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スピカと熊の騎士ドゥーべ

スピカはぬいぐるみの白ねずみをギュウウと抱きしめ、よろよろと走り続けた。
賢王と呼ばれたスピカの父が愛した城下町は逆賊に荒らされ見る影もない。彼女の背後で賢王リゲルの城はもはや焼け落ち、汚い煤がガラスのように澄んだ空を汚している。

スピカは大きなすみれ色の瞳からボロボロと涙をこぼした。父はもういない。彼女を秘密の地下道から逃した母の運命はわからない。
スピカの耳に、叔父が放った機械兵士どもの駆動音が迫っていた!

「ねずねず!」

疲れ切った彼女の手から唯一の友が転げ落ちる。スピカにそれを見捨てることなどできはしない!つぎつぎと甲虫に似た装甲をまとった機械兵が姿を現し、地べたに座り込んだスピカに光線銃を向ける。

スピカはか弱く震えてうずくまる!その時、建物の屋根から何かが飛び降り、はげしく地面を打ち震わせた!
謎の機械兵がスピカを守るように立ち塞がる。その姿は土偶と騎士の鎧を無理やり混ぜ合わせたような奇妙な姿だ。

「我が名は熊の騎士ドゥーべ。子ども1人を大勢で追いかけ回すとは!宮廷騎士団の名誉も地に落ちたものだ!」

ざらついた装甲の中で反響した音。ドゥーべは名乗りを上げる。かなり旧型ではあるがドゥーべが同系統機であることを察し、機械兵はポポポポと特殊音響通信を試みる。しかしドゥーべは取り合わない!

「ええい!腹から声を出せ!聴こえんわ!」
「ガガガ………所属不明の旧型め。われわれは新たなる王アルデバラン様の命により、その女を抹殺する。そこを退け」
「ふむ。聞く価値もなかったわ!少女よ、ねずみの友と少し下がっておれ」

機械兵は一斉に銃口をドゥーべに向け、殺人レーザー光を放つ。
しかしドゥーべはその身に仕込まれた無数の滑らかなモータを駆使し目にも止まらぬ速さで幅広の両手剣を抜く。常に手入れを怠らぬ刃は………どんな鏡より反射率が高い!

【続く】

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