見出し画像

今度は果たすぞ、夏の雪辱(6)

「やったね!強かったね!おめでとう!」

A先生は興奮気味にベンチにいる子ども達に声をかける。

フェンス越しに「ありがとうございまっす!」と元気な返事が返ってくる。

子ども達の中には、「A先生来てくれてたんだ。」と反応する子もいて、

A先生のクラスのキャプテンのO君は嬉しそうに、

ニッコリした笑顔でA先生の方を見て、野球帽をとって礼をしていた。

Yくんチームの子達は、技術もそうだが、こうした礼などが、

見ていて本当に気持ちがいい。

球場を出る際のてきぱきした動きや、グランドに整列しての礼など、

僕らがずっとテレビ越しに見てきた、高校球児のそれと重なる。

はつらつとプレーして、その振る舞いは、周りへの感謝を忘れない。

だから応援しているこちらも、精いっぱいの声援を贈ることに、

何の遠慮もなく応援できる。その盛り上がりが選手のモチベーションアップにつながる。
そういったことを、きちんと教え育っているのが、見ていても伝わってくる。
「無事勝てましたね。明日も楽しみです。」

僕がそう言うと、A先生、

「これは、ととろん先生が応援楽しいですよっていうのも分かるね。」

と、笑顔で返してくれた。

そうして子どもたちのところに行きましょうと、スタンドからスタンド裏へ出ようとすると、

「おーい、ととろんせんせーい。Aせんせーい。」

声のする方を見ると、Ⅰ先生とS先生も後ろに来て観戦していたらしい。

「来てたんなら、声かけてくれればよかったのに。」

と、二人に言うと、

「いや、もうA先生もととろん先生も、応援凄い声出して熱中していたから、声かけるタイミングが分かりませんでした。」

と、S先生が苦笑いしながら、話してくれた。

たしかに、と僕とA先生は納得してしまった。

「じゃあみんなで子どもたちのところに行きましょうか。」

そう言って子ども達のところに向かう、

「え、I先生とS先生も来てくれてたの?」

子どもたちは驚きながらも嬉しそう。

そんなこんなでスタンド裏での、試合後のミーティングを後ろから見ていると、
お父さんコーチの方が「キャプテン、先生方からも。」と促す、

いやいや、大丈夫ですよ。とA先生は手を横に振るが、

子ども達はピシッと整列して、

「今日は応援に来てくださり、ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

と、声の揃った挨拶が飛んでくる。

僕らは、主任のA先生にお願いしますの目配せをすると、

A先生は、いつもの穏やかな語り口調で、

「皆さん決勝進出おめでとうございます。こんなにも元気いっぱいにプレイする皆さんを応援できて、先生も元気をもらいました。ありがとう。明日は先生は来れないのだけれど、皆さんの優勝を祈っていますので、ぜひ明日も頑張ってください。」

と、穏やかに挨拶してくれた。子ども達は「はい!頑張ります!」と、

「ありがとうございました!」の気持ちの良い挨拶を返す。

こうしてYくんのチームは、優勝まであと一つ、明日の決勝戦に臨むのであった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?