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【短編小説】赤眼の群れ

今日の小説は、8月頃noteで公開した作品(「裁き」)を何を血迷ったのか文学賞にチャレンジしようと思い立ち、少しだけ書き換え題名も変えたものです。8000文字弱と少し長いので週末か連休に公開しようと思っていて忘れてました😅

1 一日目

富樫は、中規模都市の郊外にある一軒家に向かっていた。最寄りの駅から徒歩10分強。一軒家の周辺は、建築物はほとんどなく自然で溢れている地域だ。

駅から幹線道路に出て、進行方向右側の歩道を7、8分歩くと、舗装されていない道路が右手に見える。その道路に入ると、富樫が向かっている家が遠くに見えた。

一軒家まではほぼ直線の道が続いている。幅は10メートル程度。道路の左右には雑木林が広がっているが、真昼のこの時間は日陰がなく、この道を歩く者に容赦なく日差しが降り注ぐ。
富樫は、体中から汗が吹き出るのを感じた。気温は35度以上だろう。蝉の鳴き声がうるさい。季節を考えると仕方ないが、この暑さとあいまって苛ついてくる。

富樫は一軒家の敷地内に入った。かなり大きな庭がある家で、元々は農家が所有していた家のようだ。農家の家とはいえ、屋根は瓦の普通の大きな家だ。竹で簡易につくったような柵が一軒家の敷地を表しているが、門扉もなく誰でも自由に出入りすることができる。

玄関の鍵を開けようとしたとき、玄関を取り囲む外壁に蝉が一匹止まっているのが視界に入った。
富樫は、握り拳で外壁を軽く叩いた。
蝉は、驚いたのか外壁から飛び立った。

ちょうどその頃、県警捜査一課の刑事二人が、富樫が入った一軒家近くの幹線道路に車を停めた。
三倉という男性の刑事が運転席から、原という女性の刑事が助手席から降りてきた。

「匿名の電話が言っていたのは、この辺よね。」

「はい。この幹線道路沿いで駅から徒歩圏内だとこの辺です。ただ、徒歩圏内というのがどれくらいなのかがわかりませんが。」

「そうね。ただ、確かに、この辺に強盗グループのアジトがあっても不思議じゃないわね。」

「はい。しかし、今日は、この辺りを調べるのは時間がないですね。」

「まあね。捜査会議があるからね。」

「あれ、なんですかね。」

三倉が幹線道路の向かい側にある木々の上を指差した。

そこには、無数の黒い何かが集団で木々の奥に向かっていた。

2 二日目

今朝は、この一軒家に、富樫を含めて5名の男が集まっている。

5名は、1階のリビングにある大きめのラウンドテーブルに座っている。
富樫以外の男たちは、それぞれが複数台のスマフォを使っている。
電話で指示をする者、スマフォの画面をせわしくフリックし、メッセージを送る者、それぞれが必死だ。富樫は、タブレットとスマフォを1台ずつ目の前におき、4名の男の様子を時々見ている。そして、時折、丁寧な言葉遣いで電話をかけている。

