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1000回遊べるRPGとは RogueEna

チュンソフトの不思議のダンジョンシリーズは発売当初は「1000回遊べるRPG」という謳い文句がありました。日本人にとってのRPGという言葉はドラゴンクエストやファイナルファンタジーを連想してしまうので、一、二度遊べば終わりというゲームじゃないよ、ということを伝えたいための物だったのだろうとは思います。

ところで、今回はその1000回遊べるRPGというのを今一度考え直してみようと思っています。ぼくが開発中のローグライク RogueEna も1000回は遊べるくらいの内容にしたいので、そのためです。

ということで、今回は題材を用意しました。勝手ながら先日レビューさせてもらった「ゆらぎ荘の幽奈さん 湯けむり迷宮」をベースに考えていきたいと思います。

先日のレビューでは、初心者向きによく出来ていて、ローグライクの入門として評価させてもらいました。今回はそのゲームルールにフォーカスして考えていきます。

ゆらぎ荘の幽奈さんは1000回遊べるのか?

個人的には1000回は遊べないと思いました。初心者向きという位置づけだから、ぼくには優しすぎるのは1つの要因でしょう。そして、1000回というのは言い過ぎですが、初心者でも何度も遊んだらぼくと同じ状況になるのではないかと思いますね。装備を育てるようなプレイをしていれば暫くは楽しめるとは思いますが、本来的なローグライクの遊び方であれば何度も遊ぶには少し退屈かなと。

十分面白いし完成度も高くて、全クリ後もぼくは結局何度かプレイしていますし、やっぱりプレイしたくなるような部分はもちろんあります。ゲームとしてはベースはローグライクとして十分に面白いわけです。でも、繰り返し遊べるように、より良くすることもできる余地もまだまだあると感じています。

1000回遊べるゲームは他に何がある?

1000回という数は例えで、何度も繰り返し遊べるように作られているゲームを挙げていこうと思います。

・オセロ
・将棋
・囲碁
・カードゲーム
・格闘ゲーム
・人狼
・オンラインFPS
・音ゲー
・・・などなど

ぱっと思いついたものだと対人ゲームが占めています。というより、対人じゃないゲームで何度も遊べるゲームって音ゲー以外に他に何があっただろうか?すぐに思いつかないくらい、オンラインゲームやボードゲームなどの対人ゲームの割合が多いんだと思います。

つまり、ローグライクはその少数派の「対人ゲームではない、くり返し遊べるゲーム」ということになります。

対人ゲームは相手の出方次第で状況が変わったり、対等な条件での駆け引きがあるので、そういった頭を使って遊ぶものは大体面白いです。人間が他の人間と競い合うこと自体が面白いし、相手も工夫しいくつものパターンが生まれるからです。詳しくは、ぼくがオンラインゲームの開発に長く携わってきた経験や知識で解説はできると思うのですが、今回は対人ゲームではないので省きます。

ゆらぎ荘のプレイは単純化してしまっている

今日もゆらぎ荘をプレイしていました。風来のシレン5もプレイしていました。比較するような形になりましたが、ゆらぎ荘では(もちろん初心者向きにデザインされているので悪いという意味ではないですが)攻略方法が単純化してしまっています。

今日やったのは「呪われている装備がたくさん出てくる持ち込み不可ダンジョン(全20フロア)」です。そのダンジョンではすべてのアイテムが未識別で、しかも装備に関してはほとんど呪われています。なので、装備してしまうと外せなくなります(装備の効果は発動します)。呪いの罠も沢山あります。

ではどうやって攻略するのかというと、次のようなパターンになります。

・序盤は入手した装備をとりあえず装着
・途中で拾った新しい装備は持ち運ぶ
・足湯があれば装備の呪いが解けるので、足湯が出たら良い装備に変更する(ただし修正値や特殊効果は未識別)
・識別する手段(鑑定士のお守り、鑑定の巻物、鑑定の忍具)があれば装備と巻物を識別、薬は飲んで識別する
・戦闘開始時は必ず、仲間と同じターンに攻撃できるように敵と隣接する
・場合によって、仲間を犠牲にして逃げ切る
・最初の10フロアはアイテム集める
・後半の10フロア(霊符、地図の巻物、気配察知のお守りなどが手に入ったあたりから)は即降り(階段を見つけ次第降りる)で良い
・食料不足になったら死を覚悟

こんな感じになります。

如何にして呪われている装備を利用して攻略していくか・・・というコンセプトを思い浮かべるようなダンジョンですが、実際は食料と識別、即降り体制への移行タイミングの見極めという、他のダンジョンと特に変わらないプレイで攻略可能です。殴り合いで勝てるフェーズでアイテムを集めて、十分集まればそれを使って戦闘を避けていく、という感じですね。

上では色々書きましたが、シンプルに言うと呪いのリスクはほぼありません。そして、呪いをうまく利用したり、解呪以外の方法で装備を外して強いものに交換するというようなプレイもありませんでした。即降りする後半は装備を活用しないからだと思います。呪いの意味が潰れてしまっていますね。

このダンジョンは例えで出したものですが、基本的にストーリーダンジョンも、持ち込み不可チャレンジダンジョンも、持ち込み可能ダンジョンも、やることは変わりません。

ではさらにこの「アイテムを集めること」と「戦闘を避ける手段」に絞ってより具体的に考えてみます。この2つは序盤のアイテム集めと、その成果を発揮する部分と言い換えることができ、ローグライクの王道的なデザインの話となります。

