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D君の彼氏【あらすじ、筆者紹介】

あらすじ
 榊大介は付き合って5年になるパートナーのウニとともに、新幹線に乗って実家のある福島県に行く。
 親に紹介する間際になっても、榊は実感が湧かず、気持ちが入らない。一方のウニも榊のずぼらさに呆れ、タバコばかり吸っているがーーー。

筆者より
 締め切りを過ぎ、あらすじを書いているのに、まだ終わっていません。初めて書く文章は、自分との対話のようで、いろいろな驚きと発見がありました。未来の自分がちゃんと書き終えてくれることを祈ります。

作品抜粋
※やまびこに車内販売がある描写がありますが、実際には車内販売は行っておりません。またやまびこの東京〜郡山間からは、海はどの方向からも見えません。

 新幹線が東京駅を離れてからも、ウニはタバコを吸える場所を探しているようだった。
「喫煙ルームってもうないんだっけ」
 トイレにしては長い間席を離れていたので、てっきり仕事の電話でもしているのかと思ったら、喫煙スペースを探して揺れ動く新幹線の中を、端から端まで歩いてきたのだというから榊は笑ってしまった。
 トントンとスマホをタップして、まとめ記事を見せる。
「やまびこにはないって」
「まじかよ」と唸って大袈裟に肩を揺らすと、長い足を窮屈そうにしまってウニはようやく座席についた。後ろに座る人間に「あーす」と声をかけて、プシューと座席を後ろに倒す。
 遠くから車内販売の声が聴こえる。ウニはいまだに眉間に皺を寄せ、「新幹線」「タバコ」「吸う方法」などとセコセコ検索し、ときおり出てくるエロ広告を面倒くさそうに消している。
「ビール買って」
 広告の閉じるボタンを押し損なって、女の子がレイプされてる漫画が表示された画面を見ていたウニは怪訝な表情でこちらを向いた。どうやら昨日も夜遅くまで仕事をしていたらしく、目の下はうっすら黒ずんでいる。
「や、だからさ、車内販売」
 ちょうどワゴンを引いた添乗員が横を通る。ウニは短く「ビール」と言って、その後「あとアイス」と続けた。

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