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【短編小説】なんでも切れるハサミ

アジアの東の方にある国のお話。

そこには、高名な博士がいました。

博士は色々な発明や発見をし国民の生活をとても便利にしたり、困った人を助けたりしていました。
色々な有名な賞をもらい、国から勲章ももらいました。誰からも尊敬されていました。

博士は、ある時、何でも切れるハサミをつくればいいと思いつきました。
切るための道具をたくさん持つ必要がなくなるから、国民が助かるだろうと思ったからです。

博士は、ハサミの刃の材料である鉱物とその製法から研究し始めました。

まず、博士は、気が遠くなるような回数の試行錯誤を重ね、物を切るために必要な強度を保てる材料を見つけました。

次に、博士は、見つけた材料から、最高の強度としなやかさをを持った刃の製法を研究しました。

研究は、思った以上に時間とお金がかかりました。

色々な困難を乗り越えて、博士は、とうとう何でも切れるハサミを開発しました。

高名な博士が発明したハサミは、すぐに商品化されました。

飛ぶように売れる博士のハサミ。

分厚い鉄も紙のように切れてしまうため、プライペートでも仕事でも、博士のハサミがあれば十分になり、国民はとても喜びました。

発売されて半年ほど過ぎた頃、博士のハサミについて、噂が流れました。

博士のハサミは、物を切るだけではなく、人の縁やつながりも切ることができるという噂でした。

ハサミが何でもきれるので、そういう噂が流れるのだろうと多くの人は思いました。
そんなことができるはずがないので、すぐに噂は消えるだろうと博士は考えました。

ところが、噂は消えるどころか広まっていきました。

夫からDVを受けていた女性が、博士のハサミで、夫婦二人で撮った写真を一人ひとりに切り分けたら夫と離婚できたという噂がありました。

ほかにも、いじめを受けていた中学生がいじめを受けなくなったという噂もありました。
紙に自分の名前といじめている中学生の名前を書いて、博士のハサミで名前が別々の紙になるように切ったら、いじめている中学生が亡くなったそうです。

それ以外にも、たくさんの具体的な噂がインターネットに流れるようになりました。

博士は、新聞やテレビで、
「人の縁をこのハサミで切ることなんてできない」
と言いました。

でも、噂は消えるどころか広まっていくばかり。

困っている人が、ハサミを使って、その困りごとを解決したということなら、まだ良かったのです。
しかし、時が経つにつれて、博士のハサミを悪用したような噂が流れるようになってしまいました。

自分が応援している芸能人の結婚をやめさせるために、ハサミを使ったら成功したという噂がありました。
ライバル会社の取引を妨害するために、ハサミを使って成功したという噂もありました。

すると今度は、被害を受けた人たちの話がインターネットに流れ始めました。
博士のハサミで婚約を破棄された。
会社と会社の合併話が壊れてしまった。
家族仲の良さを妬んだ友達が両親を博士のハサミで離婚させた。
そんな噂が広まり始め、もう、止まりません。

ハサミを使ったら、自分の好きなように縁を切ることができる。
多くの国民がそう信じるようになってしまいました。

実際に縁をきることができるのかどうかはわかりませんが、結果としてそういう結果になった例がたくさんあるのは事実のようでした。

すると、今度は、離婚した、取引がうまくいかなかった、友達関係が悪くなった人たちが、博士のハサミを持っている人を攻撃するようになってしまいました。

だんだんと、国民は、自分の人間関係を怖そうとしているのではないかと、周りを疑うようになってしまいました。国全体が不穏な空気に包まれてしまい、暴力沙汰、詐欺などの犯罪が起こるようになってしまいました。

そして、何も対策をとらない政府と発明した博士に対する不満が高まっていきました。

国民の怒りを恐れた政府は、博士のハサミに欠陥があると発表して、店頭から強制的に回収しはじめました。

博士は、マスコミやインターネットを通じて、ハサミには縁を切る機能なんてないと繰り返し訴えました。

それでも、国民の動揺は収まりません。

政府は、新聞、テレビ、インターネットに博士のハサミについて報道しないように求めました。

この頃になると、多くの国民が、博士のハサミをもっていました。政府はこのハサミを強制的に回収しはじめました。

ある日の早朝、博士の家の電話が鳴りました。

博士が電話に出ました。

「もしもし」

「私は、一国民です。あなたの発明のせいで、私は不幸になりました。なので、あなたに責任を取ってもらいます」

「私は、国民の皆さんのために発明しました。縁を切ることなんてあのハサミにはできません」

「いいえ。実際にそうなりました。さっき、警察、検察、裁判所で働く人以外の国民と博士の縁をハサミで切りました。私の苦しみを味わってください。」

電話は終わりました。

「ピンポーン」

チャイムが鳴りました。

博士がインターホンに出ました。

「どなたですか。」

「博士。警察です。社会不安を起こし国家を転覆させる発明をした容疑で逮捕します。今回は、特例ですぐに裁判にかけられ、そのまま収監され、全財産は没収されるでしょう。」

博士は苦労してなんでも切れるハサミを開発したのに、全てを失ってしまいました。博士の何が悪かったのでしょう。

(終わり)

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