アイテムを集める方法は先程述べたようにマップを探索して識別。薬は飲んで、霊符は使って、湯かごは必要があれば要らないアイテムを入れて識別します。他のアイテムは識別アイテムで識別する以外は無理する必要はありません。
接敵したときは必ず1ターンで二人が攻撃するようにすると序盤なら1ターンで敵を倒すことができ、安全です。ただ1ターンで倒せるような敵は2ターン掛かっても大した問題にはなりません。2体以上の敵とたたかう時だけ気をつけるくらいで良いと思います。
これを守ればアイテム収集は特に問題なく行えます。アイテムの内容は運次第ですが、やることは単純です。食料だけは運が悪いと不足しますね。

後半の戦闘の避け方も先程述べたとおり、即降りをすれば大丈夫です。そうすれば最低限の戦闘回数で済むからです。そのためにできることは、地図の巻物が複数と気配察知のお守りが1つあれば遭遇回数を十分減らすことができますし、なくても遭遇した敵すべてに対して空間移動の霊符(魔法弾を当てたキャラクターをマップのどこかにワープさせるもの)、混乱の霊符、睡眠の霊符で処理していけば大丈夫です。
どうしても足りない場合は即降りのタイミングが早かったのだと考えてください。即降りが必要になるのは敵と殴り合いで3ターンくらい掛かるようになってきた頃ですね。こうなると無理してアイテムを消費しながらアイテム集めをしても無駄です。食料に問題がなければレベル上げになるのでやってもいいかもしれませんが、そこまで深く考えるほどこのゲームは難しくないです。

ということで、これらアイテム集めと戦闘を避ける手段が上手くいけば、無事攻略となります。

以上がゆらぎ荘の基本的なプレイサイクルとなるのですが・・・実は風来のシレンでも全く同じことが言えてしまいます。アイテムを集めて、それを使ってゴールまで対処するというプレイ。最初になるべく沢山アイテムを集めて識別済みにして、最後は極力戦闘を避けていき、無茶はせず安全第一で進んでいくこと。同じです。

これまで話したことは「問題とその対処の関係」というシンプルな話なので、ゲームの基本中の基本、ローグライクに限らず、どんなものでも最低でも満たさなければならないものでもあります。七並べや大富豪、マリオでも同じです。

ではどういう点で違っていて、ゆらぎ荘は単純に感じてしまうのか、ということを説明していきます。

手段の節約とテクニカルな攻略

結論から言うと、ゆらぎ荘では「手段の節約」と「テクニカルな攻略」が存在していません。見つけられていないだけかもしれませんが、まあ必要が無い難易度というのもありますけど、色々考えましたがほとんど見つかりませんでしたね。

集めたアイテムの数や種類が対峙する問題に対して不足してると感じたときに、ローグライクというのは盛り上がると考えていますが、ゆらぎ荘ではこういう場面に遭遇したときに『不足している=攻略不可』という状況になりやすいと感じます。「持っているアイテムの組み合わせが攻略の糸口になる」とか「この敵の特殊能力を利用して危機を乗り越える」とか、そういった発想を用いた戦略がほぼ有りません。

これは「問題とその対処の関係」が単純であるということです。

テクニカルな攻略で1つ見つけたのは、仲間を犠牲にするということですね。敵のヘイトをその仲間に集め、その仲間に移動しないよう命令すると自分は敵から逃れられます。そして安全な位置を確保すれば乗り切ることができる、というものです。仲間を失って敵がレベルアップしてしまうリスクがありますが、自分が死ぬよりマシです(次のフロアで仲間は復活します)。
あとは、吹き飛ばしと場所替えコンボでしょうか・・・。これは仲間を完全に捨てる形になるので、先程よりアイテムを消費が多いという問題があって、優先度は低いですが、仲間が死んでいたり、位置関係によってこちらしか手段が残っていない場合もあります。
あと見つけたのは、毒系の薬を投げてくる敵を利用した空腹度回復ですね。薬によるデバフは特に痛くないのですが2回投げてくるので空腹度が10回復するため、投げさせてから倒すと少し節約できます。ただ序盤にしか有効な手じゃないので、後々食料が手に入る可能性が残されている状況でそこまでする必要もないのですが。

そういったパズルっぽい戦術の数が少ないのが単純化してしまう理由だと思います。

何を変えればよいか

ではここに何を足したり変更すれば上記のようなテクニカルな方法が生まれるのでしょうか。実はこれが自分の作らねばならない RogueEna のゲームデザインのキモになっています。単純なルール・単純な効果の組み合わせの複雑度やトリッキーな利用方法といったものを、プレイヤーが頭を使って編み出して攻略していく、そんなゲームにしなければなりません。

これが達成できなければ、IPという付加価値のある「ゆらぎ荘の幽奈さん 湯けむり迷宮」のほうがずっと面白いし、ぼくが作りたいゲームにはなりません。

最後に

今回は以前書いたこのエントリの「法則はシンプルで組み合わせで面白くなるようにする」という部分、これをより明確におさらいできたのではないかと思います。

それと、繰り返しになるのですが「ゆらぎ荘の幽奈さん 湯けむり迷宮」は面白いです。ただ硬派なローグライクに慣れていると、易しく感じることと、繰り返し何度も遊ぶようにデザインされているわけでは無い、という、デザインのターゲットが違うだけの話です。題材にしたのは、基本がしっかり出来ているからです。そしてぼくが物足りないなと感じていること自体が、RogueEna を作る上でとても重要なことだからです。引き続きゆらぎ荘はプレイしていこうと思っています。

以上です。

応援してくださると嬉しいです。よろしくお願いいたします!