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この執着について【あらすじ、筆者紹介】

あらすじ
ある日、唯斗ゆいとは突然、「俺」の前から姿を消した。
唯斗について、その関係者たちにインタビューを開始する「俺」。それぞれの男の証言を通して、次第に浮かび上がってくる唯斗の姿。それを知った「俺」は、何を感じるのか。

筆者より
こんにちは。「この執着について」の筆者のゆーです。今号のテーマである「衝動」について考えた時、いつもとは全く違う方向の電車に飛び乗って着の身着のまま、明日のことなんて考えずにどこかへ行きたくなる時はあるかも、と考えました。それと、今まで彼氏が認識している「俺」と、友達が認識している「俺」、それ以外の人が認識している「俺」は、当たり前だけど全然違うよなぁと感じたことをいつか書きたいなと思っていたので書き始めたのですが、自分以外の視点から自分を見つめるって思っていた以上にしんどくて、今までで一番書いてて苦しかったです。ご笑覧くださいませ。

作品抜粋
 ユイトの話を聞きたいって? でも、俺は別にユイトについて話すことなんて特にないんだよなぁ。それにほら、結構酔っちゃってるし。
 わかったって。じゃあ、ここだけの話にして聞き流してくれる? いいって、俺も見ての通り、一人で飲んでて暇だし。でも、俺が話したってユイトに言わないでよ。
 ユイトと最初に会ったのは、二、三年くらい前かな。出会ったのはマッチングアプリだったんだけど、実は俺はもっと前からユイトのことを知ってたんだ。いや、ストーカーとかじゃなくって、同じ街に住んでて、通勤時間帯も似てて、たまに電車の中で見かけてたんだよ。ユイトに会ったことある? 俺、ああいう子好きでさ。だから、かわいいなってずっと思って眺めてたんだ。だからアプリでマッチングしたとき、本当に驚いた。なんで俺とこの子が? って。なんていうか高嶺の花っていうか。もちろんユイトがゲイなのは見た目とかでなんとなくわかってたけど、でも俺に興味を持ってくれるなんて全く思わなかったんだ。だってそうでしょ、こんなどこにでもいる普通のおっさんを、なんで十歳も下の子が気にかけてくれるんだよ。今でも信じられない。
 ユイトと初めてちゃんと会話した時のこと、俺は今も覚えてるよ。たぶんユイトは全く覚えてないと思うけど。アプリのメッセージの流れで、俺の家に来ることになったんだ。もちろん、ユイトに彼氏がいることも、その彼氏と同棲してることもプロフィールに書いてあるから知ってた。それでも初対面で家に来るって流れになって、やっぱりそういうことなのかとは思った。ヤリモクなのかなって。幻滅しなかったといえば嘘になるね。ユイトは俺にとって、言うなれば推しに近い存在だったんだよ。付き合うとか付き合わないとかじゃない、生きてる世界が違う尊い存在。だから、推しとセックスできるんだって思えばそりゃあ興奮したけど、一方でこの子も浮気とか簡単にしちゃうんだって、残念だったのは本当。
 その頃俺、転職したてでさ。四〇歳そこらでの転職だよ? 結構大変で、年下の先輩に結構ひどい扱い受けたりして、病んでたとまでは言わないけど、毎日凹んで毎晩二丁目で飲みまくってて、次の日二日酔いでまた仕事に行って怒られて、みたいな生活だった。
 で、グチばっかり言ってたら友達も聞いてくれなくなって、寂しかったんだ。だから、ユイトに彼氏がいて、俺がただの浮気相手候補なんだってわかってたけど会うことにしたんだ。

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