとかした方がいい。


ベース弾いてる木本さんなんて

ほんと可愛すぎるんだから。


「…見られてるよって
メールで教えようかな。」

「あぁ、良いかもな。
実際、見られてるのは可哀相だし。

同じ部活の仲間としても
それなりにムカつくわ。」


ヒロは女に優しい。

あと、割とキレやすい。


木本さんにメールすると

携帯を見た木本さんが

シャー、とカーテンを閉める。


…閉めてから思ったけど

俺も木本さんのこと

なんも見れなくなった。


「これでお前も
摩擦の計算に集中できるな。」


ヒロはそう笑いながら

俺に教科書とノートをみせてくる。


そしてまたしばらくして

木本さんから、返信。


『教えてくれてありがとう。

島田、いま何してるの??

私は休憩中でーす。』


普段は冷たい木本さんだが

メールではとても明るい。


そのギャップは
なんか、すごい可愛い。


『ヒロと物理をしてます。』

『島田、物理得意だもんね。
今度私にも教えてほしいな。』

『うん、もちろん。
じゃあ、木本さんもその時は
俺に英語教えてね。』

『分かった。

なんかそれ、楽しそうだね。』


携帯に集中する俺に
ヒロは深くため息をつく。


「お前ら、やり取りはやっ!!」

「あー、うん。
なんか、付き合い始めてから
打つスピード上がった。」


それは自分でも分かるほどほどだし


そんな自分がなんか、

好きな俺。


『島田に逢いたい。
いま、来てほしい。』


「うわっ。」


俺が椅子から立ち上がると
ヒロは小さく声を出す。


「な、なんだよ??」

「ちょっと、防音室行ってくる。」


そう駆け出す間も

俺は携帯でメールしてた。



全力疾走で向かいます







**


メールを送った数秒後、
すぐに来た返信を見て

どうして良いか分からなくて


でも、来てくれた島田が


やっぱり、好きだ。






2011.09.01
【hakusei】サマ
106「全力疾走」 

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