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一夜で簡単天地創造(ただしねずみあれ)

 わたしも悪かったがムジも少しは悪いと思う。ムジが地球から来たくせにチンチラを知らないのが悪い。思わず人間でいうところの人差し指を細く伸ばしてムジの鼻の穴に突っ込み、そのまま先端を脳に突き刺してあのふかふかで素晴らしいねずみについての情報を流しこんでしまった。

「あああ!どうしよう!部屋にチンチラがいるのに!早く帰らないと!」

 ムジは涙と鼻水を垂らし、わたしの肩を掴んでゆする。揺れる両肩が根元から外れた。ムジは目を剥いてオレンジ色に輝くゼリー状の脱落面を見ている。わたしは友達の習慣に合せたい方だ。自分の体をちぎって練って四肢と頭を作り、ムジの姿を参考に組んでみたのだが接合部がまだ弱い。

「おれのぷくぷくちゃんは背中が宇宙みたいに真っ黒で……でもおなかは奇跡みたいに白くて口元がいつも微笑んでるみたいなんだ……おれのぷくぷくちゃん!おれの……」
「ムジはチンチラとは暮らしていない。わたしが脳に流した情報で混乱しているだけだ」
「おれの部屋にはぷくぷくちゃんがいるんだ!今すぐ家に帰る!」

 ムジは熊のような体格を縮めるようにしゃがんで泣いている。熊も人間も地球もこの宇宙にはもうない。すべて爆散した。

 地球があったころ、人間は死刑制度を完全撤廃した代わりに罪人をロケットで打ち上げ、刑期の分だけ宇宙に追放したという。罪の数だけ累積する刑期。罪人に天寿を全うさせないためにロケットは光の速さで宇宙を飛び回った。ムジは一億年だ。

「わかったムジ。地球を戻してやろう」

 光あれ。光ならすでにわたしの中にある。わたしの人間でいうところの心臓の位置にあるものは圧縮された金属、地球のコアだ。バラバラになった地球を持ち去ったものたちを一人一人訪ねれば、また地球を組みなおすこともできるだろう。

 ただ一つの問題は、ぷくぷくちゃん。かつての地球には存在しなかったムジのチンチラをつくり出すこと。

つづく

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