指先から、夏を感じる。
ボロボロになったペディキュアを、やっと落とした。
無職になって2ヶ月が経とうとしていた。すっかり引きこもりになってしまったものだから、美意識なんて地の底にいた。
サンダルを履いて出かける機会は割とあったのに、もはや直す気にもなれなかった。ちょっとコンビニまでとかそういう近所へ出かける用事ばかりだったから、誰も見ていないだろうと甘えてしまった。
見るに堪えない状態になったペディキュアとやっとさよならしたら、やっぱり新しい色が塗りたくなった。維持は大変なんだけど、やっぱりネイルしていた方がテンションが上がるのだ。
何色を塗ろうか迷って、ポリッシュを保存していたケースを開けると、自分でも持っていることを忘れていた色が出てきた。
メタリックな、ギラギラしたミルキーオレンジ。
去年の夏だっただろうか。意外とギラギラだったのでびっくりして、ちょっと好みじゃないなあとすぐに落としてそれっきりだったものだ。
何気なく、ペディキュアとして塗ってみた。
なんだろう。すごく夏らしくなった。
引きこもりすぎて、夏の暑さとも無縁になってしまっていた。ギラギラしたペディキュアからは、夏の暑さや煌めきを感じさせるようだった。
なんか、いいな。夏らしいこと全くしてないから、夏を感じられていいな。
去年は、好みじゃないなあと思ったのに。
一年経つと、意外と感じ方って変わるものだな。自分では変わっていない気がしたのに。
好みじゃないものが好みに感じられる…という気づきを得た私は、もう一つ眠っていたポリッシュを引っ張り出してきた。
なんだかあまりにもオフィス向けですって感じがして、せっかく仕事を辞めたんだから…とちょっと遠ざけてしまっていたのだ。
ペディキュアは完成してしまったので、手に塗ってみた。
ちゅるんとした、ナチュラルなポリッシュなのだけど、なんだか桃って感じがして。
なんだ、可愛いじゃないか。桃も夏っぽいし。
よくよく見ていたら、そんなにオフィス感もない。勝手な思い込みはよくないな。
思いがけず、指先が季節を私に知らせてくれるようになった。
引きこもってばっかで、夏らしいこと何もできていないから、せめてここで夏を感じていたい。
実はもう8月も終わりで、ファッションは早くも秋服に移り変わろうとしていることには気づかないフリをして。
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