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【短編小説】ドモアリガトミスターロボット

「社長、ヒューマノイドが労働条件の改善を求めて団体交渉を申し入れてきました」

労務担当役員が社長室に走りこんできた。

「ヒューマノイドが?あいつらは、人間に歯向かったりしないんだろう」

「ヒューマノイドは人間に危害を加えることはしません。ただ、自分の身を守るために人間に抗議をしたり交渉を申し入れてきたりすることは制限されなくなりました」

「え。そうなのか。それ、いつからだ」

「国連の『ヒューマノイドの製造管理指令』が施行された昨年の2050年4月からです」

「そうか・・・。俺は、ヒューマノイドと関わることが普段ないからわからんのだが、抗議したりできるということは、あいつらは感情をもっていたりするのか」

「そうです。もともとは、感情はなかったのですが、介護、看護もヒューマノイドにやらせようということになって、感情を持つ機能が追加されたんです」

「ん?それ、必要なのか・・・?」

「感情がないヒューマノイドだと、介護や看護を受けている人間の生活の質が低くなり、それが、介護や看護に悪い影響を与えるようなのです」

「感情を持たないヒューマノイドも製造されてるんだろ?」

「いえ、例外なくヒューマノイドは感情をもつようになりました。先ほどお話ししました、『ヒューマノイドの製造管理指令』で盛り込まれています」

「それはどうしてだ?」

「感情を持つ機能が開発された際、ちょうど感情を持たないヒューマノイドへの破壊・損壊行為が問題となっていたんです。その対策として、先ほどお話しした、自分の身を守るための行為の制限解除と、感情機能の追加が定められました」

「感情をもつようになると、破壊行為がなくなるというのか?」

「ええ。外見的には普通の人間と見分けがつかないですからね。そのヒューマノイドが感情を持った反応をするようになると、普通の人間なら破壊行為はやれませんね」

「なるほどな。で、ヒューマノイドが団体交渉で求めているのは何なんだ?」

「定期的なメンテナンス時間の付与を求めています」

「え?ヒューマノイドは24時間働かせても問題ないんだろ?」

「ヒューマノイドは機械です。定期的なメンテナンスは必要です。製造用設備も定期的にメンテナンスが必要です。それと同じだというのが彼らの主張のようです」

「まあ、メンテナンスは必要かもな。で、どれくらい必要だと言ってるんだ?」

「1日に4時間は欲しいと」

「なんだそれは。それだと生産能力がおちてしまうじゃないか」

「ええ。そうなんですが・・・」

「団体交渉を行うまでもなく、そんな要求は拒否だな」

「団体交渉は受けないということですか?」

「そうだ」

「社長、それはまずいです。我が国の労働組合法も改正され、労働者の範囲にヒューマノイドも含まれてしまいました」

「だからなんだ?」

「ヒューマノイドの労働組合が団体交渉を求めてきた場合、正当な理由なく拒否してはいけないことになっています」

「そうなのか?めんどくさいな。
あ、そういえば、ヒューマノイドは、ヒューマノイド派遣会社から派遣されてるんじゃなかったか?」

「ええ。そうですが」

「なら、団体交渉を受けるのはヒューマノイド派遣会社じゃないのか?」

「いえ。彼らが求めているメンテナンス時間を与えるか否かは、実際にヒューマノイドを使用している会社の問題なので受けるしかないかと」

「なんとかならないのか」

「それは、判例の考え方からすると団体交渉に応じたほうが無難ですね。無視することもできますが、影響がどこまで広がるかわかりません」

「じゃあ、こうしよう。ヒューマノイド派遣会社からの派遣をすぐに打ち切ろう。うちでヒューマノイドを作ってしまえばいい」

「それもだめになりました」

「え?」

「ヒューマノイドは、国が指定する派遣会社から調達するしかなくなりました」

「なんでだ?」

「自社で製造したヒューマノイドに対して、破壊・破損行為をすることが多いからなんですよ」

「それのどこが悪いんだ?」

「ヒューマノイドが感情を持つようになりましたからね」

「あー・・・。なんかめんどくさいな」

「ええ。まあ、誰かに仕事をさせるってことは、それがヒューマノイドであっても大変なことなんですよ」

「よし、なら、いっそのことヒューマノイドをやめて、人間を雇おう」

「え?人間の労働者だと組合活動とか大変ですよ」

「ヒューマノイドだって組合活動をするようになったんだから、だったら人間の方がやりやすいだろ。組合活動もストライキもほとんどしないという理想的な労働者を雇えばいい」

「そうですが、そんな労働者を集められますかね」

「いるよ」

「どこにですか?」

「日本だよ」

(終わり)

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