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小さな「問い」が心を豊かにしてくれる宿

私にとって「問い」とは色々な気づきを与えてくれるとても大切なものである。島根県海士町のEntoにいた時には、Life is Learning という対話と問いの時間を過ごした。


今回訪れたのは高知県土佐清水にある「海癒 kaiyu」という宿。宿というよりは、生活にお邪魔させてもらったような、とても居心地の良い場所だった。
まず、ロケーションが圧倒的に良い。足摺国立公園の東玄関に位置する大岐の浜ビーチは、真っ白な砂浜と緑の林が1.6キロメートルに渡り緩やかに曲線を描く美しい海岸。絶滅危惧種のアカウミガメが産卵場所にする程きれいに澄んだ海岸は、11月中旬に訪れたにも関わらず「まだギリギリ泳げる水温だよ!」というから驚き。

そんな大岐の浜ビーチまで徒歩数分の場所にある海癒という宿は、オーナーのみっちゃんと奥さんのたえちゃん、娘のまりちゃんと最近結婚したかずくんの4人家族が経営する「癒しの場所」である。到着早々に「あだ名は何ていうの?」と聞かれて私たちも、さなえちゃん、ようちゃんと呼んでもらった。

みっちゃんは元々ホテルマンだったそう。でもお客様と従業員の関係では深い話はできない。○○様、と呼ぶのが普通だし、対等な関係ではない。そんなこれまでのホテルの常識ではなく、スタッフもお客様も平等に、食卓を囲み酒を飲み交わして「素」に戻れるような場所として海癒がある。


100%は目指さない、70%のおもてなし


みっちゃんが教えてくれたことの中で印象に残っている言葉。
「海癒は100%は目指していない。大体70%くらいにしている。そのちょっと抜けてるくらいが、お客さんにとっての心地良さにつながっている。」ということ。
TOUCAというプログラムに参加して3拠点の宿泊施設を回ってきた。それ以外にもプログラム中にはあちこちのホテル、ゲストハウスに滞在してみたけれど、あえて狙って70%を取りにいっているような施設は無かったように思う。

1泊2万のホテルと1泊3000円のゲストハウスでは、対応も設備も何もかも違うけれど、「出来る範囲で最大限やる」のが宿泊業の当たり前であって、「やろうと思えばもっとやれるけど、あえてちょっと抜いてみる」みたいな発想は私の中には無かった。マニュアルがない代わりにスタッフそれぞれが120%の個性を発揮している宿はあった。けれど、通常運転の人間なんて大体60か70%が普通なわけで、海癒のコンセプトである「素に戻る」ということを誰よりも体現しているのがオーナーファミリー達であった。


みんなで食卓を囲む、ファミリーディナー


海癒ならではの時間の過ごし方に「ファミリーディナー」というものがある。その日泊まっているゲスト全員で食卓を囲む。大皿の料理が沢山並ぶのだが、その食材のほとんどが「どこで、誰が、どうやって」育てたり釣ったりしたものなのか、そのストーリーが語れる食材だという。私たちが宿泊した時は1組だけだったので、贅沢にもみっちゃんファミリーと6人でビュッフェスタイルだったけれど、多い時には20名程度のお客さんで食卓を囲む時もあるそうだ。


ここで登場するのが「小さな問い」


あなたにとっての豊かさとは?
あなたにとっての幸せって何?

と、その内容はその日のメンバーによってちょっとずつ変わるのだそうだけれど、必ずみんな答えて、みんなでそれを聞いていく。

私の家はよくホームパーティーをしていたのだが、人数が多くなってくると1つの話題で全員が話をすることが難しくなる感じが苦手だった。同じ空間にいて同じテーブルを囲んでいるのに、こっちとあっちで話している内容がバラバラ。それは良くも悪くもで、それぞれがそれぞれに話したいことを話してたらグループがバラバラになるのも当然なんだけれど、せっかく同じ時間を共有しているのに同じ話が出来ないのが嫌で、段々とホームパーティー自体が好きじゃなくなっていった。

けれど、みっちゃんファミリーと過ごした時間は本当に贅沢なひと時だった。「問い」という小さなきっかけが、互いの価値観をシェアしたり、新たな気づきをくれるきっかけとなる。以前は日本人よりも海外からのゲストの方が多かったそうだ。外国の旅人がどうやってリサーチして四国の端っこの宿へ辿り着くのか気になるところだけれど、私たち日本人にこそ改めて必要なものを教えてくれる場所のような気がする。

スタンプラリーのように観光名所を巡るのではなく、肩書きや地位やプライドなど、知らず知らずのうちに自分にくっついている色んなものを取っ払って、ピュアな自分を取り戻す。ただそれだけの旅もこれからの時代には必要なのかもしれない。

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