南岡という男が、富樫に近づいてきた。

「富樫さん」

「なんだ」

「さっき突入した埼玉の現場なんですが、脅してもなかなか金の隠し場所を吐かないらしいのです」

「そこの現場には、家族もいるんだろ?」

「はい」

「なら、誰でもいいから殴っちまえ。殺す気でやれと伝えろ」

「まずくないっすか?強殺は、警察を余計、本気にさせますよ」

「殺す気でやれってことだよ。それに、間違って殺ったとしても、実際に殺したのは俺たちじゃない。金の受け取りがおわったら、現場のやつらは切っちまえばいい」

「富樫さん。今、SNSでの求人はかなり難しくなってるから、使い捨てばかりやってると、この仕事続きませんよ」

「そもそも長くづづけるつもりねえよ。稼ぐだけ稼いで逃げ切ればいいんだよ」

「まあ、そうっすね」

「とにかく、相手が子供だろうが年寄りだろうが、全力で殴れといえ」

「わかりました」

南岡は、自席に戻り、電話をかけて富樫の指示を伝えた。

その時、蝉が突然鳴き始めた。リビングの窓にかなり近いところで鳴いている。それも一匹二匹ではない。

富樫がリビングのサッシ窓のところに確認に行くと、網戸に五匹くらいの蝉がとまり、鳴いている。

「うるせーな」吐き捨てるように言うと、富樫は、網戸に面したサッシを軽くたたいた。

一匹の蝉が一度網戸から飛び立った。別の木に飛び移るのかと思いきや、半円を描いて富樫に向かって飛んできた。そして、そのままサッシの窓ガラスに衝突し、落下した。

こちらに飛んでくる蝉の目が一瞬、赤く光ったように見えた。

富樫は、特に気にすることなくカーテンを締めた。

3 三日目

今日も、昨日と同じメンバーがこの家に集まることになっているが、一名がまだきていない。

家の外から、車の停車する音が聞こえた。しばらくしてから、三原が家に入ってきた。

「すみません。事故渋滞に巻き込まれちゃいました」

三原が、遅れたことを気にする様子もなく言った。

「そういえば、富樫さん、この家、外壁や網戸に蝉がかなりとまってますよ。5匹、10匹というレベルじゃないくらいです。そういや、蝉の目って・・・」

「それよりも仕事だ」
富樫は、三原の言葉を遮って、憮然として言った。

「今やってる仕事は、金持ちの家に突入する連中との連携が重要だ。時間は守れ」

「すみません」

三原はやっと謝罪の言葉を口にした。

「まあ、いい。今日の現場は、確か・・」

「3件です。全て、9時から10時の間に突入する計画です。すでに、現場の連中はスタンバッています」

南岡が報告する。富樫はうなずき、全員を見渡しながら警告するように言った。

「最近、現場に腰抜けが多い。とにかく、何やってもいいから金を奪ってくるように言ってくれ。お前らはわかっているとは思うが、このところ稼ぎが悪くなっている。上も機嫌が悪い。そろそろヤバい状況だ。俺もお前らもここでなんとかしないと先がない。意味、わかってるよな」

「はい」

富樫の言葉に、残りの男たちが返事をする。

「さっそく仕事を始めてくれ」富樫は気合を入れるように大声をあげた

4 四日目

富樫は、朝から、マンションの一室で打合せをしていた。

そのマンションは、富樫のグループ内の別チームが、特殊詐欺、いわゆる「オレオレ詐欺」を行うアジトとして利用されている。

もともと富樫のグループはオレオレ詐欺専門だったが、強盗にも手を出すようになった。そのため、グループをオレオレ詐欺チームと強盗チームに分け、人を追加した。強盗にも手を出したのは、オレオレ詐欺での稼ぎに陰りが出てきたことが大きい。さらに、オレオレ詐欺を行うために手に入れた富裕層の情報が、強盗のターゲットにそのままつかえるため、効率がよいという面もある。

今日は、オレオレ詐欺チームに、はっぱをかけるために、富樫が直接出向いた。

富樫とオレオレ詐欺チームとの打合せは、10分程度で終わった。富樫は、南岡が運転する車にのり、強盗チームのアジトである一軒家に向かった。N-システムを恐れて、アジト間の異動はできるだけ公共交通機関を使う富樫だが、今日は、強盗の実施時間が予定よりも早まったことから車を使うこととなった。

