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生ひ優る

那覇空港で乗り換えて、もう1便。
そこでやっと、彼女の住む島に着く。
石垣空港だ。



飛行機を降りたところに、大きなポスターが貼ってあった。
『ようこそ、石垣島へ』
シーサーとハイビスカスとともに書いてあるそれは、今の僕にはどこか哀愁漂うものにみえた。

成田や羽田と違って、石垣空港はこじんまりと小さい。
小さくて、あっという間に出口に着く。
出口の数メートル手前で僕は足を止めた。



「どうしたの?」
彼女が振り向いた。
「僕は行かない。ここで見送るよ」
彼女は黙って僕を見上げた。
「君と一緒にいたくて旅をして、それで分かったんだ。やっぱり君とずっと一緒にいたい」
彼女の瞳は、相変わらず黒々と艶々している。
「だから、ちゃんと準備する。ちゃんと準備して、すぐにまた来るよ」
僕は彼女の白い頬に触った。
「君の隣に似合うような、いい男になって帰ってくるよ」



彼女は笑顔で空港を出て行った。
振り返ることのない、彼女のまっすぐな後ろ姿を見送ると、僕は再び搭乗口に向かう。
先ほどのポスターのシーサーとまた目が合った。
「成長して戻ってくるよ」
心の中でそう彼と約束する。
シーサーは口を開けたまま、挑むような目を僕に向けていた。



さぁ、帰ろう。
やることがたくさんある。



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