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【短編小説】かわいそうだから

けさ、ぼくの家の庭に、見たことがない動物がいました。ぼくの住んでいる所は、山が近くにあるから、たぬきが来たりすることが珍しくないのです。でも、初めてみる動物でした。

大きさは、芝犬くらいでした。アライグマやたぬきのように目が丸く、体の模様は三毛猫ようでした。かわいかったです。

その動物は、ぼくの顔をみて、すぐにどこかに行ってしまいました。

もしかしたら、僕がしらないだけかもしれないと思って、家にある動物図鑑を見てみたのですが見つかりませんでした。インターネットで探してもよくわかりませんでした。

その動物を見た同じ日、夕飯の時にお父さんとお母さんに話しました。

お父さんとお母さんは、びっくりして言いました。

「つぎから、その動物をみても近づいてはいけないよ」

ぼくは、なぜ近づいてはいけないのかわかりませんでした。だから、聞きました。

「あの動物、おとなしそうだし、かわいかったよ」

お母さんがこわい顔をして言いました。

「あの動物は、おとなしそうだけど、人を襲って、かみついてくることがあるの。だから、絶対にちかづいちゃだめ」

ぼくは、そんな、こわい生き物とは思ってなかったので、もう近づかないって言いました。

翌日、クラスの担任の先生が、見たことがない動物について、クラスのみんなに話しました。

先生は言いました。

「最近、見たことのない動物をいろんな人が見ています。見た目は可愛いようですが、とても危ない動物です。普通はおとなしいようですが、何かのきっかけで危険な動物になるようです。みなさんも、見たことがない動物に出会っても、絶対に近寄ってはいけません。その動物を写真に撮った人がいました。これが、その動物です」

先生は、大きくした写真をぼくたちに見せました。

ぼくが家でみた動物と同じでした。

大人達は、見たことがない動物を捕まえようと頑張りました。動物が好きそうな餌を、山に集中的にまいたり、罠を仕掛けたりしました。でも、その動物は捕まりません。そうしているうちに、その動物に襲われて死んでしまう人がでました。

一人死んだ後、また一人、また一人と見たことがない動物に襲われて死ぬ人が出てきました。

ぼくの家でも、お父さんとお母さんが、この動物について話してました。

見たことがない動物が襲ってくると、噛むだけじゃなく、人の体を食べてしまうそうです。あごの力が強くて一回噛まれるだけで、とても重い傷になってしまうそうです。その上、襲ってくるときの動きが早く、どんどん噛まれてしまうみたいです。

死ぬひとが増えていくにつれて、住んでいる人たちは騒ぎはじめました。捕獲するよりもみつけたら殺すべきだという意見が大きくなりました。

ちょうどその頃、見たことがない動物の写真がインターネットに掲載されました。襲われて死ぬ人がでたというニュースにあわせてその写真が掲載されたのです。

ところが、見たことがない動物が可愛かったからと、殺してはいけないとか、ひどいことをしてはいけないという電話が役所にかかってきました。また、直接この地域にやってきて、大きな声で殺してはいけないと言う人もいました。

見たことがない動物が捕まらないまま、ぼくが住む地域には、全国から多くのひとがくるようになりました。その多くは、見たことがない動物を守れという人たちでした。地域の人たちは、そういう人たちに怒っていました。ぼくも、見たことがない動物を守れという人たちは、住んでいる人のことをどう考えているのかと思いました。

ある日、ぼくが学校に行こうと家をでたときに、見たことがない動物を見ました。家の前の通りをゆっくり歩いていましたが、雨が降ってきました。すると突然、すごい鳴き声をあげて、山のほうに走って行きました。

ぼくは、その後ろ姿を見ていました。そうしたら、知らないお兄さんやお姉さんたちに声をかけられました。10人くらいいたと思います。たぶん、どこかから来た、見たことがない動物を守ろうと言ってる人たちだと思いました。

「君、いま、へんな動物をみなかった?さっき、見かけたんだ」

「動物って、この辺で最近人を襲っている動物のこと?」

「そうだよ。あの動物も被害者なんだよ。人間が自然を破壊し、彼らの住むところを無くしてきたからこんなことになったんだ。だから、人間は彼ら動物を保護しないといけない。動物にも生きる権利があるからね。彼らも人間と同じ生物だからね」

「お兄さんたちは、襲われて亡くなったひとのことはどう思っているの?」

「それは、お気の毒と思うよ。でも、人間の行ったことが招いた被害だから、甘んじて受けないといけないんだ。」

「へぇー。そうなんだ。それがお兄さんやお姉さんたちの考えなんだね」

「うん。そうだね。ただ、できるだけ被害を減らしたいから、その動物を捕獲してよく調べようと思っているんだ。餌がわかれば、その餌を撒くことで人間に近づかないようにできるしね」

「人間に近づかないようにできるのかな?」

「できるよ。動物は餌があるところに寄っていくからね」

「それ、この地域の人たちもいろいろとやってるよ」

「うん。でも、それはやり方を間違っているんだと思うよ。殺すことを前提にしているんじゃないかな。私たちにまかせれば大丈夫」

「そうなんだ。あ、ぼく、さっき、その動物を見たよ」

「そうなんだ!どっちの方向に行ったの?」

「この道をまっすぐ山の方に走って行ったよ」

「ありがとう。」

その人たちも山の方に走って行きました。

ぼくは、雨が降ってきたので、傘を取りに家に戻りました。

傘をさして、家から出ると、雨が強くなってきました。

一瞬、山の方から叫び声が聞こえました。男の人、女の人いろんな悲鳴が続きました。

さっきの人たちだろうかと思いましたが、たぶん、ああいう声を出して、追い払っているのだろうと思いました。

あの人たちのおかげで僕たちはやっと安心して毎日がすごせるのです。よかったなと思いました。

さあ、学校に行こう。そして、この話をしよう。


(終わり)

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