人形懐胎

蔦に覆われた
赤い屋根の古い洋館の
寂しいテラスには
風も無いのに
白いレースカーテンが揺れていて
抉られた眼窪のように
真っ暗なその奥に
ひとり彼女が座っている
腐り果てた床に
ぎしぎしと
軋む音を立てる
古風な揺り椅子の上に
深々と優雅に腰を掛けて
黄金の巻き毛を垂らし
血の気のない雪白の顔に
青いガラスの瞳を浮かべて
何の表情も無く
綿のドレスに包まれた
大きい腹に手を添えて
彼女は待っている
風も無いのに
揺れていている
白いレースカーテンの向こう
あの陰鬱な灰色の空が
真っ赤な血の色に裂けて
そこから黒い鴉たちが
涙のように垂れ落ちる
そのときに
スカートの布に包まれた
闇のなかの闇で
彼女の新生児
人形の人形が音も無く
産声を上げるそのときを

※この詩は私のブログ「私の中の万華鏡」に掲載したものです。