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映画感想『魔女見習いを探して』—魔法がないと知った大人たちがもう一度出会う魔法—

はじめに

映画『魔女見習いをさがして』についてネタバレを含む感想記事です。
今二十代の、リアタイでおジャ魔女どれみシリーズを少しでもみていた、「今はもう魔法なんかない」と分かってしまった大人たちに、ぜひ見てほしいと思えるような素晴らしい映画でした。

私は当時、妹との会話にすら出さないくらいひっそりと、断片的にしかどれみちゃんたちに触れていなかったのですが、開始からどれみちゃんたちの声や演出に畳みかけられ、何気ないカットに心を動かされました。

原作シリーズは網羅できていないので、おジャ魔女どれみガチ勢の方々には、作中の私の分からなかった点について教えて頂ければ嬉しいです。

あらすじは予告や公式HPからどうぞ。

※以下、ネタバレを含む感想となります。

よかったところ

■徹底したオトナ向け
 (1) 主人公たちの年齢設定
   今作の主人公は下記の3人。それぞれ、人生の転機を迎え、悩み、
   「世界一不幸な美少女」と声に出してもいいステージ。
   この悩みが既に子どものころはなかったもの。

    長瀬ソラ(22) 大学4年生
    吉月ミレ(27) 大手商社勤務
    川谷レイカ(19→20) フリーター

   この設定、映画のターゲットをかなり限定しているようで、悩みは
   夢や自己決定、恋愛、仕事ど普遍的なもの。
   ここに、ありもしないと頭では分かっている魔法の後押しがやさしく
   コミカルに、でもシビアに描かれていると思いました。

   この作品を良い作品と感じられるかどうかの第一のハードルは、
   主人公たちとともにどれみちゃんたの回想についていけるか。

 (2) 冒頭OPのアレンジ
   元気溌剌とした「おジャ魔女カーニバル!!」のアレンジが、
   落ち着いたピアノとギターになっていて、しっとりとしたものに。
   

   なんとなく佐藤純一監督繋がりで、ARIAのようなあたたかさを感じる
   編曲。 

   どれみちゃんたちの声は聞けるけど、そのシルエットを、
   極太たんぽぽの境界を挟んで後から追う主人公たち3人。
   子どもの自分も含めて魔女見習いがもう見えなくなっている
   主人公たちを見て、切なくなりました。

  (3) お酒
    とにかく三人が飲む、飲む。
    大人のアイコンとしてことあるごとに、飲む。
    レイカちゃんが19歳から20歳になり、飲酒のボーダーを越えさせて
    三人で飲ませる。

  (4) マジョリカの不在
    マジョリカって、どれみたちに「バッカモーン!」と叱ったりする
    点で大人の立場を担っていたんだろうなぁ。
 
    今回は意図的に、主人公たちに「バッカモーン!」と言ってくれる
    ような大人を省くことで、大人の物語にしたように感じました。

■魔法がないと知っている大人のリアルとアニメのコミカルさ
  主人公三人が抱える問題は、魔法(玉)をきっかけに転がり
  始めるけど、みんないわゆる物語のようには報われない。

  レイカちゃんがお父さんに会えたのは、
  魔法玉がアニメらしく楽しく転がったから。
  出会うきっかけは作ってくれたけど、
  お父さんからは突き放されてしまう。
  (このシーン、19歳というレイカちゃんの子どもらしさが全面に出た
   シーンで、もう少し年齢が上だとお父さんの今の幸せな家庭を見て、
   それを壊すまいと名前を名乗ることすらしなかっただろうなぁ)

  ミレさんの会社内で起こったしがらみによる人事異動は取り消される
  ことなく、お茶に突き立てた辞表をもって自身は悪くないのに(物言い
  で敵を作ったためかもしれないけど)新しいスタートを切る。

  ソラちゃんは恋愛が成就せず、飲み会で泣く。

  魔法で問題は解決することはないけど、その分道中は賑やかに、
  コミカルに明るく。
  このテンポと切り替えが、心地よく、気持ちよく見られました。


大人になった今の魔法のありか 

作中でテレビシリーズ最終回を挙げて語られた、「魔法はもともとその人が持っているもの」というソラちゃんの語り。
魔法はただのきっかけで、背中を押してくれるものという見方。
月にかざす魔法玉の中を透かして見る演出。

これらで明示される魔法の所在は、実は自分の気付かない身の回りにある、
そんな演出が読み取れた気がします。

ところどころで挿入される、どれみちゃんたちの声優さんが演じる
モブキャラの声。
おジャ魔女テレビシリーズで印象に残っている、ぼやけた円形の背景描写。
この円形が魔法玉だと言うのは拡大解釈がすぎるにしろ、
大人になった今でも近くに魔法があるって思うと、
ちょっとやさしい気持ちになれました。

魔法がないと知っている大人でも、魔法玉が、どれみちゃんとの思い出が、
自分の中にある魔法を発現させるスイッチになって今も、きっとあるって言ってもらえた気がします。

キャラの対応

主人公の三人は、言うまでもなくテレビシリーズのキャラクターのモチーフを継承していて、

  長瀬ソラ — 藤原葉月 — メガネ
  吉月ミレ — 妹尾あいこ、飛鳥ももこ —帰国子女、運動神経
  川谷レイカ — 春風どれみ — お団子
  (レイカちゃんをシルエットで横から映して
   どれみちゃんと同一視させる演出最高…)

になってるという理解をしました。

不在のおんぷちゃんは、キャラ対応ではなく、
男性キャラの大宮竜一くんで回収したということでいいんでしょうか。

名前のモチーフは「どれみ」からイタリア音階のエッセンスなんだろうなぁ。
ド、ファ、シを使えなかったのは、単に組み込みにくかったからなのか。
でも、レは二人に入っているし…。

ハナちゃんはどこ…?

疑問点

・なぜ最年長のミレさんが「魔法を使ってみないか」と言い出したのか。
  最年長で、一番ファンタジーから遠い人から話が転がる驚き。
  直前で、神社の灯篭をはさんで 「ソラ・レイカ(灯篭)ミレ」の
  並びになったのは意味があったんだろうなぁ…。
・ハナちゃんの要素は…どこ…?
  どこ…?
・オレンジの魔法玉だけ使わなかったのはなぜなのか。
  カットされただけで、辞表を出す勇気とか、レイカちゃんに謝りにいく
  勇気として消費されたのかなぁ。
・京都のあの木は一体…?
  原作で出てきたのかなぁ。

最後に

 おジャ魔女を全く知らない人には楽しめないかもしれないけれど、
 この作品自体が、魔法がないと知っている大人にとっての
 「魔法」になってくれる、そう思える素晴らしい作品でした。

 人生で一度は言ってみたいセリフにも出会えました。
 「ウチくる?ブルーレイ全部そろってるよ」
 
 ももクロ 百田夏菜子さんの演技も、終盤はもうレイカちゃんはこの人しか
 ありえない、って思えるくらいハマってたなぁ。


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