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長編連載小説『レター』第94話。

 望も、チキンカツを食べたい時は、のり弁に付いている魚のフライで我慢した。俺が、

「望、お腹空いたら、これ食べなさい」

 と言って、自分の弁当から、ご飯とおかずを分け与えた。実際、生活苦も、ここまでになると、地獄というより、天地が引っ繰り返る沙汰で、俺はいろんな意味で、人間不信に陥った。誰も信じられないと思った。当然、俺も、書き物の仕事をしながら、電話が掛かってきても、出ない時があった。人を信じられないというのは、こういう事だ。俺は、いろんな意味で、難しい状況を味わった。伯父の事務所は、留守電になっていて、職員は出ない。俺も、いろいろあった。労苦が。そして、その労苦が、俺に、文筆を更に進めた。望がギリギリまで、食事を我慢していると、俺がご飯を注いで、おかずを分ける。愛娘は黙って、食事を受け取り、自分の弁当の空いたところに、俺の分け与えた食事を入れて、食べた。恵三は認知状態。手の付けようがない。伯父は一切無視だ。俺たち家族は団結した。無駄なお金を使うまいと。妻は、パート先で必死になった。当時、望はまだ、小さいから、何も分からない。ただ、子供心ながら、大伯父に対する憎悪の心というのは、芽生えたようだ。(以下次号)

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