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凶器な鋏が大変身


先輩の手は相変わらず

ふるふると震えている。


「…あの、先ぱ-」

「ふざけんなっ!!動くなっ!!」


大きな声でそう言われ

はぁ、とため息が零れる。


「もう、自分でやりたいです。」

「良いから。俺に任せろ。」


そう言われてから既に

15分経過してます。


「…自分で切ったら
こんなの5分かからないのに。」

「良いんだよ。

時間はたっぷりあんだから。」


…いま、何してるのか??


先輩に前髪を

切られかけています。


なぜか良くは分からないのですが
今日、先輩の家に帰ったら
シャキーン、とハサミを輝かせ

「俺が前髪切ってやる!!」

と、宣言されてしまいました。


とってもトキメきました。

かっこよすぎました。


アホっぽかったですが。


「せんぱーい…。
もう、自分で切りますよー。」

「やだ。俺が切る。」

「なんなんですか??
その意地の張りようは。」


先輩のことを見つめると

先輩も私を真剣に見てて

また、ドキンと胸が鳴る。


慌てて顔を下げると
「うわっ!!」と驚く先輩。


「なんだよ、どーした??」

「あ、いや…。

なんか先輩…、真剣だったから…。」


照れちゃって、なんて

恥ずかしくて言えない。


「そりゃ真剣だよ。
スズの前髪を切るんだ。」

「だから…、自分で切れますし…、」


そう言った瞬間。


チョキン、と鋏の音がした。


パラパラと髪が
抱えていた袋に落ちる。


「あー!!
先輩いま、鋏横に入れたでしょ?!」

「え??ダメなのか??」

「縦に入れるのっ!!」


そう言った私を見て

申し訳なさそうに鋏を置く。


「…俺には無理だ。」

「だから最初っから
そう言ってるでしょ。」


かっこよかったから

全然、良いのですが。


「なんで突然、私の前髪なんか
切りたくなったんですか??」

「この間、泰睦が
彼女の前髪切ってたら、
ドラマみたくキスに至ったって。

先輩もやってみたらって。」


…また泰睦か。

先輩が意外と
世間知らずなのを良いことに
変な知識を吹き込みすぎだよ。


「前髪切らなくたって

ドラマみたく、キスできます。」


唇を重ねると

フフン、と笑う先輩。


「まぁなー。」


そしてもう一度、
優しく唇を重ねる。


「でも、俺的には

凶器な鋏でも
ロマンチックなアイテムに
変われるってゆうのが

すげー魅力的だったのー。」


そう言って私を

ギュッと抱きしめる。


「愛の力っぽくて。」

「歌詞にしては腐すぎますね。」


「あぁ。ボツだ。」


テーブルの上では鋏の刃が

キラリと光を跳ね返した。



凶器な鋏が大変身







**


でもね、先輩。

歌詞にしてはくさすぎますが。


発想としては

私も賛成です。






2011.05.09


【hakusei】サマ
002/365「鋏」

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