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不登校先生 (59)

目が覚めた瞬間、体が激しく痛んだ。

気付けば10月になっている。暑さもだいぶ和らいできた。

今日は、週に一度の診察の日。ゴミ出しをして、病院に行く準備を・・・

と思った朝の起き抜けの出来事だった。

痛い場所は、肩、背中、腰。この痛みには覚えがある。

いわゆる「凝り」だ。

僕には、二十年来付き合っている腰痛と凝り性がある。

高校時代に手術をした椎間板ヘルニアからの名残と、

二十代後半に派手にやらかしたぎっくり腰と。

運動不足からくる、肩や背中の凝りと張り。

学校で働いている時も、疲労度のバロメーターになっていて、

週に一度、なじみの整骨院に通っていた。

思い返してみると、

その週に一度の習慣を、もう7か月、していない。

年度初めの忙しさから、うつ療養になって半年以上、

この物語で追っかけてきたこれまでの間、

週に一度は通っていた整体に、一度も通っていなかった。

寝て、起きて、周りに少しずつ元気をもらって、

初めて仕事をしない状況になって、療養に専念できる準備をして、

心のきつい状態に自分の意識が集中している間に、

体はすっかり凝り固まって、別の意味で悲鳴を上げていたのだった。

その体の痛みを感じ取ることができたのは、

一方では、心が順調に回復してきた証拠ともとれる。

だが、ぎっくり腰のときとはまた違う、全身ガッチガチの痛みに、

思わず、唸る。

ひとまず、ひとまずは、心療内科に。

電車に乗ってしまえば、心療内科はいけるので、

何とか、駅まで行き心療内科に受診できた。

心療内科の先生には、痛み止めを処方してもらう。

しかし、痛みは治まらない。

7か月も連絡していないと、なかなかかけづらい気持ちになるのだが、

そうも言っていられない。僕は、いつもの整骨院に電話をかけた。

「もしもし、ご無沙汰しています。ととろんです。」

「ととろん先生、お久しぶりです。」

「大先生、今日なのですが、伺ってもよろしいですか?」

「今日ですか、それなら…お昼からならいけます。」

「助かります。では14:30分におねがいします。」

「わかりました。お気を付けて。」

7か月ぶりの整体の予約を入れると、お昼ご飯を食べに家に戻り、

家から今度は自転車で。整骨院に向かう。

「大先生、お久しぶりです。」

一瞬息をのむ様子が伝わってきた。

「ととろん先生、どうぞ、こちらへ。」

親子でされているこの整骨院。大先生も若先生も、柔道家でいらっしゃる。

長い事地元の中高で、校外コーチをも務めていて、

スポーツで痛めた筋肉や筋を見てもらう患者さんや、

長年、持病の痛みを見てもらう高齢の患者さんで、

いつも、暇のない整骨院だ。

数年前からは原則予約制にしているが、飛び込みで来た患者さんも、

丁寧に聞き取り施術してくれる様子も変わらず、安心感がある。

そしてその数年前からもっぱら自分の施術を担当してくれているのが、

若先生である。7か月ぶりの診察と施術なので、事の経緯を話す。

「実は、異動してすぐうつの診断が出て、そのまま病休、退職で。今はうつ療養中で、学校の先生休業中です。」

「それは、きつかったですね…。ととろん先生みたいに頑張られている先生がそんなことになるなんて、お辛い事ですよ。こうして診ることができてよかった。」

「ありがとうございます。で、今朝半年ぶりくらいに体が張って痛みを感じてですね。今日は診てもらおうと。」

「それじゃあ、今日は、うつ療養に効果がある電磁波の機械も使って施術していきますね。」

若先生は、話を聞いて体を触診された後に、施術を始めた。

いつもと同じ電磁波治療、マイクロ波治療、その後に

半年前にはなかった新しい吸引式の電磁波治療。

すごい感触だ。体の奥までぐりぐり揉まれているような感覚だ。

凝った痛みは、コンクリートをハンマーでたたき壊していくような感触で

どんどん柔らかくなっていく。

「ととろん先生、体も今までにないくらい硬くなっていますね。」

電磁波の後は、振動ベッド、ローラーベッド。

ここまでで一時間ほど揉まれて、電気を通されて。

体が格段にほぐれたところで、若先生のほぐしの施術だ。

僕はおそらく、この整骨院で一番強く押して揉んでもらっているので、

今回も方から背中、太ももと先生は手押しだけでなく肘も使って

グイッ、グイッ!っと、体を揉んでいく。

おそらくこの力なら悲鳴が上がるほどだろうが、

自分にはそのくらいが気持ちがいい。

最後は座って肩を揉んでもらって、

「はい、今日はこれでいいですよ。」

と言われた時、揉んでもらった体からは、すっかり朝の痛みは消えていた。

ようやく体の痛みに、気持ちを向けられるようになった10月の初め。

ここから心の調子も、体の解れに合わせて

ぐっと良くなっていくのを実感するのだった。

↓次話




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