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一人で勝手に戦闘体制

スズは相変わらずアホさを露呈しながら
俺の質問に首を傾げている。


「竹沢せんぱいぃー?」

「こないだの決定戦で三位だった先輩。
さすがにお前も知ってるだろ?」

「知ってるけどさー。
そもそも調理部の先輩じゃなかった?
私よりも大澤のが仲良しでしょ?」

「仲良くないから!敵だから!」


えぇー?とスズは
再びアホさを爆発させながら
面倒臭そうに頬杖をつく。


「竹沢先輩は絶対に
本宮さん狙いなんだよ。」


無駄に本宮さんに話しかけるし
無駄に本宮さんに笑いかけるし
無駄に本宮さんの隣に行くし!


俺はもうほとんど
確信に近い形で
竹沢先輩をライバル認定している。 


「んー、でも、竹沢先輩って
彼女いたような気がするけどなぁ。」

「だれ情報?」

「岡田先輩?」


聞いたこともない先輩の名前に
俺は思わず鼻で笑った。


「だれだよ」

「竹沢先輩と同じクラスの
バスケ部の人だよ!

ギャラスタのチケット貰ってくれて
それ以来仲良しになった。」

「で?
その人と竹沢先輩仲良いわけ?」


口を閉じたスズを見て
俺は再び鼻で笑ってやった。


「大澤嫌味ったらしい!!」

「お前の情報なんてアテにしてないしな。」

「だったらあっちゃんに聞きなよ!」

「あっちゃんはいないって言ったんだよ。」


唇を噛むスズに俺はふふん、と
強気な態度を見せてやった。


「…いや、喜ぶのおかしいでしょ。
詩織、竹沢先輩に取られるよ?」

「そうなんだよ。
あんな完璧に俺が勝てる訳がない」

「たしかに。」


分かっているけどイラついたので
スズの肩をぶった。

スズはさほど気にもせず
また頬杖をつく。


「まー、詩織は大澤のこと
好きだからだいじょぶよー。」

「お前のそのアホさに腹が立つわ。」


ため息をついて廊下を見ると
竹沢先輩が俺のことを
にこやかに呼んでいた。

…気に食わない!!!


「なんですか?」

「これ、今日のレシピ。
俺、用事があって行けないからさ。」

「それだけですか?」


トゲトゲしい俺の態度を
特に気にすることもなく
あっさりと頷く。


「じゃ。

本宮さんのこと、よろしくね。」


…なんでお前に
よろしく任されなきゃいけない?!


「言われなくても。」

「あの子、危なっかしいから。」


「知ってます。」


会話を遮断するように扉を閉めて
ふぅ、と深くため息をつく。

俺の斜め下ではスズが
感心したように竹沢先輩の
背中を眺めている。


「確かにあれはムカつくねぇ。」

「だろ?!」

「大澤のこと煽るねぇ。」

「そーなんだよ!」


「面白がってるようにしか見えないから
私、同盟組もうかなぁ。」


怒りと嫉妬にイラつくあまり
スズの言葉はほとんど
頭に入ってこなかった。



一人で勝手に戦闘体制







**


「ってわけで、とりあえず
レシピは大澤くんに渡したから。

詩織ちゃん、頑張ってね。」


竹沢先輩の言葉に私は
思わず恥ずかしくなった。


「だから、私は別に、
付き合いたいとかじゃ、なくて、」

「そんなこと言ってる間に
誰かに取られちゃうよ?」


薄く笑った私に
少し呆れたように笑い返す。


「先輩も、彼女さん、
良くなるといいですね。」

「うん、ありがとう。」


竹沢先輩の優しさに
いつも救われる。

こうやって少しずつ、
大澤くんに近づけたら

私はそれだけで幸せだ。






2013.06.21
戦闘体制

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