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ハローディアマイ

屋上の縁に佇むたび呼吸を洗う風があることを知る。朝。通学路で見上げる太陽が遠い。曇った凸レンズを並べたような蜃気楼とか霧雨でない準透明な光が空を覆う。吐いた息の墓場は上空にあるから、質量不保存の場を足がもがいてゆく。

声が聞こえないのは発する吐息を風が洗ってしまっているからでなにも耳が悪くなったわけではない。

向こう側の景色ーービルディングやゴミ捨て場と工場ーーは区切られているのに金網を抜けだせば1つになっている。証明した人のいない不確実なものを信じ続ける私はいる。途切れた線の行間を埋める存在を探す。世界を創造したのは私だと胸を張りたい。ひび割れた空の破片を傘を裏返して受けとめてあげられるように。

人の顔を覚えられずにいるのは線がつながってしまっているからで何も目が悪くなったわけではない。

明滅する世界の渦に巻きこまれている。渦の中心へ深淵へ体が引きずられていくことは適切なあり様だった。階下に向かえば手を取る人で溢れているのにその手が手として認識されていない。瞳に映る全ては私が見るそれよりも整頓されて収まっていることに耐えられずにいたことは今もずっと抱えている。

耳をそばたてても聞こえないものがまばたいても目に映らないものが現れる世界で指針とするものを言葉としたい。波うつ言葉で紡ぐ景色だけを大事としていたい。

命は何も体の内にあるわけではなかった。そうだから私は私の命が埋もれている場所に辿り着くまで再構築された世界の上で息を吐いている。

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