何度でもかけるから

携帯の着信履歴の
常に一番上にあるその番号からの電話に

出れたことはほとんどない。

理由はいくつかあって、
まぁ、一番大きな理由は

かかってくるタイミングが
わざとかってくらい、悪い。


なんの前振りもなく
突然かかってきたり、

無理だよって言ったのに
その日の夜にかけてきたり、

それでいて出ないと割と落ち込む。


どうなのって感じ。


「…いや、
かけなおしてあげてって感じですけど。」


私の話を聞いた後輩の泰睦は
冷静な態度でそんなことを
偉そうに言ってきた。


「あんたは本当に
徹底してフミくん派だね！」

「俺ってなかなか
友達にならない代わりに
なった人のことは全力で守るんで。

女の子って
そういうの好きでしょ。」


なんかドヤ顔されたんだけど、
フミくんはあんたの先輩であって
友達とは違うんだぞ。


「順位が明確なんだね。」

「まぁ、そうとも言いますかね。

どっちにせよつぐみ先輩のことは
中の上くらいにしか思ってません。」

「…思ったより上。」

「都ちゃんの友達の中では
最低ランクですよ。」


あー、これが噂の、
あげておとす、ってやつか。

なるほど、私も早く習得して
フミくんを泣かせよう。


「つーか、つぐみ先輩って
ほんとにフミくんのこと
ちゃんと本気なんですか？」


チャラチャラした声色で
意外と深いこと聞いてくる。


「…本気って、どのレベルで？

少なくとも私は
フミくんで遊ぶほどは暇じゃない。」

「まぁ、なら良いんですけど。

つぐみ先輩って謎だから
フミくん、疲れそうだなって
ちょっと思っただけです。」


疲れそう、だって。

なんか、昔にもそんなこと
言われたような気がするな。


…あれ、おかしいな。

上がる前に落とされた。


落として落とすとか、
泰睦、ルール違反じゃないのか？


「つかれ、そう。」

「…え、あの、
今のはいつものノリですよ？

そんな本気にされても、」


その時、私の携帯電話が
ミーンってなった。


「…着信音、セミって。」

「フミくんだ。
あの人、うるさいから、
着信音もうるさくした。」

「うわ、ひっど！」


でて良い？って聞く前に

泰睦は無言で私の資料を取ってくれた。


一回廊下に出て
通話ボタンを押す。


「…もしもし。」

《あー！つぐみだ！
やっと電話でた！》


…なんか、それはそれで
言われるとムカつく。


「なんかよう？」

《いや、別にないけど！

夕日綺麗だから！》


…意味わからん。

夕日が綺麗だから、
…だから、なんなのだ。

メールでいいんじゃないのか。


「…フミくん、いまどこ。」

《流星ん家。留守番してる。》


「電話、いっつも
出れなくてごめんね。」


悪いなんてあんまり
思ってないけど。


私がただ、いつも
着信履歴を見て、少し、

寂しくなるだけだから。


そしたらフミくんは
ほんとだよー、って言ってから
明るく言った。


《ま、電話なんて、
何度でもかけれるしな！》


…あぁ、なんていうか、ほんと、

「…ほんと、バカだね。」

《はぁ?!》


「バカすぎて

おちつく。」


…あ、逆だった。


おとして、あげちゃった。



《…落ち着く？
それって、俺といると楽しいってこと?!》

「あー…、逆だー。」

《えっ?!ぎゃく?!》

「気にしないで、また明日ね。」


少し早めに電話を切った。


照れてるとか、バレたら

恥ずかしくてやだ。

何度でもかけるから

**


「つぐみ先輩のどこが好きなの？」


泰睦に聞かれた時、
すっげー考えたのに
何も答えられなかった。


つぐみならきっと上手に適当に
なにか言うんだろうなって思った。


「あいつ、計算高いじゃん？」

「…え、気付いてたの？」

「いや、わかんないけど。
多分、そうなのかなって。
いま、なんとなく思った。


そこが好きかな。」


泰睦は不思議そうにしていて

俺も自分で答えたくせに
意味わからなかった。




2012.04.17
hakuseiさま