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幕が上がる〜新年度を前にして〜

2023年4月3日。職場復帰した。潰瘍性大腸炎の最初の活動期が一旦落ち着いた頃だった。
前日はベッドに入っても、目から冴えていって寝れなかった。心臓がドキドキしている。遠足前日のような気分だった。

<自己紹介>
東京出身。2020年3月から、鳥取在住。
教員(今のところ、英語)。28歳女性。
ひとり暮らし。本好き。趣味は積読、カフェ巡り。(元々は観劇。)
苦手なことはスポーツを上手にやることと細かい手作業。
2023年1月、潰瘍性大腸炎を発症し、難病と向き合う人生がスタート。
Podcast「Book Club」運営中。

1、2ヶ月前は毎日寝込んでいたから、働けるようになっただけで、少し安心する。
社会に居場所があるような。

もっと休んだら?と言われることもある。
でもやりたい「仕事」がたくさんあった。
そのためには、今の職場に戻る必要があった。

私の鳥取の職場は、学校である。学校は言葉に満ちている。授業、生徒のお喋り、相談、放送、挨拶、会議。
久しぶりに職場に顔を出した時、色々な人に話しかけられ、喋ることは楽しかったものの、療養中は家族と過ごしたり、1人で過ごしていたものだから、学校の世界がこんなにもせわしないことを忘れていた。
ある人の相談に乗っている最中に、挨拶される。あちらからこちらから、矢印が飛んでくる。

そのせわしなさが、いつの間にか少し前の私の余裕を失わせていたかもしれない。
生徒の前でしっかりしたい自分というペルソナと、本当はだらしない私。

それでも戻りたいと思わせてくれるのも、生徒の存在だ。
生徒は「先生に好かれたい」とそれなりに思っているところがあるにしても、いきなり休んでしまった私にやさしい言葉をかけてくれた。
「待っていますよ」と。

新学期はすぐそこだ。
舞台の幕は上がってしまう。
そんな感覚で、生徒がいない中で時間がゆっくりしているような、一方で普段やらない準備に追われる時間を過ごしている。

「仕事」を縁にして見知らぬ土地である鳥取に来た。それ以外の縁はない。
色々なつながりを作っていきたいと意気込んで向かった2020年の3月。
ついた瞬間、コロナがやってきた。

学校を職場にしていると、感染症対策にも気をつかう日々が続く。
東京の友人にとって、コロナが身近になっていく一方で、鳥取は長い間感染者がゼロの期間が長かった。
次第に、東京と鳥取とでズレが大きくなっていった。都会の生活とのズレだったのか。コロナの状況による分断だったのか。

そんなコロナの時代に気がかりだったのは、離れて暮らす祖父母の健康のこと。
お葬式にもいけない孫不孝はしたくなかった。
体調が悪いと聞かされていたから、何度もヒヤリとしていた。
幸か不幸か、母方の祖父母は2022年、県外への移動も事前に伝えればできるようになったところで、相次いで亡くなった。

亡くなった祖母がよく言っていた。
修行みたいなものだからね。2、3年は頑張りなさい。で、戻ってきなさい。
祖父母は、2人とも東京に私が戻ると思っていた。

これは私の両親にしても同じで、夏目漱石の『坊ちゃん』で松山に行ってるようなものだと捉えているらしい。
(ちなみに私の生まれてすぐ住んでいた場所は、漱石記念館の近くの牛込柳町である。)

東京には「家族」の縁がある。友達も多い。
地方出身の人からすると、うらやましい状況かもしれない。
私にとって東京はしがみつかなくても帰れる場所で、鳥取こそ「仕事」のためだけにしがみついている。のんびりできるはずの田舎で、ひとりで勝手に追い込まれる日々だった。

それが、少しずつ変わらないだろうかとも期待している。
コロナとの関わり方が変わる中で、私ももう少し外に出かけやすくなるだろうか。
鳥取で縁ができるだろうか。
あるいは、「仕事」にしても鳥取にいるからこそ、できる縁に巡り会えるような予感もしている。

東京にいた頃、私は住んでいた場所にあまり愛着がわかなかった。帰って寝るだけの実家で、私立に通っていたから地元に友達もいない。地元の感覚は薄かった。私は何でもない1つの粒に過ぎず、すぐ街の中に消えてしまうような存在だった。

鳥取にいると、そうも言っていられない。知り合いの知り合いで大抵の人はつながるし、よく知り合いと遭遇してしまう。正直ぼーっとしてる土日に会ってしまうのが、一番慣れない。
一方で、それも幸いして、きちんと関われば覚えてもらえたりすることは多い。チャンスは巡ってくる。

どちらが居心地がいいのか、考えあぐねて、4年目の春。
結局は、自分が世界をどう受け入れるか、で生きやすさは変わるのかもしれないと思う。
それで生きやすくなって現状維持になるなら意味がない。が、それが行動力の源泉になって、人とつながれるなら、絶望し続けるより、ちょっとはましだろう。

とにかく、自分を見失わないで、前進するのみ。
幕が上がる前の最後のアドバイス。

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