灰色な関係
今日のwaveは大忙しだ。
人の出入りが激し過ぎる。
私は2階席の一番端の、
一番暗い、一番人気のない席で
ひたすら紅茶を飲みながら思った。
さっきまでは流星くんが2階の担当で
人も多かったんだけど
どこか行ってしまった。
…いつも夕方くらいに
フラーと立ち寄る程度だから
カウンター席とかで
常連気取っていたけど
こうしてみるとこの店には
たくさんの女性客が来てるのかー、って。
少し寂しくもなった。
…って、
なに気取りだ、私。
ハァ、と再び漏れたため息。
2階からだとお客さんの
行ったり来たり座ったり待ったりが
よく見えて面白い。
堺さんも、ケチなのだ。
チョコを渡したい人は
最低1つドリンク買うとか。
…まぁ、私も紅茶を
買ってしまってるわけ、だけど。
そんなことを考えていたら
私の前に千早さんが来た。
そしてテーブルに座り
はぁ、と息をつく。
2階席はガラガラで
しかも千早くんは帽子を被り
眼鏡なんてかけていて
制服の上からコート着てるから
誰なのかも多分、
チラホラいるお客さんも
気付いてないと思う。
「…千早さ、」
「しっ!!」
すごい剣幕でそう言われて
私は慌てて口を閉じた。
「サボってるから、黙って。」
私が小さく頷くと
ニコリと変装用眼鏡越しに笑う。
「チョコ、何個くらい貰えましたか??」
「んー…。60個くらい。」
耳を疑う私に
平然としている千早さん。
「今年は江口さん、
大学行ってから来ちゃったから
俺、ビリの予感だな…。」
「60個でですか…?!」
「うん。
去年は当日まで
お店やるかやらないか未定だったけど
今年は二週間も前から堺さんが
『勝負させる』っていっちゃってるから
お客さんも多いしねー。
しかも、ビリの罰則が
4時間無給プラス
換気扇掃除と買い出しと
制服全員分クリーニングとか
地獄だもんねー。」
…なのにこの人、
いいのか、ビリで。
「千早さん、ビリですよ。」
「換気扇は江口さんにやらせて、
買い出しは陽サマにお願いして、
クリーニングはたっくんに頼んで
無給分はサボる。
みんな俺に甘いから。」
自分で言っちゃってるよ。
そう思った私の心を
見透かすように笑った。
「亜子ちゃんのチョコ発見。」
慌てて隠すと
更に優しく笑われる。
「涼太くん??」
「いや、でも。
人気、みたいだし。」
「うん、一位だね、今のところ。
5分前で、あと2個で90個。」
改めて聞いて少しヘコんだ。
でも、そりゃそうだよね。
私のチョコなんて
他多数と一緒、かぁ。
「…これは千早さんにあげます。」
「えっ??良いの?!
俺、甘いの好きだから
涼太くんに渡しとこうかとか
優しいこと言わないよ??」
うわ、ちょっと期待してた!!
そしてバレたらしい。
またも楽しそうに笑う千早さん。
すると千早さんの手から
パッとチョコがなくなった。
ビックリして横を見たら
そこには涼太くんの姿が。
「千早さん、なにしてるんですか。」
「俺、もう今日は帰りたいんだ。
大学のチョコに
からし入りが3つもあった。」
「雑に遊んだ天罰です。」
話についていけない私を見て
涼太くんはニコリと笑った。
あの、悪魔の微笑。
「亜子ちゃん、これなに??」
「返して、俺のだよ。」
「りょーたくんへって
書いてありますけど??」
千早さんは珍しく
機嫌悪そうに舌打ち。
涼太くんは私に
チョコを見せて顔を近づかせる。
「くれるの??」
「あ、う、うん…、」
「受けとってって
可愛く言って??
可愛くね。
じゃないと、いらない。」
その微笑みの裏でよくもまぁ
そんな黒い考え浮かぶよね。
「…う、け、とって…??」
ものすごくゆっくり言った私に
また、少し笑う。
「いいよ。
今日、夕飯よろしく。」
そっと鍵を渡されて
ニコッて笑われて、
なんかほんと、
私って
特別なのかな、とか
期待させないで。
灰色な関係
**
裏口で一服しながら
亜子ちゃんからのチョコを眺める。
「うわ、涼太??どうしたの??」
「つーか。」
ビールの空き箱を出しにきた晴仁さんは
俺を不思議そうに見た。
「つーか、
なんとも思ってない女に
家の鍵とか渡しますか??」
晴仁さんは俺の手のチョコを見ると
「さぁね」と笑った。
俺の吐いた煙が
亜子ちゃんからのチョコにかかって
なんとなく嫌で、煙を巻いた。
2012.02.14
hakuseiさま
灰
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