【短編小説】婚活魔法陣
「ねえ、ルーナ。今日はいよいよ婚活魔法陣の儀式の日よ!」
アリシアが、親友のルーナに向かって興奮気味に話しかけた。
「そうね。でも、本当に運命の相手が見つかるのかしら。そもそも、学校が公式に婚活をあっせんするなんていいのかしら」
ルーナは失笑しながら言った。
二人は、広大な魔法学校の中庭にいた。今日は、この学校に伝わる婚活魔法陣の儀式が行われる特別な日なのだ。二人の他にも女子生徒が10名以上集まっていた。その中でもルーナとアリシアは一際目立つ容姿をしていた。
「ルーナ。がんばろうね」
アリシアはルーナの手を握り、微笑んだ。
そのとき、魔法学校の教師であるファウストが現れた。ファウストは、まだ20代の魔法教師だが、学校の教師の中でも厳格なタイプで、こういう儀式を行うキャラではない。見た目も悪くないことから、女子生徒からの人気も高い。
「これより婚活魔法陣の儀式を始める。本来、婚活は学校が行うことではないが、私立学校の本校は伝統的に女子生徒に対してのみ行っている。ここに集まっている者の理想の異性を魔法でマッチングし、その者の映像が魔法陣の上に現れる。3次元映像と話すこともできる。まあ、がんばって」
ファウストは生徒たちに向かって、大きな声で告げた。
アリシアとルーナは、ほかの生徒たちとともに魔法陣の周りに集まった。魔法陣は複雑な模様で描かれており、ファウストの魔力が発動し始めるとピンクに光り始めた。
「さあ、魔法陣に願いを込めなさい。あなた方の理想の相手を呼び寄せるために必死で祈るのだ」
ファウストの合図で、生徒たちは一斉に目を閉じて願いを込め始めた。
アリシアは必死に念じた。
「どうか、私の理想の相手を見つけさせて!」
ルーナも心の中でつぶやいた。
「運命の人と巡り会えますよう」
そのとき、魔法陣の色がピンクから金色に変わった。そして強く輝き始めた。そこにいるもの達はすべて、まばゆい光に包まれた。祈っていた女子生徒は皆、自分の頭が何かと接続したように感じた。
光が収まると、目の前の光景に皆が息をのんだ。
なんと、魔法陣の上には、生徒たちの理想の相手が次々と現れ始めたのだ。
「わぁ、私の理想の王子様!」
アリシアが金髪の青年を見つめ、喜びの声を上げた。
ルーナも黒髪の男性に話しかけ、うっとりとした表情を浮かべる。ほかの女子生徒もみな同じだ。自分の理想とする相手がそこに出現したのだから当然だ。
「これ、もしかして、噂に聞いた婚活魔法陣?君が俺の相手?悪いけど顔が好みじゃない」
アリシアの前に現れた青年が、冷たい目で告げた。
「選んでくれたことは光栄に思うが、君くらいの魔力では俺の魔力とつりあわない。やはりバランスが大切だ。君に合うレベルの男が別にいると思うよ」
ルーナに現れた男性も、辛辣な言葉を投げかける。
他の生徒たちも次々と、現れた相手から酷評された。
「君の甲高い声が嫌い」
「ちょっとしか話してないけど、性格の悪さが会話に出てる」
「君の魔力は俺よりも強いが、どす黒いものを感じる。ちょっと君と近づきたくないな」
次々と辛辣な言葉が投げかけられる。
女子生徒たちの期待は見事に裏切られ、落胆の色が広がっていった。
「なにこれ・・・」
アリシアは涙を浮かべ、呟いた。
「ひどい・・・。あんなふうに言わなくてもいいのに・・・」
ルーナも悲しそうに俯く。
泣いている生徒が大多数だが、中には怒り狂っている生徒もいる。
結局、その日、カップルは一組も成立しなかった。
「君たちの理想とする相手を魔法陣は選んだ。それは間違いない。しかし、相手は君たちを受け入れなかった。今回のことをよく考え直して次に繋げてほしい。いいな」
ファウストは、生徒達を一人一人見ながら言った。
「はい・・・」
消え入りそうな声で返事をした生徒達は、黙ったまま帰っていった。
「あ、ルーナ」
ファウストが、アリシアと一緒に帰っていたルーナを呼び止めた。
「ちょっと、残ってくれ」
「え?あ、はい」
「ごめんねアリシア、先に帰っていて」
ルーナはそう言って、歩みを止めた。ファウストがルーナに近づいてくる。
「さっきの魔法陣で現れた君の理想の男なんだが・・・」
「え?」
「あれ、俺の親類なんだ。ひどいことを言ってしまってすまない」
「先生の親戚なんですか。だから、どことなく似ているんですね。まあ、いきなり魔法陣で呼び出されるのですからね。ムッとしてもしょうがないです。私の理想のタイプなのでちょっと惜しかったです」
「そうだな。で、お詫びと言ってはなんだが・・・」
「はい」
「この後、飯でもいっしょにいかないか?」
「教師が生徒誘っていいんですか?」
ルーナが怒ったように言った。
「ここ普通校じゃなくて魔法学校だからな。普通校のモラルは適用されないさ」
「そっか。それはそうですね。いいですよ。私、先生も結構好みのタイプだから」
ルーナが微笑む。
「そうだ。先生。一つ聞いていですか?」
「なんだ?」
「どうして『婚活』魔法陣なんですか?ここの生徒はまだ結婚には早い気がしますが」
「それはな。担当教師の『婚活』のためだからだよ。誰にも言うなよ」
(終わり)
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