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さて、何を書こうか。 [全文無料てけとーエッセイ]

人生自体が基本的に受け身に構成されているぼくには、積極的に書きたいことなど大抵の場合ないのだ。

今月は翻訳の作業を進めているので、それ以外に原稿らしい原稿を書いていない。

それで、年度末に一編書いておくか、という程度のくだらない考えで電子小石板に向かっただけなのだから世話がない。

思いつかないままに書き記すだけのことだ。

  *  *  *

写真でも出発点にして連想ゲームをやろうかとも思ったのだが、目についたのがデリーの下町のナン屋の窯の絵だった。

それを起点にインドの紹介……などと進めるのは特に書きたいことでもないのでやめにする。

半発酵でピザ生地に近いナンというインドのパンは、もともとムスリムの食べ物のようだ。

庶民的な商店街にあるこのデリーのナン屋もムスリムの人たちがやっていて、近所の人が買いにくるのだろう、朝から賑わっている。

日本で見かける片方が細く、片方が太い形ではなく、長い方向にも対称な形をした細長いものと、ピザのような真ん丸のものとを売っている。

細長いのは日本にあるのと近い柔らかめの食感、真ん丸のは堅めにかりっと焼いてある。

ゴマがかかっていたりなかったり、何種類かあるのだが、いまいち分からないまま、手振りでそれをくれと言って、買って食べたのです。(おかずのカレーは別の店で買います)

でっかいのが一枚 30 - 40 円。インドは物価が安いです。

  *  *  *

それでですね、先月は気まぐれに新しいブログを一つ作ってみたりして、アフィリエイトとかポイントサイトとか、役にも立たない経済活動に血迷ってみたりしてたのですが、今月はもう少し実のあることをしようと思って、ついに十年がかりの翻訳作業の仕上げに取りかかったのです。

どこででも作業ができるように、データだけは持ってあるいていたけれど、pc代わりに使ってたタブレットをなくしたり、ブルートゥースのキーボードをなくしたりと、そういう物理的な障害もありましたが、それよりも何よりも不足していたのは、「よし仕上げてやるぞ!」という気概でありまして。

4 - 5 年前には一通りの翻訳を終えて、一社だけ出版社に連絡も取ったのです。

翻訳のサンプルも添えてメイルを送ったのですが、きちんと目を通して検討してくれていて、訳文は悪くないと思うし、内容も関心はあるのだが、ネットで少し見ただけでも著者の学術的評判が悪いので、うちのような小さなところからは出せない、大きな出版社なら興味を持つところがあるのではないか、という助言をいただいたのでした。

ここでもう少し他の出版社を当たるなりできたらよかったのですが、へたれな私はもうお腹いっぱい、そこまでやったことに満足して、その先のしんどい道のりを思うと、もう一層訳文に磨きをかけることにも気乗りがせず、そのまま放り出していたのです。

……というような経緯はありましたが、とにかく一念発起して、などというのも大袈裟な話で、一日当たり 1 - 2 時間、昨年帰国したさいに手に入れた税込み 1,650 円の青葉鍵盤を取り出して、えっちらおっちら十数ページを日々直してきた結果、もう二日もやればすべて完了というところまでようやくやってきたのです。

ペーパーバックで三百ページ、訳文が四百字換算で六百枚ほどになりますから、いや何、とんでもない時間がかかりましたけれども、いよいよ一仕事完成だなと、取らぬ狸の皮算用をしつつ、終わってもいない仕事がもう終わったつもりになって、こんな惰文を書いている始末でして。

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このところ毎回参加している note 上のアンソロジー企画ネムレヌことネムキリスペクトだが、来月のお題は蛇 。
https://note.com/murasaki_kairo/n/n52fdf2229cfd

蛇と言えば、リングワールド ( https://amzn.to/3Khwgfu ) のキャットテイルが思い浮かぶし、タニス・リーには神様が蛇から猫を作る話 ( https://amzn.to/40Pe0PM ) もあったなあ。

お題の発表記事でムラサキさんが坂口安吾の「夜長姫と耳男」 ( https://amzn.to/3zlPkD3 <-- こちらは近藤ようこの漫画版) を紹介していて、どんな話だったのかなと読んでみたら、蛇の生き血を飲んで彫り物をし、お姫様との愛憎劇を繰り広げる彫刻師の青年の話で、いやあ、やっぱり安吾です。

安吾は失敗作と言われる長編「吹雪物語」( https://amzn.to/3KkxmHq ) も読んだところなのだけれど、出てくる登場人物が男も女も安吾自身の投影という印象が強かった。

けれども、だから愚作で駄作なのかというとそうとは限らなくて、安吾という人物がその時点での限界の中で、自らの混迷を写実的に描き切ったという意味において、十分おもしろい作品になっている。昭和初期の薄暗い新潟の街を写す風俗小説という趣きでもあり。

安吾の生きる、そうした病的なまでに自己肥大した世界が、「夜長姫」などでは寓話として昇華されて、歪んではいても、いや、歪んでいるからこそ、いびつに輝く真珠のごとき作品として結晶化するわけですから、まあ大したものだと思うわけです。

とまあそんなことを書きながら、次回作についての構想が、おぼろに無意識に進んでいるのやら、進みやせずに停滞してるのやら、一寸先は闇のまま、ぼくの人生は続いてゆくのです。

[有料部にはあとがきを置きます。投げ銭がてら読んでいただけたら幸いです]

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