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転勤

有明の海へ来た。それは、東京を出る前の最後の休日のことだった。よく晴れた午後の波は穏やかで、海浜公園の隅の方では、少し日に焼けた釣り人たちが欄干に寄りかかり、動かない竿の前でビールを飲んでいた。それは不思議と静かな空間で、波の音も風の音も、全くと言っていいほど聞こえてこなかった。木陰となったベンチに座ってそうした様子を眺めていると、あたかも、季節の変わり目に訪れる短い凪に居合わせたようであった。 ――――――― 離任日、先輩はわざわざ職場の出口まで見送りに来てくれて、「君な

    • ラン日記20220703

      20220703 昨日、夏ランの夢を見た。それはこんな夢だ。 朝、テントから抜け出て体を伸ばす。一切の思考を挟まずに僕は日焼け止めを顔にぬり、全身に虫よけスプレーをかける。ふと、自分の自転車を立てかけている木を見ると、昨日まで孵化の途中だったエゾゼミが、もう殻だけ残していなくなっている。少しだけ上を向くと、夏の音がそこらじゅうで鳴り響いている。 --- 電車が走り始める。ホームで輪行袋を持った後輩たちが、窓の外で景色と共に流れていく。僕は、またか、と思う。ここ最近、輪行

      • GWラン

        去年のランの日記を見つけたので、なんとなく手直ししてあげてみる。過去の自分の文章の拙さに毎度驚いてしまう。本当はもっと読み手に伝わりやすいものを書きたいのだけれど、今は、これが精一杯。  夕方。みんなで防波堤から足をぶらつかせて、昔のランの思い出話をしていた。今よりも少しシャイで、世の中の事なんて全然分かっていなかったあの頃。僕は目の前の相手がどんな人かということばかり考えていた。今でも、きちんと相手を見ることができているだろうか。 --- 金沢駅。激混みの駅前を抜けて

        • 季節

          朝。最近は日差しが暖かいけれど、気温はまだまだ低い。一度部屋に戻ってダウンジャケットを羽織ってから、僕は自転車にまたがった。 今日は通っている片方の小学校の、最後の勤務日だった。一応、アイフォンに挨拶の手紙も書いていった。 教室に着くと担当の生徒はおらず、校門のところでぐずっているらしかった。ひとまず現場に向かって、そこで初めてその子のお母さんを見かけた。芯はあるけど物分かりのよさそうな、どこにでもいそうなお母さんだった。 芋ほりの時に見かけた、ぬぼーっとした大柄のお父さん

          あるアニメ監督との対談

          去年の夏から週に2回、小学校で特別支援系のボランティアをしている。 今日はその学校の70周年を祝うイベントがあり、縁あって某有名アニメ監督が講演に来ていた。H.M.氏である。夏の戦。タイムスリップガール。 集会は2時間。僕は一年生の子を見ているので、長時間の全校集会なんて大丈夫かと、大いに心配した。しかし、なんと集会は教室ごとでのオンライン。画面共有なんかを使って監督がこれまで手掛けたアニメが動画で紹介され、子供たちは大盛り上がり。そして飽きてしまえば落書きしたり机で寝た

          あるアニメ監督との対談

          無題

          以前こんな人を見かけた。 その人は、いわば梯子のような人で、他人の成長の為に自らが足場になることを良しとするような人である。 その人の殺し文句は、「”自分が幸せでないと人を幸せにできない”ってほんとうかなぁ」である。 とはいえその人はマゾヒストではないので、もしも登坂者に傷つけられれば、それ相応にきちんと怒ることができるらしい。その点では健康的だ。 しかし登坂者にしてみれば、会うたびに自分の前に梯子がかけられているというのも、いったいどんな心境なのだろう。 梯子はい

          砂漠が街に入りこんだ日

          久々のnote。最近ずっと書くことが思い浮かばなかったんだけど、もう書かないことの気持ち悪さの方が勝ってしまったので、何でもいいから書くことにする。歯磨き的なね。 今日はストーリーもおポエムもなし。夢も現実もなし、希望も絶望も、愛も平和もなんもなし。なんもなしかいな、ほな般若心経やがな。 最近精神分析家がやってるゲーム実況をずっと見てる。マジおもろい。 塾での子供の成長が凄まじく、マジおもろい。関わりの中でいまいちだったところを定期的に見直して意識しつつ、まあ全体的には

          砂漠が街に入りこんだ日

          GUTI

          どんな苦しい物語でも、必ず出口が用意されている。そう思いでもしなければ、およそ人の文章なんて読んでいられないだろう。 しかし僕らの現実世界では、必ずしもそうとは限らない。そして、文章もまた人間が書いたものである以上、常に出口が用意されている保証はどこにもないのである。 箱に入れられた猫の生死を確かめるには、最後まで読んでみるほかないのだ。 僕の悩みの種は、相変わらずシェアハウスだ。まあ大概こっちが悪いのだが、全部がそうでもないというのが難しいところだ。 ところで、全体の

