見出し画像

目指せ! 焼酎マイスター! その2

「白波」でおなじみの薩摩酒造。
その頴娃(えい)蒸留所に到着したのは朝の10時頃。

バスから工場前の敷地に降り立った途端に、むせ返るような匂いがする。

「一旦中に入るとトイレに行けない」とのことで、まずはトイレ休憩。
このトイレはさらに強い香りが充満していた。
おそらく、芋が発酵する際に放っている香り。

工場で働く方は、もう香りに麻痺している様子。
かくいう私たち見学者も、工場構内を歩くうちにほぼその香りが気にならなくなっていた。

巨大な工場内には、パート勤務らしき方たちが、一心不乱にベルトコンベアで流れてくる芋の痛んだ部分を取り除いているのが見えた。

反対側には、蒸しあがった芋がごろごろ。

ホカホカの湯気が立っていました。

「一口どうですか?」

そう言われて口に入れたのは、焼酎の原料である「コガネセンガン」というサツマイモ。ここの方たち、小さい頃から運動会やらイベントやら、おやつにこれを食べているので、もう食べないと言っていた。

味は、ほぼ甘みが無い、淡白な味わい。
焼き芋を想像していたら、全く違った。
だからこそ、焼酎に合うのかもしれない。

発酵工程では、一次発酵でバナナのような甘い香りが。
発酵の行程が進むと香りが変化していく。
生きている飲み物なのだという事がとてもよくわかる。

単式常圧蒸溜器 下にある度数を測る計測器が面白かった

その後の蒸溜の機材を見て、これが噂に聞くやつか!と嬉しくなった。
勉強をし始めておよそ半年、化学式は相変わらず一向に頭に入って来ないけれど。その成分の名前、取り除かれる油脂成分の名前、香りの成分の名前、頭の中で反芻しながら必死で英語を思い出そうとするが、全く出て来ない。長い行列について行くのが精いっぱい。

植物と、米と、麹で発酵していく飲料。
日本の麴は、摩訶不思議な物体なのだ。

世界的にも注目され、麴菌を使った酒造り技術は昨年国の無形文化遺産にもなっている。今年の3月には、ユネスコ無形文化遺産にも提案された。
いつか無形文化遺産として正式登録される日もやって来るかもしれない。
インバウンド向け国内ガイドには必須の知識とも言える。

工場内の騒音にかき消され、時々説明が聞こえなくなるたびに、ああ、昨日もっと複習しておくんだった。と後悔。

大人数の団体を引き連れた列は、無言で甘い発酵香のなかを進んで行く。
各発酵段階に応じて、一つ一つ丁寧にタンクを覗かせてくれる。
なかなかない経験だった。

巨大工場を後にして、次は明治蔵へと向かった。(タイトル写真)
そこは、明らかに観光客受けしそうなテーマパークのような造り。

レストランもあって、まずは昼食という事になった。
飲み放題とのことで、飲み続ける受講生達。

すげ~。

珍しいビールだけで真っ赤になっている人の心の声

ビール一杯ですぐ眠れる自信がある私。
飲むのは控えようとしていたのだけれど、お隣の社長さんが珍しいビールを持って来た。なんと赤紫色のビール。そして美味しい。
アントシアニンたっぷり。ムラサキイモを原料にして造られたビール。

薩摩RED 島津藩のマーク入り 鹿児島のあちこちで見かける島津の家紋

「なかなかの特産品ですねぇ」とお話をしていたら、斜め向かいに座っていた受講生が、ここの従業員さんだった。
変なこと言わなくて良かったと、ほっとする小心者。

ほどほどに口にしたが、すぐに顔が真っ赤に。
もう2種類の珍しいビールがあったのに飲めずじまい。

お隣の酒造メーカーの社長さんは、次から次へと試飲。
ビール好きな方、明治蔵へお越しの際は、是非お試しください。

休憩1時間の後、「やはり、この仕事には適性があるな」とほんのりほっぺの出来上がった状態で明治蔵の見学は始まった。

蔵の中は、小学生の授業見学ルートにできそうな詳細な説明と、どうやって焼酎が出来るかを絵や文字で示されている。ルートを進むにつれ、古い重厚な樽が幾つも現れてくる。

重厚なつくりの蒸溜樽

やはり、近代的なつくりの蔵よりも、こちらの方が観光客心をくすぐる。

端から端までじっくり読めば、焼酎の製法は大方頭に入るようにできている。個人的には、もっとゆっくり、じっくり全部読みたかった。
どんなツアーもそうなのだけれど、時間制限というものがあって、個人的にもう一度来たいと思えるかどうかで、その良さが分かる気がする。
ここは、観光地化されながらも、もう一度来たいと思わせる場所。

