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字義【あらすじ、筆者紹介】

あらすじ

砂糖、塩、酢、醤油、味噌、それぞれの調味料をモチーフとした献立をこしらえるゲイの手抜き料理サークル「さしすせそ」。ささささん、しししさん、すすすさん、せせせさん、そそそさん、と仲間内であだ名し合う五名はレンタルキッチン「すぷうん」に集うも、今回は調理ではなく書き初めを楽しむ。「わたくし」はしたためられた各々の字に思いを馳せながら、字に込められた底意を掬い取る。

筆者より

「字義」を執筆させて頂きました、ぬまと言います。続編という程の繋がりはありませんが、過去に執筆したものの設定を流用して書いてみました。
テーマ「欲」ですが終盤に食い物の話へ落着できて良かったです。ちょうど設定が料理サークルだったので渡りに船です。
稚拙な文章でお恥ずかしい限りですので、他のメンバーのをお手に取って読んで頂けたら嬉しく思います。

作品抜粋

 幸――。遍く人の世になくてはならぬ、望まれ続ける字でございましょう。自らの幸福や恩寵の恵みを求め、今日も人の子は決して絶えることのない祈りを続けてまいるのでございます。その営みの、なんと儚く美しいことか。
 しかしながら、字とは功罪両面の性質をもつもの。なれば、字に対する彼の者らの思弁、わたくしめがその底意を汲み取って差し上げましょう。なに、彼の者らの思惑、得てして皮相浅薄なれば、柄杓なぞ使わずともわたくしの手許にございますこの匙で十分に掬い取れますゆえ、ご安心召されませ。
 せせせさんの案内により、ささささんは字の書かれた和紙を壁に貼り付けんと皆に背を向けてございます。まさにその時こそ、彼の者の浅はかな底意が露わになるのでございます。
 至上の幸福とは何ぞや。それ即ち、不幸なり。特に隣人の不幸なぞ、格別上等にして甘美なる蜜の味。いくら幸で腹が満たされようとも、甘いものは別腹なれば。いくらでも馳走にあずかろうぞ。
 ああ、小腹が空いた。不幸は、何処や。ふ、ふふっ――。
 幸災楽禍なささささんの含み笑いが、心中にこだまするのでございます。

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