「富樫さん」
後部座席に座っている富樫に話しかける。

「なんだ」

「昨日、俺が富樫さんに対応を聞いた現場なのですが・・」

「あーあれか。結局、家族全員を撲殺しちゃったんだろ」

「え、知ってたんですか」

「スマフォのニュース速報でみたよ」

「相手を選べと言っておけばよかったです。すみません」

「子供がいたのは痛かったな。まあ、やったのは俺たちじゃないしな。それよりも、思った以上に現金を隠してたんだな」

「そうっすね。私も、びっくりしました」

富樫を乗せた車が一軒家に続く道に入った。

「富樫さん、このアジトやばくないですか?」

「ん。何がだ。警察なら大丈夫だ。管轄の警察署と近くの交番は押さえているから大丈夫だ」

「いや、そっちは心配してないのですが、なにかこの家嫌な雰囲気がするんですよ」

「周りが木々に囲まれていて森みたいだからな。天気が悪いと雰囲気が暗いよな」

「ええ。まあ」

「富樫さん、あれ、見てくださいよ」

南岡が少しおびえるようにいう。

「ほら、うちらのアジトの外壁、黒くなってませんか?外壁は確かクリーム色でしたよね」

「そうだな」

車が一軒家の庭に入り、停車した。

富樫と南岡が車からでて、一軒家を見上げた。

そこには、無数の蝉で埋め尽くされている一軒家があった。ガラスやプラスチックでできているところ、屋根以外は、ほとんど隙間もないくらい蝉がとまっている。家を少し離れて見ると黒い塗装の家のようだ。

しかし、近寄ってみると、薄曇りの空を背景に黒い蝉が壁で蠢いている。さらに、蝉は一匹も鳴いておらず、その様は異様としかいいようがない。

「いい。放っておけ」鳴かない蝉であれば、家の中にいる限り、特に問題はない。

二人は家の中に入って行った。

その後、外壁に群がっている蝉の目が次々と赤くなっていった。

5 五日目(裁きの日)

富樫は、早朝から、南丘をオレオレ詐欺のアジトであるマンションに車で向かわせた。昨日の打合せの後、監視カメラでオレオレ詐欺チームの仕事の様子は見ていたが、昨日の成果も芳しいものではない。もう一回、気合いをいれるしかない。

しかし、富樫は、強盗チームの一軒家から離れるわけにはいかなかった。現場をコントロールしなければ、仕事の成功はおぼつかないのだ。仕方なく富樫は、南岡を派遣することにした。
今日、突入する現場は2件。そのうち、最後に突入する現場は、成功すれば手に入る額がちがう。億を軽く超える。富樫が上納しなければならない1か月のノルマも、この現場を成功させるだけでクリアできる。そのため、現場にいるメンバーを多く配置した。金や宝石類を運び出すための車も2台用意した。なんとしても成功させなければならない。富樫も必死だ。1件目の現場は、突入の指示を既に出した。この現場をつつがなく終わらせて弾みをつけたい。この時間、家には婆さんしかいないことは確認済みだ。金を奪うのもたやすいだろう。

スマフォが鳴り、三原が電話にでた。現場からだ。

富樫は三原の様子をうかがう。現場からの電話は、深刻なもののようだ。三原の顔が険しくなっていく。

「連絡するから、待て」三原はスマフォを切った。

「どうした」富樫が聞く。

「どうやら、侵入するところを監視カメラに撮られていたらしく、通知を見た長男が会社から帰ってきたらしいのです」

「別に一人くらい大丈夫だろ。こっちは三人で中に入ったんだろ?」

「そうなのですが、その長男、三人の後ろからバットで殴りかかってきたらしいのです。三人の一人は、もろに頭に喰らって動けなくなったのですが、残った二人で反撃して長男を殺ったらしいのです」

「それならいいじゃないか」

「いや、その二人のうちの一人が、キレてしまって長男だけじゃなく婆さんも滅多刺しにした上に、家に火を放ってしまったらしいのです。手がつけられなくなって逃げてきたのが、さっき電話をかけてきた鈴木という学生です」

