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【ショート・ショート】愛猫

「ナー」

猫の鳴き声が聞こえる。部屋のドアの外だ。アパートの廊下に迷い込んだのかもしれない。

「カリカリカリ」

今度は、爪で引っ掻くような音がする。部屋のドアで爪研ぎしているのか。

「ニャーニャー」

また猫の鳴き声だ。声が大きくなった。目立つのは困る。追い払うしかないか。私は、部屋のドアを開けた。

猫はいない。靴を履いて廊下に出てみたが、どこにもいない。逃げたのだろうか。私は部屋の中に戻った。

「ニャ」

ドアを閉めてすぐに、また猫の鳴き声が聞こえた。

「トントン」

ドアを叩く音がする。また猫か?別の部屋でやって欲しい。私は、急いでドアを開けた。

「あなた、ここの部屋の人?」

そこには警察官がいた。

「え・・・。あ、はい。どうしたんですか?」

私は少し狼狽した。

「あなた、猫飼ってる?」

「いえ、飼ってませんが・・・」

「あなたの部屋のドアの下部やドアの前の廊下に猫のたくさんの足跡がついていてね」

「はあ」

足跡くらいでなんだというのだろう。

「それらの足跡が気になると、このアパートの住人から何件も通報が入ってね」

「そうですか」

私は少しうろたえた。

「足跡はたくさんあって、全て赤褐色なんだ。念の為に調べたところ、人の血だとわかったんだ」

「人の血?」

「そうだ。間違いない」

「なんでそんなものが・・・」

「それはわからない。ところで、君の部屋を見せてくれないかな」

警官の声が一段と強くなった

「なぜですか?」

「長谷川遥子さんが昨日の夜から行方不明で操作願いが出てる」

「そうなんですか。だといっても部屋に入るというのは、任意ですよね。それに、とても人に見せるほど綺麗じゃないですよ」

「汚れていても構わない」

「え、いや、お断りします」

私は、警察官の入室を拒否した。

「昨日の夜、長谷川遥子さんがこのアパートに入ったことは、監視カメラでわかってるんだ」

「そんな人、私の部屋にいませんよ」

「ニャー」

突然、私の部屋の中から猫の鳴き声が聞こえてきた。

「中見せてもらうよ」

警察官は半ば強引に私の部屋にはいった。

「これは・・・」

私の家の中には、血まみれの女性の死体があった。

そして、そのそばには全身が赤い色で染まった猫がいた。

猫は、冷たくなった女性の顔を愛おしそうに舐めていた。

(終わり)

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