          メリー・クリスマス

          共同作業というものは、社会的動物と呼ばれるヒトにとって自身を定義づける本質的な行為の一つであると言えるだろう。折角の年末であるから、ここでは一つ、文を書くという行為においてそれを試してみたいと思う。 例えば今一つの短編を書くとすれば、それは季節柄クリスマスの話が良いんじゃないだろうか。そして、主人公には普段と異なる一日をプレゼントする方が、読み甲斐があるのではないだろうか。 おそらく読者の多くは、(100点満点とはいかないまでも、)やはり気の許せる相手とそれなりに楽しいク

          メリー・クリスマス

          お気持ち供養

          21時頃の電車の中というのは、まるで図鑑のようなものだ。 都会の電車に乗ってみるといい。席に座って、じっと向かいの乗客を眺めてごらんなさい。入れ代わり立ち代わりする乗客たちの人生を想像するのは、それだけできっと短編集を読んでいるようなものだから。 神田 向かいの席には全身黒服に毛虫みたいなまつ毛の金髪女子と、Here Is Loveと書かれたTシャツを着たおっさんが座って話し合っている。年の差は親子くらいだ。二人は時折視線をあげ、バーの電気が消えるまで残っていた客のことを

          お気持ち供養

          210928

          今日、背中合わせの隣家では朝から外装工事が終わらない。うるさくて、どこでもいいから出かけたかった。 友達に貸していた本を返してもらった。7年の付き合い。駅で別れた後、多分もう一生会わないんだろうなという気がして、足の力が抜けるようだった。早めについた塾の教室でひと眠りして本を読むと、少し元気が出た気がした。高校生とコロナワクチン陽性の条件付き確率について話すのは、なかなか楽しかった。自分の話に興味を持ってくれる人はどこかにはいるものだ。 なんだか、少し肩の力も抜けたような気

          日記210831

          朝の6時半。12階から見渡す家々の壁は太陽に照らされて、はるか遠くまで薄オレンジ色に統一されている。 小奇麗な1LDKには、32inchテレビと、クロスが引かれた段ボールの机が置いてあるのみ。上には焼鮭と大根の赤出汁が鎮座している。極めて薄味。美味しかったんだけど、なんか味について上手くフォローできなかった。けど作ってくれて嬉しかった気持ちは伝わってるはず、だから良しとしよう。 そういえば写真撮らなかったな。一対一でカメラを向けるのが得意じゃない。カメラのシャッターを切る

          日記210831

          日記210818

          旅行帰りの新幹線。これまで晴れたためしがない。窓越しの空には低く灰色の雲が点々と浮かんで、決まった速さで流れていく。トンネルを通るとリセット、次の景色。まるで鬱病の作家の展覧会に連れてこられたみたい。水滴は窓を水平に伝い、重力加速度9.8m/s2など無かったように流れていく。 残念だけど作品とは違って、この景色には意味などない。対話は生まれない。あるのはただ、解釈だけ。 深夜の中央線の安心感。窓からはネオンサインが見え、雨はきちんと斜めに流れていく。乗客はみなどこかの家に帰

          日記210818

          夏、夏。夏!鳥取南部町でポタリング Ver.4

          これは、鳥取県南部町のゲストハウス『てま里』でヘルパーをしている僕が、空いた時間にサイクリングをしたときの出来事を書いた日記です。こちらの続きになります。 前回の簡単なあらすじ。 緑涼し気な湖畔のカフェ『カフェ・ド・穂のか』。そこには、世界に飛び出して自らの生き方を考え続ける、有無を言わせない料理の出し方がそっくりな母子の姿がありました。 ----- 〇現在地。サイクリングはまだまだ半ば。 13:30。あつ~い。 ここから北上し、東側の道路から宿まで向かいます。そ

          夏、夏。夏!鳥取南部町でポタリング Ver.4

          夏、夏。夏!鳥取南部町でポタリング Ver.3

          どうもこんにちは、大勝です。 これは、鳥取県南部町のゲストハウス『てま里』でヘルパーをしている僕が、空いた時間にサイクリングをしたときの出来事を書いた日記です。こちらの続きになります。 簡単な前回のあらすじ。 11時。ようやくサイクリングを始めた僕。鳥取の瓦屋根に心ひかれつつ、天邪鬼な気持ちからあえて遠くの湖へ。たどり着いたカフェには準備中の看板。果たして、カフェはやっているのか。。。 --- 背水の陣です。入ってみます、カランコロンカラン。 こんにちはー。 お店

          夏、夏。夏!鳥取南部町でポタリング Ver.3

          夏、夏。夏!鳥取南部町でポタリング Ver.2

          どうもこんにちは、大勝です。 これは、鳥取県南部町のゲストハウス『てま里』でヘルパーをしている僕が、空いた時間にサイクリングをしたときの出来事を書いた日記です。こちらの続きになります。 ↓僕が泊っている『てま里』のホームページ 簡単な前回のあらすじ。 朝。お腹が空くままに宿の近くのカフェに入り、アバンギャルドおばさんの生み出す、やたらと美味いおにぎりモーニングを頂いたのでした。 ---------- カフェKoKoを出た後、一度宿に戻ってサイクリングの準備。モーニ

          夏、夏。夏!鳥取南部町でポタリング Ver.2