見出し画像

インドは旅行じゃないよ。冒険だよ。7.真っ赤なハイヒール

さあ、今回のインドの旅のメインイベント、ヒンズー教の聖地バラナシにやってきた。

ガンガー(ガンジス川)の川辺にある聖なる街。
オモチャ箱をぶっちゃけたような街。
生と死を身近に感じる街。
聖と邪が濃密に交わり漂っている街。
ハエと人の命の重さが同等になる街。
人が特別じゃない街。

表通りから細い裏道に入った所にある怪しいホテルに荷物を置く。
まあ、どのホテルも店も怪しいけど。

取り敢えず、ガンガーに挨拶に行く。
物凄く見覚えのある風景に感動する(;Д;)
憧れの街が、懐かしい街に感じた。

大通りを歩いていると、不意に日本語で怒鳴られる(゚Д゚;)
「お前らみたいのがいるから、日本はダメなんだ!!」
ぶち切れている。
髪も髭もボーボーの30代ぐらいの男だ。
インド在住5年・・・そんな感じだ。

そして手に持っていた何かを投げつけられる。
砕けたところを見ると、果物らしい。

平然としていた僕は、一気に気力が全身に行き渡った。
妻にもし少しでも当たっていたら、恐らくただでは済まさなかったと思う。

後で聞いた処によると、物を投げつけたところで怖気付くと思ったが前に出てきてビビったとw
本当にぶっ飛ばそうと思ったから殺気を感じたんだろう。

踵を返してスタスタと歩いて行くのでヨシとした。
どうせ妻に止められるのは目に見えていたし。

後にこの男とは仲良くなる。
仲介には言ってくれた友達がいたのだ。

M君は、同じホテルで知り合いになり、かなり仲良くなった。
彼はインドの日本寺の住職だったらしく、辞めた後でも内なる宇宙を彷徨い続けていた。
彼は、僕の芸術家としての考え方に興味を持ってくれて、毎日飽きもせず話し合った。
日本に帰ってからも繋がっている数少ない友達だ。

彼とはよほど縁があるらしく、インドで2回、ネパールで一回出会うことになる(゚∀゚;) 
きっと何か特別な縁があるはずだ・・・そう思って云十年・・・なーんもない。やっぱりただの偶然だったんだ(つД;)

後日、彼に連れられ、ガンジス川で瞑想している例の男と会った。
あの時は、かなりラリっていたらしく、悪いことをしたと謝ってくれた。

そしてM君は、その男に言った。
「この人は危ないよ。気を付けなよ」
「だろうと思った。言ってから後悔したもの」
いやいやいや、インド放浪1年目のM君とパスポートも切れた5年目の不法滞在者に言われたくない・・・・。

そんなことがありつつ、やっと夢にまで見たガンジス川に到着。
夕暮れに包まれるガンガーの川辺、瞑想するオレンジの袈裟を着た僧侶たち。
階段で洗濯する主婦たち。
はしゃいで泳ぐ子供たち。
その横で身体に石鹸をつけて洗う男。
歯を磨き、ペッペッと聖なる川に歯磨き粉で濁った水を吐き出す男。
両手でその水を戴き、有難そうに飲む人たち。

川幅は30メートルほど。
その中ほどを流れる流木・・・いや違う、それは枝ではなく、黒焦げになった足だ・・・。

近くに火葬場があり、そこで焼かれた遺体が流れて来るのだ。
ただし、貧乏人は十分な薪を買うことが出来ず、生焼けになるそう・・・。

その遺体が動いている。
その下から、淡水イルカが遺体と戯れているのだ。

ボートに乗り、向こう岸(あの世)に渡ってみる。
対岸は、なーーんにもない、ただの泥地、湿地帯だ。
そこにはワニがいて、遺体を処理してくれるらしい・・・。

一軒だけ、ポツーーーンと茶店がある。
そこで少し高めなチャイを飲んだ。
水はもちろん、聖なる水を使っているそうだ・・・・。

向こう岸

夕暮れ時、街のあちこちから煙が立ち上る。
夕飯の支度が始まったのだ。

その中でもひと際大きな煙を出している場所がある。
火葬場だ。

惹きつけられるように歩いて行く。
大勢の見物人が見守る中、包帯のような布でグルグル巻きにされた遺体が乗せられている薪に火がつけられる。

火が徐々に燃え広がり、遺体を包んだ。
白い布はあっという間に焼かれ、黒ずんだ遺体がはっきり見える。

お喋りなインド人も、さすがに声が出ない。
厳粛な空気に包まれたその時、女の嬌声が聞こえた。

「えっ!?!」
みんながその声の主を探している。

モノトーンの群衆の中に、ひと際目立つ真っ赤なワンピースを着た女性がいた。
彼女は誰かと大声で話している。
「わあ! 真っ黒! 気持ちわるーい」
耳を疑った。

ロングヘアーに、身体にぴったりとフィットした真っ赤なワンピース。
そして真っ赤なハイヒール

カッカッカ・・・ヒールの音を響かせ、彼女は消えていった。
辺りはまた厳粛な空気に包まれる。

どういう訳か、僕は彼女を非難出来なかった。
それどころか、カッコイイ! と思った。
あの厳粛な重々しい空気にも飲まれることなく、自分の流儀を押し通す彼女のことをカッコいい!と思ったんだ・・・・。

僕の脳裏には、今でもはっきりと焼き付いている。
燃える遺体ではなく、真っ赤なハイヒールが・・・・・。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?