【短編小説】永遠の絆
結婚を約束していた私の彼が、不慮の事故で亡くなって3か月が過ぎた。
3か月過ぎても私の悲しみは癒えない。日に日に深まっていくように感じる。
毎日が涙で始まり、涙で終わる。心の穴は大きすぎて、もう二度と埋まることはないように思う。
私の中から生きていく希望さえ失われていくようだった。
そんなある日曜日の朝。
珍しく雲一つない晴天に恵まれた。
部屋にこもりがちだった私は、久しぶりに外出することにした。
何となく、彼とよく訪れていた街に足が向いた。
馴染みの駅で降り、いつものようにスクランブル交差点を渡る。
ふと、視界の片隅に見覚えのあるシルエットが映る。
まさか、と思って振り向くと、彼によく似た男性が歩いていた。
背丈も、髪型も、歩き方さえもが瓜二つ。一瞬、彼が生き返ったのかと錯覚したほどだ。
だが、彼が生き返ることなどない。彼はもういない。二度と戻らない。他人の空似だと私は自分に言い聞かせた。
気を取り直して街を歩く。思い出の店を巡っていく。
しばらくぶりの外出を楽しまないといけない、私はそう自分に言い聞かせながら、通りを歩いて行った。
行き交う人混みの中で、スクランブル交差点を歩いていた、私の彼に似た男性を見かけた。すぐに人混みに紛れ、見失ってしまいそうになる。
私は無意識に彼を追いかけ、いつの間にか街の中心部まで来ていた。
そして、複合ビルの前で、その男性に追いついた。
後ろ姿は、まさに彼そのもの。
思わず、私は小走りで近づき、亡くなった彼の名を呼んでしまった。
信じられないことに、男性はクルリと振り返り、私の名を呼び返したのだ。
「僕が死んでしまったことを君がそんなに悲しんでくれていること、とても感謝しているよ。ありがとう」
微笑みながら、男性はそう話しかけてきた。
「でも、君には幸せになってほしい。いつまでも悲しみの中で暮らしてはいけないんだ。もう僕のことは忘れないといけない。そして、前を向いて歩くんだ」
涙があふれ出して、視界がぼやける。ハンカチで涙を拭った。気がつくと、目の前には見知らぬ男性が立っていた。
「どうしました?」
目の前の男性が心配そうに話しかけてきた。
「すみません、人違いでした・・・知人と間違えてしまって・・・」
「いえ、お気になさらず。でも、大丈夫ですか?泣いていらしたようですが」
「あ、大丈夫です。本当に。ご迷惑をおかけしました」
私は、頭を下げた。
「あの・・・。突然、失礼だと思うのですが、もし、よろしければ、お茶でもご一緒しませんか?この近くにお気に入りのカフェがあるんです。とってもおいしいケーキがあるんですよ。私のお気に入りなんです」
目の前の男性が私をカフェに誘った。
「もしかして・・・あなたのお気に入りのケーキって、ニューヨークチーズケーキですか?」
私は思わず聞き返した。
「えっ?よくわかりましたね。口の中でとろける食感と、レモンの爽やかな香りが絶品なんです」
目の前の男性が嬉しそうに語った。
亡くなった彼が、自分の好きなニューヨークチーズケーキの事を話した時の言葉と全く同じだった。また、涙が出た。
「はい・・・。ぜひ、ご一緒させてください」
(終わり)
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