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【短編小説】愛しのカツカレー 

「ピエール。あなた、『カツカレー』って知ってる?」

とあるグループの会合に参加していたマリアは、グループの幹部になったばかりのピエールを窓際に見つけ話しかけた。

「『カツカレー』・・・?聞いたことないな」

ピエールは、会合の休み時間に会議室を出て、一人で休憩をとっていた。

「まあ、そうよね。 10年前にはメニュー自体が禁止された日本の料理だわ。厚切りの豚肉に衣をつけて油で揚げた『トンカツ』をライスの上に乗せて、そこにデミグラスソースのようなドロっとした液体をかけてたべる罪深い料理」

「豚肉を使っていたのか。それは罪深いな」

「ええ。動物の肉を食べるなんて野蛮なことをしていたころの料理ね」

マリアは吐き捨てるように言った。

「動物の肉を食べなくても代替食品があるし、栄養だけならカプセル一つで摂取できるようになったからな」

「そう。科学が進んだというのに、動物を殺傷し食べることにこだわっていた人々はしつこく存在していたけど、私たちのグループの努力で世界からいなくなった」

「ああ。それは知ってるが、その『カツカレー』がどうしたんだ?昔を懐かしむということではないだろ?」

「実は日本で『カツカレー』が復活したという由々しき情報を掴んだの」

「それは、事実なのか?」

「ええ。証拠の動画や画像を入手したわ」

「ということは、日本で動物食が復活したということか」

「そうよ。人間でも動物でも命の価値は同じだというのに、人間の一方的な嗜好で、動物の命を奪い、そして食す。こんな野蛮な行為は許されるものではないわ」

「で、君は僕にどうしろと?」

「まずは、日本に同志を派遣し調査することね。そして、日本政府に速やかな対処を求める」

「日本政府が対応するかな」

「大丈夫よ。日本は、海外からの批判に弱いから。特に欧米のマスコミから批判されると思考がストップするのはずっと変わらないわ」

「そうだったな。やりやすい国だよな」

「ピエールにお願いしたいのは、この後再会する会合で、議題として取り上げて欲しいの」

「ああ。わかった。それはまかせてくれ」

「調査団を派遣して、息のかかったマスコミに日本を批判するキャンペーンをやらせれば大丈夫だと思う。日本は一応、私たちの国と同じ価値観を持っている国だから、動物の命を大切にすべきという意見に反対することはできないわ」

「まあな。ところで、今『カツカレー』を調べたけど、昔はかなり人気があった料理みたいだね。そんな料理を一度復活させたというのに、すぐに諦めるかな」

ピエールは、携帯端末から目を離して、マリアを見つめた。

「大丈夫よ。すぐに譲歩してくるのが日本だから」

「そうかな」

「それに、もし『カツカレー』を諦めないのなら、相応の対応をすればいいだけよ」

「『相応の対応』というのは?」

「実力行使ね」

「また、物騒なことを。うちのグループが方針として実力行使を決めると死人がでるぞ?」

「いいのよ。動物の命が守られる世の中をつくるためには、人間が少しくらい犠牲になっても」

(終わり)

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