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【ショート・ショート】母ちゃんと餅

「なあ、徹、俺の話を聞いてくれるか」

学校の昼食休憩時間、弁当を食べていた俺は、突然隣席の剛から話しかけられた。剛も弁当を食べている途中だったらしい。

「うん?ああ。いいけど」

真剣な剛の目に押された俺はそう答えるしかなかった。

「お前の家って正月に用意した餅全部たべた?」

「えっと・・・うちは食べ尽くしたよ。なんで?」

「うちは、毎年余るんだよな」

「俺の家族は餅好きだから4日にはなくなるけど、剛の家は好きじゃないのか」

「いや、食べるんだけどみんな1個か2個くらいだから余るんだ」

「それなら、少なめに買えばいいのにな」

「まあな。うちの母ちゃんもわかってるみたいだけど、買うときには忘れてしまうみたいで、毎年、のし餅5枚くらい買ってくる」

「5枚?剛の家って何人だっけ?」

「3人」

「それなら1枚でいいんじゃね?」

「2枚はじいちゃん、ばあちゃんの家に、切って持っていくんだ」

「なら3枚か。それでも多そうだな。」

「だろ」

「余った餅ってどうしてんの?」

「ジップロックに入れて涼しげな所に置いてある」

「そんな保存でいいんだっけ?」

「母ちゃんは、冷蔵庫だと水分が抜けるからだめって言うんだ」

「そういうもんなのかな」

「あと、母ちゃんは、縁起がいいって言うんだよ?」

「縁起?」

「母ちゃんは、松の内が終わる頃にはそれがわかるって言うんだよ」

「はあ」

「そのころになると、丸っぽくて緑のものが表面に出てくるだろ?」

「それ、カビだろ」

「だよな。縁起なんて関係ないよな」

「しかしカビ生えるのわかってるならさっさと食べたらいいのに」

「うちの家族4日以降は餅食べたがらないんだわ」

「カビの部分だけ取ればいいんじゃね?」

「いや、うちの母ちゃん、縁起がいいから取ってはいけないって怒るんだよ」

「うえー」

「剛、そういや、なんで縁起がいいんだ?」

「餅のカビってやや丸いじゃないか」

「ああ」

「こいつぁ、春から、縁(円)起がいいねぇ」

「ころす」

(終わり)

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