富樫の様子をうかがいながら、三原が言う。

「鈴木が、金を取るのは無理だから、逃げていいかと聞いてきています」

「クソバカが!」
富樫が立ち上がり、怒りを爆発させ叫んだ。

そばにいる男たちが縮み上がる。

窓ガラスを揺らさんばかりの富樫の怒号が響いた時、一軒家をとり囲む空気が動いた。
どんよりとした曇り空。ほとんど風の流れを感じない一軒家の周り。周辺の多数の木々を彩る緑の葉がザワザワと動き始める。何かの羽ばたきのような小さい振動音がさざなみのように一軒家の周りに拡がっていく。今にも雨を落としそうな灰色の雲が、木々と一軒家が描く色を薄暗く染めていく。そして、薄い墨汁色となった景色に、二つの赤い点が次々、次々と現れていく。
無実の人々に略奪と死をもたらす富樫とそれ以外の輩。この男たちが棲む一軒家が、まるで禍々しい血色の目に囲まれたようだ。

オレオレ詐欺のアジトに行っていた南岡の車が一軒家に通じる直線道に入った。
南岡は今日の2件の現場に、何か嫌な感じを抱いていた。最近、富樫はやりすぎている。冷静な判断ができなくなっている。それだけじゃない、あの一軒家と周辺の雰囲気は何かおかしい。とても嫌な何かを感じる。それが何かはわからない。しかし、何かが起こる気がしてならない。

あと少しだ。もう少しで一軒家の敷地内に入る。

その時、道の両側の木々から、無数の小さく黒い「もの」が飛び出してきた。羽の振動音をさせ、まるで意識をもった黒いアメーバーのような集団が南岡の車に向かっていく。真上から前後左右からその集団は車に突っ込んでいった。

「な、なんだ、なんだ・・・・」

運転席から見えるフロントガラスに無数の黒い「もの」が次々とぶつかってくる。前が見えない。いや、右も左も全て黒い「もの」で覆われているようだ。ふと、ドアガラスに目が止まった。「蝉」だ・・・・。蝉がドアガラスのゴムの部分にしがみついている。蝉の腹が見える。どんどんゴムの部分に蝉がしがみついていく。そして、しがみついている蝉に別の蝉がしがみついていく。車があっという間に蝉で覆われていく。

無数ともいえる蝉から車が狙われているこの状況で、ブレーキ踏んで止まる勇気がない。あともう少しで敷地内に入る。そこで止まって、家に逃げ込もうと南岡は考えた。

フロントガラスも蝉で覆われつくした。それでも蝉は車にぶつかってくる。覆われた蝉と蝉の間に蝉が頭から突っ込んできて止まった。南岡は蝉と目が合った気がした。その時、蝉の目が赤いことに気がつく。一匹だけじゃない、無数の赤い目がフロントガラスから覗いている。

南岡は、その赤い目から逃げるように、悲鳴をあげながら急ハンドルを切った。車のバンパーの右側が一軒家の左端をかすめるようにぶつかり、弾みで車が横転する。蝉に覆われた車が一回転、二回転、三回転して車の腹を上に向けて止まった。それはまさに蝉の最期の姿のようだ。すさまじい衝撃だったのかガソリンが漏出し始めた。南岡は逆さまになっている。早く外に出ないといけない。その時、車に近い木々から黒い雲が羽ばたきのようなうなりをあげて一斉に飛び立った。南岡の車を飲み込む。南岡がシートベルトを外し、外に出ようとドアを開ける。蝉が車内に入ってきた。南岡の体が蝉で覆われる。凄まじい爆発音がし、南岡、車、蝉を炎が包んだ。南岡が火だるまになった。絶叫しながら転がりまわっている。それでも蝉は南岡を目掛けて突っ込んで行った。

