【ショート・ショート】お引越しの理由
「結菜。キッチンの小物類は全部まとめて段ボールに入れていい?」
「あ、うん。お願い」
「了解。しかし、急な引越しだから結菜も大変だな」
「急に手伝いお願いしてごめんね。陸以外に免許持っていて頼める人いなくて」
「まあ、俺は元彼だし、別れたのも俺が悪かったから、まあ罪滅ぼしということで。これでチャラな」
「え?チャラじゃないわよ」
段ボールに書籍を入れる作業を行なっていた結菜は、そう言って笑った。
「そりゃそうか」
「あと、もう少しで終わるわね」
「そうだな。終わったら、レンタルした軽トラで運べばいいだけだ」
「あとは、ユニットバスのところだけだから、それは私がやるね」
「キッチンがもう少しで終わりそうだから、俺やるよ?」
「え?あ、そこは私がやるよ。念入りに掃除もしたいし、トイレも一緒だから、ちょっと男子には見せたくないものもあるしね」
「あ、ああ。わかった」
「陸、少し休む?」
「いや、段ボール詰めを早く終わらせた方がいいからこのまま続けよう」
「ありがとう」
「そういや、結菜って彼氏いるんじゃなかったっけ。手伝ってもらえばいいのに」
「え、あ。うん。今の彼氏はちょっと今日はダメらしいんだ。新しい部屋で片付けを手伝ってもらおうかなと」
「そうか。あ、ちょっとトイレ借りるぞ」
「うん」
陸は、ユニットバスのトイレで用を済ませ外に出ようとした時、浴槽に蓋がしてあることに気がついた。
「これも片付けたほうがいいよな」
陸はそう言って、折りたたみの蓋をめくった。
「なんだ?」
浴槽が、白い発泡スチロールの箱で埋められていた。
「結菜。浴槽の蓋、しまったほうがいいよな。あと、浴槽の中の箱は何?」
「箱?ああ、それ私の本が入ってるのかなり重いよ。先にそれだけ箱に入れたんだ。邪魔だからそこに置いておいたの」
「そうなのか」
「うん。そこの物は運ぶだけでいいから。今は作業はしなくていいよ」
「おう。浴槽の蓋だけ折りたたんでおく」
「え、ええ。そうして」
蓋をしまおうとした陸は、蓋が空きかけている細長い発泡スチロールの箱に気がついた。陸は、発泡スチロールの箱を上から押さえつけた。何かがつかえて蓋がしまらない。陸は仕方なく箱を開けて中を見て言った。
「結菜。この発泡スチロール、マネキンの腕と足が2本ずつ入ってるぞ。これ、男の腕だな。マネキンの割に重いな。ドライアイスもたくさん入ってる。箱がしまらないけどどうする?」
(終わり)