残念なことに、日本語だらけなので、ここもインバウンド受入れのためには各国へ向けた言語の資料作成がこれからの課題となりそうだ。

かつて、酒蔵には女性を入れなかったと聞いているけれど、そんな時代ではなくなったという事か、衛生環境が良くなったという事か、誰でも気軽に訪問できるようなエンターテインメント性あふれる造りの蔵だった。

大昔の蒸溜器が目に入り、横に焼酎の瓶が置いてあったので飾りかと思っていたら、なんと、今でも1年に数回使うという。
横の焼酎瓶に蒸溜されたものが満たされるとか。
もう、どんな味なのか気になって仕方なかった。

今も使用されているという大昔の小さな蒸溜器 足元のまき窯はガスに変えられている。

ひととおり、焼酎を攪拌させる体験などもした後、最期に時間があるとのことで塔の上まで上がったのだけど、酔っているうえにくるくると何回も螺旋階段を回ったので、上にたどり着いた時は、もうふらふら。

それでも、遠く霞む島までが見渡せた。

「あそこに屋久島が見えるんですよ」
そう案内してくれた。

鹿児島港からほど近い屋久島。高速船トッピーに乗れば、すぐに到着する。
かつて何度も1泊で往復して、地元の方に「ぼっけもん」と呼ばれてた私。
(ぼっけもん:怖いもの知らす、大胆に変なことをする人みたいな意味)

その物語をいつか書いてみたいと思いながら、あまりに辛い思い出になっていてなかなか書き出せない。
第三者の視点での物語としてなら、いつか書けるかもしれないなと思っている。

暫く遠くを眺めていたら、サシバが上空を滑空していった。

またもやぐるぐる螺旋階段を降り、最期の関所は、勿論、お土産売り場。
その前に黒じょか(黒千代香)が沢山展示されていて、思わず足を止めた。

名前の通り、真っ黒の物しかないと思っていたので、
これほどたくさんのデザインのあるものだとは知らなかった。

平たい形が面白い 鹿児島の伝統酒器

韓国の時代劇でも似たようなものを見かけたけど、古くから交流はあったのだろう。初めて本物を見たというと、驚く地元の方たち。

こちらでは、どこの家にもあるもののよう。
「いえ、関西にはないですよ」と言ったら、さらに驚かれた。
ケンミンショーに出せるネタか。

「これに一晩、水と焼酎を1:1にして寝かせて飲むと美味しいですよ」と教わった。

いつかやってみたい。

そう思いつつ横を見ると、さらに珍しい焼酎を何種類もテイスティングしている受講生の列が見えた。

まじかい……。

底なしの酒豪たちと同じ講座を受けていることに今更おののく

ほろ酔いの私は、柚子サイダーを購入し、土産物売り場を後に。
そうそう、ほろ酔い【tipsy】って英単語、結構使ってたなと思い出す。
男性が言ってるの聞いたことないけど。

アメリカンならfeeling buzzedか。これはちょっといい気分~って感じ。
スラングはあまり使わないようにしてるけど、こっちもよく聞いた。
いや、別の、あの、ほら、妙なお薬やってる人なんかも使うからさ……。

流行り言葉って、すぐ時代遅れになる。日本語も同じ。
だから、いつまでも若かりし留学時代と同じスラングって使ってると、それ今言わないよ~!と笑われて時に恥ずかしかったりするもの。

”neat!(すげ~とか、いい!みたいな感じ)”も、かなり昔に流行っていたけど。インスタもNeato!みたいにまだ使っているのか。
ずっと会っていない人達、まだ使ってんだろうか。

話が逸れた。
最後の訪問地は「神の河」貯蔵庫。
出来あがってる脳にさらに追い打ちをかける「追い焼酎香」に目眩がした。
オークの樽の香りは好きなのだけど。ラムの香りも好きなのだけれど。

そう、I'm feeling buzzed. を超えて、完全にtipsy状態の人。

樽の数に圧倒され、その圧倒的な香りの中に長くたっていたせいで、帰りのバスでは出来上がった人たちがいい気分で爆睡したことは言うまでもない。

目が覚めたら、鹿児島中央駅だった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?