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住処の記憶【あらすじ、筆者紹介】
あらすじ
母を半年前に亡くした私は、実家で遺品を整理するために地元に帰ってきた。実家を整理していく中で、幼少期から学生時代までを過ごした地元の思い出が蘇ってくる。母との関係性や上京前の地元での記憶を綴った小説。
筆者より
毎回ですが、まだ書き終わっていません。今回はなんとなくテーマを決めて、具体的なプロットを書かずに書き始めてしまいました。そのためまだ着地点が不明です。ただ、私の地元のことを文章にしていると、今まで全然忘れていた記憶が不意に降りてくるのが面白かったです。そんな記憶をつなぎ合わせてしまっているので、ちぐはぐな感じの小節になってしまっているかもしれません…。ご容赦ください。
作品抜粋
数年前に全面建て替えとなった実家の最寄り駅である小林駅は真新しい白と銀の直線で構成されたデザインになっていた。常磐線で松戸、柏を超え、安孫子で成田線に乗り換えてやっと到着する田舎町の駅としては似つかわしくなく不釣り合いだった。
電車から降りた乗客は私しかいないようだった。電車が去っていったホームには私一人が取り残されていて、初春のまだ冷たい風が落ち葉をカラカラと舞い上がらせていた。階段に向かって歩いている時に、私は建て替え前の駅の姿を思い出した。このホームの中央には、掘っ立て小屋のような待合場所があったのだ。屋根がある場所はそこにしかなく、雨のときにはそこで待つか、傘をさし立ちながら外のホームで電車を待たなければならなかった。私はあの狭い空間の中で他人と居るのは嫌だったのであまり利用したことはなかった。今は綺麗に整備された屋根付きのホームと緑色の無機質なプラスチックの椅子があるだけで、あの掘っ立て小屋のあった痕跡は綺麗さっぱり無くなっている。
私は奥の階段に向かい、改札を出て駅前に出た。駅前にも人は全くいなかった。軽トラックが音を立てながら私の前を横切る。駅の全面建て替えが始まるさらに数年前に、駅前のスーパーは潰れていた。建物は解体され、敷地はすべて駐車場となっていた。私は誰も居ない駅前通りを歩いた。
通りを十五分ほど歩き、ガソリンスタンドの先の小道を曲がる。車がすれ違うことのできない道をしばらく進むと、坂の上に私の実家が見えた。侵入防止のためのロープを外して坂を登る。敷地に入り一番最初に目に入るのは大きなソメイヨシノだった。今はまだ咲いていないが、もうあと一、二週間もすれば花が咲き出し庭いっぱいに花びらが舞うことになるだろう。しかし、今年にいたってはその花を見るのは私と不用品回収業者だけだ。
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