2020年8月5日

昨日の続きです。これから必要とされるAR体験とは、どういうものでしょうか。

妄想を広げる前に、まず現状を理解してみたいと思います。
世の中は5年前に比べ、ARの向き合い方が変わってきたと思っています。

スマホってARできるものじゃないの？

Appleは『ARKit』、Googleは『ARCore』というエンジンを、各社OSに標準搭載しました。これによって、ARエンジンがどこかなんて、死語になりました。スマホはARできるのが当たり前。

これによって、開発が柔軟になり、モジュールへのアクセスも容易になり、アプリが軽量化することができました。また、『Metal』や『Vulkan』のようなグラフィックAPIもあるため、コンテンツも効率よく高品質なオブジェクトも作り出せます。

Appleは新製品をARでプレビューしたり、Googleは検索結果をARで表現したりしていることからも、両社・両OSが、ARに対して積極的であることはよくわかります。

百聞は一見にしかずジェネレーション

勝手にこう呼んでいますが、何かを調べるときにYouTubeやInstagramから行う層のことを指しています。

ググるに新鮮味を感じ、Wikipediaの情報量に感謝していた層からすれば、情報は文字情報で得ることが当たり前でしたが、今は文字よりも、画像や動画で見て知る方がスタンダード。

Googleの検索結果で、誰がでっかいカブトムシなんて見たがるんだと思ってましたが、カブトムシの関節や触覚の形状については、文字や写真で見るよりも、この方が直感的で効率的ということが理解できました。調べるのも、スマホで行うのが当たり前なので、「わざわざARで開く？」なんてのも愚問なのかもしれません。

みなまで言うな、まずはやってみる

昨日試した『らくがきAR』も、Instagramとかもそうですが、説明やボタンがほとんどありません。

フェイストラッキングは、以前はガイドに従わせて、特徴点を作り出すのに時間が必要でした。空間のトラッキングは、OSがARをサポートするようになってからは、スマホを平面に向けてグルグルするのが『当たり前』の動作として、染み付きました。GPSが入りにくい時に、８の字にスマホを回すのと同じ感覚です。

そして、カメラのパーミッションを許可したら、即座にオブジェクトが表示されるため、「あ、こういうARなんだ」というのが直感的に伝わります。操作系も、どこか触れば何かが起こることを知って、みんなまずは試してみます。とてもインタラクティブで、一回やれば、みんな使い方を覚えます。

そのため、余計な説明やボタンがないため、AR空間となる画面を最大限に使えます。そしてユーザーは、この空間は何かが起こることを知っているのです。

ARは、セカイカメラのときのように、文字文字と情報をいっぱい表示するものだと思っていましたが、今は引き算ですね。いかにして情報を減らし、ユーザーがその世界に触れるための「余白」というものを作ることが大事なのだと学びました。

総じて思うことは、ユーザーは、もうARをARと思わずに使っているということになります。
この流れは、スマホアプリのデザインの変化に近いものを感じます。

iPhoneが登場してから5年ほど、『スキューモーフィックデザイン』というのが主流でした。

いかにして、とても小さな画面の中に、実世界のような没入感を演出するか。それがスマホアプリの課題でした。そこでAppleは、メモなら本物のような紙を、ボタンであれば思いっきり押し込めそうなボタンを、リッチなテクスチャを使って画面上に再現しました。そして、それができないアプリは、文字文字した情報で、使い方を叩き込んできました。

より美しく、よりリッチに、よりリアルに表現されたアプリこそ評価されてましたが、iOS 7の登場によって、デザイン業界は激変しました。

『フラットデザイン』という、質素で、なんの面白みのない、ミニマルなデザインをAppleが採用し、またたく間に、多くのアプリが鞍替えしました。しかしこれは、スマホユーザーの進化とネイティブ層の拡大を示唆しており、無駄を省き、デジタル空間における『直感』に適したものとなりました。

そして現在は、『マテリアルデザイン』が採用されています。デジタルオブジェクトたちに、空間という概念を与え、順序性を直感的に感じ取れるデザインです。ただの板でしかないスマホの中に、広大に広がる空間を演出するデザインに進化してきました。ユーザーは、こんな歴史を知る由もなく、スマホの画面という広大な宇宙の中を、縦横無尽に行き来しています。

振り返ると、スマートフォンは、本当に『2001年宇宙の旅』のモノリスのような存在で、我々人類は、遂に木星に到達できるほど、スマホの宇宙を遊泳できるほどまでに進化してきたのですね。

ARにおいても、最初は使い方を迷わないように示唆するUI/UXが多かったですが、現在は先程述べたように、画面に触れば何かが起こることをわかるようになるまで進化してきました。もう、カメラ・画面越しの世界は、現実世界と地続きなのです。椅子の上を触れば、そこにピカチュウが座るのです。

地続きとなれば、もうARは、現実空間にいくらでも世界を描くことが可能です。

では、何を描くのか。それを今日は語ろうと思ったのですが、長くなってしまったので、また明日。

自分がこんなに、スマホの歴史を語るようになるとは、思ってもみなかったなぁ。「へー」って声が聞こえてきそう。