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だけど、体は息をしたがる

俺が中三の頃。

学年が上がってすぐに
担任に呼び出されて、
父親に殴られた。

迷惑かけるなって、
どんだけ問題起こすんだって、
すげー怒鳴られて。

兄貴は引き止めてくれたんだけど
俺は荷物をまとめて家から飛び出した。

ギンの家に泊めてもらおうと思ったら
そう言えばまだ塾だった。

和泉先輩なら泊めてくれるかなって思ったら
帰ってきてなかった。

当時付き合ってた彼女に連絡しても
その時に限って繋がらなくて。


なんだよ、俺は独りかよって。


ポケットから煙草を取り出したら
ライターがつかなくて。


本当に世界に嫌われた気がして
ため息をついてギンの家の前の
公園のベンチに横になった。


俺のことを見て
公園に入るのを辞めたカップルが
なんか、異様にムカつく。


「おい!カップル!

イチャつく場所探しかよ!陽気だな!」


カップルの彼氏が俺のことを
怖がっているような哀れむような
軽蔑している目で見てくる。

それが世間の目に思えて
俺は起き上がって彼氏に寄る。

彼女の方が彼氏の影に隠れて
彼氏も足がすくむ。


俺のこと、そんなに怖いかよ。


そう思ったら更にイラついて
胸ぐらを掴もうとした時だった。


「そうちゃん?」


俺が振り返った隙に
カップルはコソコソと立ち去った。

立っていたのは一個先輩の
和泉先輩の友達の由香ちゃんだった。


「何してるの。」

「なんもしてねーよ。」

「人の家の前で
絡むとか辞めてよ。」


由香ちゃんは昔から

なんでもお見通しだ。


「…学校帰り?」

「うん、まぁね。
そうちゃんは?家出?」


何も答えなかった俺に
ニコリと微笑む由香ちゃん。

黙って俺の隣に座るから
ため息をついて足を組んで口を開いた。


「俺なんて

死んだ方が良いのかも。」


由香ちゃんは何も言わずに
静かに話を聞いてくれた。


「川瀬に呼び出されて、
俺、やってねーのによぉ。
落書き犯疑われて。

親父に殴られて。
迷惑かけるなって。

彼女も連絡取れねーし。

俺、誰にも必要とされてねーんだよ。
いない方が世の中平和になんだろ。」

「ふーん。」

「もう死んだ方がいいんだ。」


由香ちゃんは頷くと
突然、俺の鼻をつまんだ。

何かと思ったら由香ちゃんは
すっげー笑ってた。

街灯が変な風に
由香ちゃんを照らす。


「だったら息、

止めちゃえば?」


そう言ったかと思ったら
空いていた左手で口を塞がれる。

当然苦しくなった俺は
由香ちゃんの手を慌てて叩く。

由香ちゃんはゆっくり手を放して
俺は慌てて息をした。


「生きたいんじゃん。」


あまりに楽しそうに笑うから
俺も思わず吹き出してしまった。


「なんだよ!
どうせならキスでふさげよ!」

「あー、なるほどね。」


由香ちゃんは笑ったまま頷いて
俺の頬に軽くキスして

驚いた俺の顔をまた、
楽しそうに眺める。


「…生きてて良かったー。」

「そうちゃん単純だな!」


由香ちゃんが行って
やっぱり心臓はドキドキして

もう一回煙草を取り出してみたら

つかなかったはずのライターが
なぜか、カチリと火を灯した。



だけど、体は息をしたがる







**


「俺、由香ちゃんに
チューされたことあんだけど。」


桐高の文化祭の時
和泉先輩に言ってみたら
へぇ、と興味なさげだった。


「リアクションうっす!」

「アメリカではキスなんて挨拶だしな。」

「は?
俺が中三の頃だし!」

「冴島、当時からもう
アメリカに憧れてたんだろ。」


…あぁ、なるほど、なんだ。

俺のこと誘ってるのかと思ってた。


「ホテル誘わなくて良かったー!」

「うん、
喰われてたのお前の方だぞ。」






2012.08.26
hakuseiさま
だったら息を止めてしまえ

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