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浜遠足/幼稚園

お寺の保育園

 とっちゃんが生まれたのは、山に囲まれた村だ。屋根からみえるのはまんまるの山。道路に出たら神社の山。豚小屋の上から見たら目の前は川の土手でその向こうにはお墓のある山。その向こうには町がある。
 お寺があるのは神社の山の下。鳥居に続く参道の東っ側の平坦な一角だ。
 平坦と言っても、2段構え、参道の脇は池がある。池の堤は道路より少し高く、その高さに続く平坦な広場の山側に張り付くように建物があり、そこが保育園だった。一段高い方の土地には立派な本堂と庫裏やとがあり、住職さんが住んでいた。保育園の園長先生は大黒さんだった。おかあさんと呼ばれていた。

 とっちゃんはお寺の保育園に通っていて。
 村の子はどの子もお寺の保育園に通うのだ。親はみんな働いていた。田んぼ、畑、牧場、農協、役場、会社、林業。だから、子どもたちは小さいころからお寺に通い、兄弟のように育った。

潮干狩り

 春先。といっても北海道の春6月、保育園ではバスを仕立てて毎年潮干狩りに行った。海に行くのだから、保護者にも来てもらっていた。もちろん、来れる人だけを募る。養殖が盛んなこの頃と違って、健康な海だったから、あさりとシジミの天然物の大きいのが取れる。シジミだって今どきの蛤くらいのがあったりする。
 お母さんも真剣。その奮闘もあってその夜の食事を賄うに十分なほど!
 兄弟がいれば兄弟からもいかに自分たちがたくさん取ったと自慢されて勢いは増す。 

バスの中

 そんなわけで、バスの中ではお互いの得物(たいてい、同じような熊手なんだけど)をチェックしたり、兄貴の自慢話を吹聴したりちょっとした興奮状態だが、お母ちゃんに怒られてしゅん、と静かになったりする。
 とっちゃんは景色に忙しくてとてもじゃないがそんな会話に入る気もない。だいたい、普段の保育園に満足しているから、バスもあんまり乗り気じゃなかった。でも乗ってみたら、普段歩いている場所が飛ぶように過ぎていく。歩いていくなら死ぬ気にならなきゃならない場所があっという間だ!
 バスが止まって
「おりますよ」
と言われて不満。もっと乗っていたい。
 急かされて家の角を曲がると、そこは海だった!

『なんだこれは!』
 広がる青と波の白。周りの子が一斉に貝に襲い掛かるのをしり目に、とっちゃんは海を堪能した。
 音と匂いとざわめく触感。これが海ってものなんだ。大きくなったらここで働きたい!
 ふと気が付くとみんな何かを取っている。採るのはとっちゃんの本性だ!かあさんが持たせてくれてビニール袋に。何を入れよう?
 とっちゃんは気に入ったものを残らずさらった。

おみやげ

 家に着くと、かあさんが
「今日はお疲れ様でした、ありがとうね」
と、ていねいに袋を受け取ってくれた。そして大笑い。

 袋一杯のヤドカリはもう脱走を始めていた。

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