轟音を聞いた富樫、三原、残り2名の男が一軒家から飛び出してきた。

4名を待ち構えていたかのように、周辺の木々から蝉の大群が一斉に灰色の雲の下に飛び出してきた。

そして、この罪人たちに襲いかかった。

三原と2名の男は一軒家の中に逃げ込んだが、富樫は蝉の大群から逃げられなかった。

富樫の全方位から蝉が襲う。次々と富樫、髪の毛、服、顔、手にしがみついていく。富樫は走りながら手でなんとか蝉をはらいのけようとする。しかし、蝉の雲が富樫の後を追ってくる。富樫は一軒家からまっすぐ延びる道を幹線道路に向けて走る。全力で走っているからか、富樫の顔はまだ蝉の数は少ない方だ。あと、もうすこしで幹線道路だ、助けを呼べる。その時、富樫を追いかける蝉の雲が二つに分かれた。一つの蝉の雲が富樫の正面から襲いかかる。富樫は正面を見た。そこには、迫ってくる無数の蝉の赤い目が見えた。富樫は前後から完全に蝉に覆われ、そのまま幹線道路に飛び出した。猛スピードで走ってきた大型ダンプが、富樫を跳ねた。富樫の体が、幹線道路脇の木に向かって飛んでいき、先端が尖った太い枝に背中から突き刺さった。蝉の集団は、骸(むくろ)になった富樫に群がった。大型ダンプはそのまま走り去った。

3名が逃げ込んだ一軒家の外壁に次々と蝉が群がっていく。窓ガラスまで蝉でうまっていく。
突然、外壁にとりついた蝉が一斉に鳴き出した。すさまじい鳴き声だ。
それに呼応するように、蝉が木々から飛び出してくる。そして、まだ燃え続けている車に突っ込んでいく。羽に炎のドレスをまとった蝉は、外壁の蝉にしがみついていく。
その様を一軒家の中から見ていた三原が、ほかの二人を残して家から飛び出した。
三原をめがけて、炎の蝉が集団でしがみついていく。三原が許してくれと叫ぶ。しかし、蝉は次々と三原にとりついていく。全身を炎が包む。それでも、蝉はまだ執拗に三原に群がっていった。

一軒家は炎で包まれた。家の中に残された男たち。彼らがそこから出てくることはない。
地獄の業火が一軒家を燃え尽くそうとしていた。そして、その周りを、無数の蝉が狂ったように飛び回っていた。

一軒家の手前100メートルほど離れた場所に、一台の捜査車両と一台のパトカーが停車した。

捜査車両から捜査一課の原と三倉が降りる。その後をパトカーから降りた2名の警官が続いた。

「早く、消防を呼んで」

原が警官に指示する。

「火を放って逃げたのかしら」

激しく燃える一軒家を呆然とみつめながら、原が言った。

「原さん。信じられない数の蝉が周りを飛んでいます」

三倉そう言った。

「動くな」

警官2名が原と三倉に拳銃を向けている。

「悪いが、ここに近づくものは始末しろと言われているものでね。」

「あんたたち。」

両手をあげた原が、警官を睨みつける。

「お前らが、富樫の協力者か。警察内部に協力者がいるという垂れ込みがあったが・・。」

三倉が吐き捨てるように言う。

「どうとでも思ってくれていい。お前ら二人は死ぬんだからな。」

警官の一人が笑いながら言った。

その時だった。家の周りを飛び回っていた蝉が、4名に向かって襲いかかってきた。

蝉の羽が奏でる異様な音が、近づいてくる。どうして飛んでいられるのかわからないが、一軒家から火だるまになった蝉が4名を狙って飛び立つ。

これまで、一軒家とその周りにいた蝉が一直線に飛んでくる。

原と三倉は、警官に拳銃を向けられているため、動こうにも動けない。

蝉たちが原と三倉を飲み込むように見えた。しかし、蝉たちは二人を避け、警官たちに襲いかかった。

次々と警官たちに血色の目が光る蝉が取り付いていく。黒い塊に赤い目が浮かんでいる塊。それが二つ。中に警官がいるのだろう。もがいていることはわかるが、蝉の数が膨大で、人間の姿は見えてこない。
そこに、火だるまになった蝉が突撃していく。次々と火をまとった蝉が黒い二つの塊に突き刺さっていく。

「ギャーーーーーーー」

炎の中に飲み込まれた警官たちの断末魔が聞こえる。しかし、そこには人間の姿は見あたらない。見えるのは、アメーバのように動く二つの炎の塊だけだ。

二つの塊の周りには、赤眼の群れが狂ったように飛び回っていた。

原と三倉は、その様子を呆然と見つめるしかなかった。

(おわり)

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